29日、南アフリカワールドカップ決勝トーナメント1回戦がプレトリアで行われ、パラグアイ(FIFAランキング31位)と日本(同45位)が対戦した。お互いに出方を見るような慎重な立ち上がりをみせた試合は前半を無得点で折り返す。後半に入ると完全にパラグアイペースとなり、日本は受けに回る時間が長くなる。それでも守備陣が体を張ったプレーを見せ、ゴールを許さない。90分間をスコアレスで終え15分ハーフの延長戦に入っても得点が生まれることはなく、試合はPK戦に突入。後攻の日本は3人目のDF駒野友一(磐田)がバーに当てシュートを外すと、パラグアイは5人全員が落ち着いて決めて勝負あり。日本はベスト16で姿を消すこととなった。一方のパラグアイは同国初のベスト8進出を果たした。

 南米勢の壁厚く、準々決勝進出ならず(プレトリア)
パラグアイ 0−0 日本
   (PK  −3)

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 グループFを首位で通過したパラグアイは2大会ぶりの決勝トーナメント進出となる。対する日本も同じく2大会ぶりの決勝トーナメントだが地元開催以外の大会では初の出来事だった。どちらが勝っても初のベスト8進出となる試合は、静かな立ち上がりから始まった。

 日本は1分、3分と遠目からシュートを放つが、その後はチャンスらしいチャンスを作ることができない。ボールを相手に保持され攻撃の形はなかなか組み立てられなかった。前線で待つ本田圭佑(CSKAモスクワ)にボールを入れようとするが、本田が孤立する場面が目立ち、攻めの起点とはならなかった。前半のシュートチャンスはPAの外側からのみ。22分のMF松井大輔(グルノーブル)のミドルシュート、そして40分の本田のアウトへかかったシュートの2本だ。松井のシュートはバーに阻まれ、本田のシュートはわずかに枠を外れた。

 守備面ではボールを持たれたものの、シュートチャンスに持ち込ませることはなかった。前半で決定機を許したのは20分、FWルーカス・バリオス(ドルトムント)の一度のみ。ここはGK川島永嗣(川崎F)が好セーブをみせ、ゴールを許すことはなかった。

 後半に入るとパラグアイにチャンスが多く生まれる。5分にはワンツーからゴール前へ抜け出したMFネストル・オルティゴサ(アルヘンティノス)がシュート。これはDF長友佑都(F東京)が体を投げ出し必死のクリア。11分には中盤でボールを奪われ、ゴール前で4対4の場面になる。FWエドガル・ベニテス(パチューカ)が放ったシュートにはDF中澤佑二(横浜FM)がカバーに入りコースを消す。後半は攻め込まれる場面が増えていき、段々と対応が遅れるもののDF陣が踏ん張りをみせゴールを許すことはない。

 デンマーク戦で見せたチーム全体の推進力は後半になっても表れることはなかった。36分、岡田武史監督はこれまで守備でチームを支えたMF阿部勇樹(浦和)に替え、MF中村憲剛(川崎F)を投入しリズムを変えようと試みる。交代直後にゴールの可能性を感じさせるプレーが生まれる。左サイドから上がった長友がパラグアイ人深くに侵入するとクロスを上げる。そこへMF大久保嘉人(神戸)が飛びこむもGKフスト・ビジャール(バリャドリード)と交錯しファウルの判定。タイミング良く崩しにかかったものの、ゴールにはつながらなかった。このまま90分間が終了し、15分ハーフの延長戦に突入する。

 延長前半1分、中村憲が右サイドからミドルシュートを放つもGKの好セーブでゴールならず。後半10分には途中出場の玉田圭司(名古屋)が左サイドを突破すると、ニアサイドへ入った岡崎慎司(清水)へパス。岡崎がヒールでリターンし、玉田がクロスをあげる。しかしゴール前で合わせる選手はおらず、ここも得点には至らなかった。一方、前半7分には左サイドからのクロスを中澤と闘莉王の間でうまく受けたバルデスが右足でシュート。これは川島が絶妙のタイミングで飛び出しゴールを死守する。前後半90分と延長30分でゴールが生まれなかった試合は今大会初のPK戦で決着をつけることとなった。

 日本は遠藤保仁(G大阪)、長谷部誠(ヴォルフスブルク)、駒野、本田の順でPKを蹴り、3人目駒野のシュートがクロスバーに阻まれる。対するパラグアイは1人目から4人目まで冷静にPKを決めていき、5人目のキッカー、オスカル・カルドソ(ベンフィカ)も川島の動きを読みきり右サイドへシュートを流し込む。このPKが決まった瞬間、パラグアイが日本を下し準々決勝進出を決めた。

 南アフリカW杯における日本代表の戦いはベスト16ステージで終わった。4試合を戦って2勝1敗1分け(PK戦は公式記録では引き分け扱い)の成績で大会を去る。4試合を通じてベストパフォーマンスを見せたのは3戦目の対デンマーク戦、そしてワーストパフォーマンスは初戦のカメルーン戦と今日のパラグアイ戦だった。岡田監督は大会直前に阿部を中盤の底に据え遠藤や長谷部と連係しながら試合を組みたて、トップには本田を置く4−1−4−1を採用した。付け焼刃の作戦はカメルーン戦で勝利をもたらし決勝トーナメント進出の原動力になったものの、本田へボールが収まらなければ攻めの形はほとんど生まれず、まだまだ未完の部分が多かった。個々の選手の奮闘でどうにか結果を出したが、4試合で常に同様のパフォーマンスを見せることができなかったのは、やはり準備不足に原因がある。

 PK戦でベスト8入りを逃したことを、ポジティブに考えるのもいいかもしれない。仮にPK戦で勝利を収めていても、今日のサッカーは世界8強のレベルに達していなかった。準々決勝で欧州を代表する強豪スペインやポルトガルに敗れたとすれば、ベスト8の快挙の影に隠れて反省すべき点は見えづらくなる。しかし、パラグアイという超えられそうで超えられない相手に敗れたことで、反省材料を見出しやすくなったはずだ。デンマーク戦では「0対0の引き分けを狙うような戦い方はしない」といったチームが、なぜ勝たなければいけない決勝トーナメントでは違うチームようになってしまったのか。どの試合でも同じようなパフォーマンスをするにはどうしたらいいのか。Jリーグが始まって17年。これまで日本代表はスタイルを確立することができていない。そして、それが真剣に論じられたこともなかった。岡田監督以下、23名の選手が2勝とベスト16入りという結果を残したサッカーは、今後の戦い方の一つになるかもしれない。ただし、ベスト8に届かなかったということは、これが最高の戦い方ではないということでもある。

 今大会後も日本代表が成長しつづけるには、チームにマッチしたサッカーを一貫して追求する必要がある。そしてそれが可能な監督を招へいしなければならない。デンマーク戦を目にして、代表チームにこれまでにない可能性を感じたサポーターは多いはずだ。日本代表には常に世界と戦えるチームであって欲しい。代表チームに期待したくなる、ワクワクするような高揚感をサポーターに思い出させてくれたことが、今大会最大の収穫だった。4年間は長いようで短い。2014年のブラジルで“ベスト8入り”を目指す戦いは、もう間もなく始まっていく。

(大山暁生)

【パラグアイ】
GK
ビジャール
DF
ダ・シルバ
アルカラス
モレル
ボネット
MF
オルティゴサ
→E・バレット(75分)
ベラ
リベーロス
FW
ベニテス
→バルデス(60分)
バリオス
サンタクルス
→カルドソ(94分)

【日本】
GK
川島永嗣
DF
中澤佑二
田中マルクス闘莉王
駒野友一
長友佑都
MF
阿部勇樹
→中村憲剛(82分)
長谷部誠
遠藤保仁
松井大輔
→岡崎慎司(66分)
大久保嘉人
→玉田圭司(106分)
FW
本田圭佑