関西独立リーグは経営難のため、明石では6月から給与が支払えない状況に陥っています。5月の給料が一部しか振り込まれなかった時点で、資金繰りが厳しいことは薄々感じていました。私自身は年金がありますから無給でも何とかなりますが、選手たちは生活が成り立ちません。大量に選手が辞めてしまうのではないかと心配していました。
 ところが、多くの選手がありがたいことに「今年いっぱいはここで頑張りたい」と残留を決めてくれたのです。前期の終盤から後期の開幕にかけては引き分けを挟んで10連勝もしました。「苦しい中でもやっていこう」という気持ちがチームをひとつにしたのだと感じています。

 もちろん、選手たちは生活費を稼ぐため、アルバイトをしなくてはなりません。また、経費削減のため、練習グラウンドを借りられる回数も限られてきます。昨年のように試合以外の日は基本的に練習というスケジュールは組めません。週2〜3回の練習で量も減らさざるを得なくなりました。指導者も実質、私1人になりましたから打撃投手やノッカーも選手たちが交代で務めている現状です。

 多くの選手が残ったといっても今、チームにいるのは投手6名、野手7名。つまり、野手が不足しています。そこで投手を指名打者や外野手として起用する必要が出てきました。投手にも打撃練習をさせたところ、いい当たりをみせたのは2年目の大西文晴と今季入団した卜部哲郎(大阪体育大)。中でも卜部は急造外野手にもかかわらず、試合に使ってみると打率.350。今やチームの4番を務めています。投手として下半身を鍛えていたせいか スイングが非常に安定しているところが素晴らしいです。その力強さはうちの野手はおろか、NPBの選手にも引けを取らないのではないでしょうか。

 彼が投手として明石にやってきた時には、右の本格派として楽しみな素材でしたが、今では野手としてもおもしろいとみています。まだ打者としては経験不足ですから、これから打てなくなる時も出てくるでしょう。壁を乗り越え、確実性がさらに増せば、ドラフト指名も夢ではないかもしれません。

 またクリーンアップを打っているサードの深江真登(龍谷大)も明石に来て野手に転向した選手です。彼は松商学園でエースとして甲子園経験もある右腕ですが、大学では故障に悩みました。「野手ではどうか」との紹介を受けてトライアウトをしたところ、非常に足が速い。そして肩も強い。このスピードは並みではありません。しかも打撃でも、あれよあれよと打ちまくり、現在の打率は.400。NPBのスカウトにも注目していただける存在になりました。野手転向1年目のため、守備に関しては課題が多いものの、どこかのタイミングでショートにも挑戦させたいと考えています。

 正直、試合運営で精一杯の経営状態では、後期の日程も最後までこなせるか分かりません。たとえ、今シーズンはなんとか乗り切ったとしても、野球に専念できない環境で、どのくらいの選手がリーグに残るのかも不透明です。いい選手は他の社会人チームや独立リーグに流れていってしまうでしょう。リーグの方向性が見えないまま、選手を預かっているのは苦しくもあり、つらいことです。でも、だからこそ何とか上のレベルに進む選手を育てたいとの気持ちも一層、強くなってきました。

 チームとしてもリーグ発足以来、優勝ができていません。せっかく残ってくれた選手たちが最後に笑えるよう、私も精一杯やれるだけのことはやるつもりです。ぜひ、明石の皆さんには温かい支援をお願いしたいと思っています。


北川公一(きたがわ・こういち)プロフィール>:明石レッドソルジャーズ監督
1941年6月29日、兵庫県出身。甲陽学院高を経て、慶大時代は東京六大学で活躍。64年に近鉄へ入団し、3年目から外野のレギュラーに定着した。現役時代の後半は左の代打としてもプレー。74年限りで引退後は会社員生活を送っていたが、94年より社会人の神戸製鋼のコーチに。クラブチームの全播磨公式野球団でも指導をしていた。関西独立リーグの誕生に伴い、今季より明石の監督に就任。現役時代の通算成績は875試合、打率.240、18本塁打、158打点。
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