女子バドミントン界のアイドル的存在として活躍していた小椋久美子さんが現役引退を表明してから半年が経つ。ブームを巻き起こした潮田玲子選手との“オグシオ”コンビを2008年限りで解消して1年。当初はロンドン五輪出場を目指していた小椋さんは、なぜ引退を決意したのか。今回、当HP編集長・二宮清純がインタビュアーを務める雑誌『第三文明』の対談コーナーにて、ラケットを置くまでの心境や潮田選手との関係について、たっぷりと語ってもらった。その一部を紹介したい。
(写真:現役復帰の可能性は「まったくない」と断言した)
二宮: 小椋さんと潮田さんのペアは北京五輪では残念ながら中国ペアに敗れてしまいました。その悔しさと経験をバネにロンドンを目指すのかなと思っていたのですが、ペアを解散しましたね。しかも小椋さんは引退を表明された。ケガや体調不良が引き金になったそうですね。
小椋: それまでも胃の調子が悪くなることはあったんですけど、昨年1年間は本当にひどい胃炎に悩まされました。他にもいろいろ体の調子がおかしくなってしまって……。

二宮: 体調を崩した原因は?
小椋: 精神的な部分が大きかったと思います。

二宮: もう少し休養して、体の回復を待つ方法もあったと思いますが、スパッと辞める決断に至ったのはなぜでしょう。
小椋: 昨年1年間は、何度も戻りたいと思ってやってきました。でも、そのたびに体調を崩してしまう。そのうち、自分の中で「もうバドミントンから離れたい」との気持ちが出てきてしまったんです。「引退」という形をとったほうが体も良くなるのではないか、と。それが決意した理由です。

二宮: 北京五輪の後は、むしろ小椋さんのほうが潮田さんより現役続行の意思がはっきりしていましたよね。それだけに引退までの葛藤は大きかったのではないでしょうか。
小椋: そうですね。正直、私も北京が終わった時点では、「ロンドンを目指す」という明確な気持ちが出てこなかったんです。でも日本に戻って、たくさんの人に「これからもまた頑張ってほしい」と応援をいただいた時に、「どこまでやれるかわからないけど、ロンドンを目指して、もう一回頑張ってみよう」という思いが出てきました。一方、潮田のほうは「まだ自分の明確な目標が見えない」と言っていましたから、今後について2人で話し合った結果、ペアを解消したんです。
 ただ、私自身も「北京オリンピックに向けて4年間やってきた練習と同じことは、たぶんできないだろう」とは思っていましたね。北京ではメダルを獲るために練習に打ちこんできましたから。ロンドンに行くとしても、まずは出場することが目標になるだろうな、とは漠然と考えていました。

二宮: ところが体調がひどくなってしまったと?
小椋: もう昨年は普通の状態にすら体が戻りませんでした。日常生活にも支障が出ていたんです。たとえば寮の部屋の台所で知らないうちにバタッと倒れていたこともありました。全然意識もなくて、気づいた時にはそこに倒れていたというか……。

二宮: えっ!? それは単に胃だけの症状じゃないでしょう?
小椋: ええ。血液検査も行ったんですが、特に異常はありませんでした。あとは胃の調子が本当に悪くて、腹痛や吐き気が何度も襲ってきた。心配して胃カメラを飲むと、何カ所も胃が炎症を起こしていました。大きな病気ではなくて一安心したんですけど、メンタル的なものもあるのでカウンセリングの先生にお会いしたりもしましたね。

二宮: いろいろ治療してみたけど、なかなか状況は好転しない。ツライ時期だったでしょう。
小椋: 「このままでは自分が壊れてしまう」。そんな危機感すら覚えました。「たぶん、ここにいたらダメなんだろうな」とも。引退を具体的に考えるようになったのはそれからですね。

二宮: 引退しても、小椋さんはバドミントンに関わり続けることと思います。どのようなことにチャレンジしていきたいですか?
小椋: 私は性格的にいくつも掛け持ちでできるタイプではないので、やはり子供たちにバドミントンを通じてスポーツの魅力を伝える活動をしたいですね。私は小さな子供たちがとても大好きです。いろいろな場所でいろいろな子供たちと一緒にスポーツを楽しみたいと思っています。夢というには、ちょっとアバウトかもしれませんが。
(写真:「多くの人にぜひ、会場で試合を観てほしい」。バドミントンへの思いは熱い)

二宮: 子供たちに教えるのはおもしろいですか?
小椋: 楽しいですね。もちろん大変なところもありますよ。自分が言っていることを聞いてくれない子供もいますから(笑)。だけど、子供って純粋なので、たとえ口の悪い男の子だったとしても、それは恥ずかしさを隠している部分だったりします。だから少しバドミントンを一緒にやれば仲良くなる。そういう意味では大人びてなくて、すごくかわいいなぁと(笑)。

二宮: 教えることによって、逆に小椋さん自身が勉強になるところもあるのでは?
小椋: ありますね。まだ私には経験がないので、どのように子供を扱えばいいのか、どうすれば子供たちがもっと喜んでくれるのか、子供目線で物事を考えるとは何なのか、分からないことだらけです。これから活動を続けていけば、子供たちからたくさんのことを教えてもらえるんじゃないかと思っています。その中で、もっと私自身も成長していきたいですね。


<8月1日発売予定の『第三文明』9月号では、さらに詳しいインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>