29日、南アフリカワールドカップ決勝トーナメント1回戦がケープタウンで行われ、ウペイン(FIFAランキング2位)とポルトガル(同3位)が対戦した。高いテクニックを持つ両チームの対戦は序盤から攻守の切り替えが早い好ゲームとなる。立ち上がりからFWダビド・ビジャ(バルセロナ)がシュートを放ちスペインがゴールを狙う。時間が経つにつれポルトガルもカウンターで応戦するものの、前半は0対0のまま折り返す。ハーフタイムを挟んだ後半18分、華麗なパス回しから最後はビジャが叩き込みスペインが先制する。その後も攻撃の手を緩めないスペインが最後まで主導権を握り、1対0のまま試合終了。W杯で初めて実現した“イベリアダービー”を快勝したスペインがベスト8最後の席に着いた。

 ビジャが今大会4点目で得点ランクトップに並ぶ(ケープタウン)
スペイン 1−0 ポルトガル
【得点】
[ス] ダビド・ビジャ(63分)

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 FIFAランク2位のスペインと3位のポルトガルがベスト16で対戦するという贅沢な組み合わせとなった1回戦最後の試合。ケープタウンで行われたイベリアダービーは世界中のサッカーファンの期待に応える好内容のゲームとなった。

 スペインはケガの心配をされたMFシャビ・アロンソ(レアル・マドリッド)がスタメンに名を連ね、前戦と同じ布陣で試合に臨んだ。だが、今日のスペインはこれまでのスペインと明らかに違っていた。パススピードが速くドリブルの切れもこれまでより2段階は上のレベルにあった。試合に臨む姿勢もこれまでに比べ積極的。試合開始からわずか55秒、左サイドでボールを持ったFWフェルナンド・トーレス(リバプール)がカットインしながら強烈なシュートを放つ。無回転でゴールを襲ったシュートをGKエドゥアルド(ブラガ)が必死のセーブで枠の外へとかき出す。さらに3分と7分には左サイドから今度はビジャがシュートを放つ。どちらもGKに弾かれたものの、出足の鋭い攻撃でポルトガル陣内へと侵入していく。グループリーグ初戦で敗れたスペインだが、決勝トーナメントに入ってやっとW杯本番モードに突入したというところか。優勝を狙うチームは端から7試合を戦うつもりで大会に臨んでいる。4試合目で彼ら本来のスピード感あるサッカーが展開され始めた。

 一方のポルトガルはボールを持てない時間が続きながらもスペインの猛攻に耐え、反撃のチャンスをうかがう。20分、中盤でボールを受けたMFチアゴ(アトレティコ・マドリッド)が強烈なミドルシュートを放つ。これをGKイケル・カシージャス(レアル・マドリッド)が真上に弾くと、FWウーゴ・アウメイダ(ブレーメン)がヘディングで競りかけゴールを狙う。さらに28分のフリーキックのチャンス。キッカーはもちろんMFクリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリッド)だ。左サイド、30m弱から放たれた無回転シュートは出だしでやや右に曲がると、ゴール直前で急に落ちながら左へ変化する。カシージャスは体の正面でボールをかろうじて弾き得点にこそならないものの、驚異のキックでスペインゴールを脅かした。

 前半はお互いに形を作りながら0対0のままハーフタイムとなる。ここまでのボール保持率は62対38で圧倒的にスペインだった。中盤のシャビ・エルナンデス(バルセロナ)、アンドレス・イニエスタ(バルセロナ)が左サイドに開くビジャをうまく使いながら攻撃を組み立てた。それでもシュート数は10対7、枠内に限ると4対3とポルトガルも少ない手数でうまく応戦していた。ポルトガルは今大会のグループリーグで唯一失点のなかったチームだ。さしものスペインも堅守のポルトガルからゴールを奪うのは難しいかと思われた。

 後半で最初にビッグチャンスを掴んだのはポルトガルだ。6分、左サイドを一気にH・アウメイダが駆け上がるとDFジェラール・ピケ(バルセロナ)を切り返しながらかわしてシュート。これをDFカルレス・プジョル(バルセロナ)が足に当てると、ボールは軌道を変えゴール方向へ。わずかに枠の外を通過したが、あわやオウンゴールかと思われるシーンだった。

 13分、これまで交代のカードを切ってこなかった両指揮官が同時に動く。スペインのビセンテ・テル・ボスケ監督はF・トーレスに替えて長身FWのフェルナンド・ジョレンテ(アスレティック・ビルバオ)をピッチに送る。ポスト役となるジョレンテにボールを入れ、後ろに出来たスペースをシャビ、イニエスタらに使わせる作戦に出た。一方のカルロス・ケイロス監督はH・アウメイダに替えリエジソン(スポルティング)を投入。それまでサイドにいたC・ロナウドをトップへと置き換え、こちらもゴールを狙いにいく。

 作戦がはまったのはスペインだった。交代から2分後の15分、右サイドをオーバーラップしたDFセルヒオ・ラモス(レアル・マドリッド)のクロスにジョレンテがダイビングヘッド。これもGKエドゥアルドがファインセーブを見せる。さらに16分、今度は左サイドからカットインしたビジャが右足で強烈なシュートを打つ。これはゴールわずか右に逸れるが、ジョレンテがDFを引きつけて出来たスペースをビジャがうまく利用しゴールを狙った。

 スペインに待望の先制点が生まれたのは18分だ。PAやや外からイニエスタがジョレンテへグラウンダーの速いパスを入れると、すかさずリターンパスを受ける。それをアウトサイドでダイレクトパス。ゴール前に入りこんだシャビにボールを入れるとヒールパスで左へと展開する。そこへ走り込んだのはビジャだ。左足で放ったシュートは一旦エドゥアルドにセーブされるものの、跳ね返りにしっかりと反応し右足でゴールへと押し込んだ。4人が絡んだ、流れるようにボールの動くプレーでスペインが1点のリードを奪った。ビジャはこのゴールで今大会4得点となり、アルゼンチンのゴンサロ・イグアイン、スロバキアのロバート・ビテクと並んでゴールランクトップに立った。

 C・ロナウドをトップに置いたポルトガルだが、ケイロス監督の思惑通りに攻撃は組み立てられない。失点後はほとんどチャンスを作ることができず、スペインのパスサッカーに翻弄されていく。たまらず26分に2枚の交代カードを切ると再びC・ロナウドはサイドへと回る。指揮官のブレた采配が災いしたのか、ポルトガルに決定機はなかなか生まれない。終了間際にはパワープレーでゴール前に上がったDFリカルド・コスタ(リール)がDFジョアン・カプテビラ(ビジャレアル)に肘を入れたとして一発レッドで退場となり、最後までビジャの1点が重くのしかかった。

 試合はこのまま1対0でスペインが勝利。相手GKの好守によりゴールは1つしか生まれなかったが、攻撃陣はほぼ完ぺきな出来をみせてポルトガルに完勝した。ポルトガルは前半のうちに点を入れられなかったことが痛かった。後半に放ったシュートはわずかに3本で、枠内に飛んだものは0。1点差での敗退だが、隣国の無敵艦隊とは大きな力の差があったと言わざるを得ない。

 スペインは次戦、前の試合で日本に勝ったパラグアイとの対戦となる。スペインにとって準々決勝は大きな壁だ。W杯で最後に4強入りしたのは、なんと60年前の1950年ブラジル大会。以後4度、準々決勝で敗退してきた。他の準々決勝のカードと比べてみても、今回は組み合わせに恵まれている。スペインがパラグアイに敗れることは考えにくい。油断さえなければ60年ぶりのベスト4は堅い。スペインにとっての残り3試合は、無敵艦隊が真の世界王者へと上り詰めるためのステップになるのか。本調子の出てきた彼らから目が離せなくなりそうだ。

(大山暁生)

【スペイン】
GK
カシージャス
DF
プジョル
ピケ
カプテビラ
S・ラモス
MF
ブスケッツ
X・アロンソ
→マルチェナ(90+3分)
ビジャ
イニエスタ
FW
ビジャ
→ペドロ(88分)
F・トーレス
→ジョレンテ(58分)

【ポルトガル】
GK
エドゥアルド
DF
R・カルバーリョ
B・アウベス
コスタ
コエントラン
MF
ペペ
→P・メンデス(72分)
R・メイレレス
チアゴ
FW
シモン
→リエジソン(72分)
C・ロナウド
H・アウメイダ
→ダニー(58分)