南アフリカW杯の熱狂から1カ月。いよいよヨーロッパにサッカーシーズンが訪れる。主要リーグの中で先陣を切って開幕を迎えるのはイングランド・プレミアリーグだ。昨季、4季ぶりのリーグ制覇を果たしたチェルシーを中心に20クラブが覇権を争う。“ビッグ4”と言われる強豪クラブが力をつけてきた中堅クラブをどう迎え撃つのか。これまでの勢力図が大きく変わりそうなプレミアリーグは8月14日に開幕の刻を迎える。
 09−10シーズンではトッテナムが4位に食い込む一方、リバプールが7位に低迷し、長らく続いてきた“ビッグ4”の上位寡占状態が崩された。トッテナムの他にも中東からオイルマネーが流れ込んでいるマンチェスター・シティも着実に力をつけており、CL出場圏内である4位を狙っている。リバプールも2枚看板であるフェルナンド・トーレス、スティーブン・ジェラードの引き止めに成功し、ロイ・ボジソン新監督の下で巻き返しを狙う。

 補強の少ない上位3クラブ

 昨年の王者チェルシーは、オフにミヒャエル・バラック、ジョー・コール、デコら中盤の選手を大量放出したものの、獲得したのはリバプールからヨッシ・ベナユンのみにとどまった。移籍した選手の穴は埋め切れておらず大きな戦力ダウンといえる。フランク・ランパードやマイケル・エッシェンの負担が大きくなりそうだ。ロシアマネーを武器に大型補強を行なっていたクラブだが、今季は非常におとなしい動きに終始した。ここへきてW杯で大ブレイクを果たしたメスト・エジル獲得の噂も出てきたものの、プレミアで結果を出せるかはわからず万全の補強とは言いがたい。
 さらに懸念されるのは選手の高齢化だ。各ポジションで核となる選手はディディエ・ドログバが32歳、ランパード32歳、ジョン・テリー29歳とベテランの域に差し掛かっている。彼らが故障なくシーズンを過ごさなければ連覇に向けて黄色信号が灯る。就任2年目となるカルロス・アンチェロッティは選手起用で手腕を発揮しなければならない。

 大物獲得がないのは復権を目指すマンチェスター・ユナイテッドにも言えることだ。米国人オーナーがクラブ買収時に背負った負債で選手獲得まで資金が回らない。それでもチームの完成度の高さはリーグ随一で、25シーズン目となるアレックス・ファーガソン監督も勝利への執念を失っていない。苦しい台所事情の中、新戦力として加入したハビエル・エルナンデスはメキシコ期待の22歳FW。彼が前線でマッチするようなことがあれば、課題だったウェイン・ルーニーの相棒として期待できる。互いの持ち味を出すことに成功すればプレミアリーグを代表するツートップが完成することになるかもしれない。
 獲得する選手がいなかった代わりに放出した選手もほぼいない。選手層の厚さも素晴らしく、中盤はどのような組み合わせになっても力を発揮することができる。特に両サイドのナニ、アントニオ・バレンシアのスピードは魅力だ。ルーニーがゴールを量産するためにも、この2人のアシストは不可欠だけに、チームの浮沈を握る選手になりそうだ。
 ユナイテッドにとって最も懸念されるポジションはCB。故障を抱えるリオ・ファーディナンドとパフォーマンスの低下が見られるネマニャ・ビディッチに続く選手が出てこない。ベテランのウェズ・ブラウンや20歳の若手クリス・スモーリングに最終ラインを任せるようでは心もとない。さらに今季限りでの退団が確実なGKエドウィン・ファンデルサールの後継育成も今季の課題といえる。プレミアシップだけでなく欧州CL制覇も狙うクラブにとって、10−11シーズンの明暗を決めるのはDF陣になりそうだ。

 昨季3位のアーセナルは最大の懸念材料だったセスク・ファブレガスの残留が決まった。これで大幅な戦力ダウンは免れた格好だ。前線にはロビン・ファンペルシ、セオ・ウォルコット、アンドレイ・アルシャービンと魅力あるアタッカーが揃っており、セスクが残ったことで中盤も厚みを保っている。
 ファーガソン同様、長期政権を築いているアーセン・ベンゲルは15年目のシーズンになる。ファンペルシやアルシャービンが充実したシーズンを送れば、7季ぶりのプレミア制覇と5季ぶりのCLファイナルが見えてくる。CLはクラブにとっても悲願であり、ベンゲルが最も手に入れたいタイトルだ。ベンゲルにとってアーセナルでのキャリアで総決算となるシーズンになるかもしれない。

 リバプールの意地がリーグを盛り上げる

 7位に沈んだ“ビッグ4”の一角リバプールは今オフでジョー・コールの獲得に成功した。これでジェラードが彼本来の持ち味を発揮できるセントラルMFに戻るため、チームとしてのバランスは改善されるはずだ。さらにサイドではミラン・ヨバノビッチが加わり、ディルク・カイトとともに両サイドから攻撃を仕掛ける。そしてW杯では不振だったフェルナンド・トーレスの復活が待たれる。プレミア屈指のストライカーが本来の調子を取り戻せればクラブは上昇必至だ。
 懸念されるのは退団が確定的のハビエル・マスチェラーノの代役だろう。昨季オフ、シャビ・アロンソが抜けたことにより大打撃を受けているだけに、マスチェラーノの穴を早急に埋めることが再建への第一歩となる。移籍市場が閉まる前に大物の獲得を画策したい。

 今オフも大型補強を行なったマンチェスター・シティはトゥーレ・ヤヤ、ジェローム・ボアテンク、そしてダビド・シルバとビッグネームを獲得している。それぞれ実績十分の選手たちだがトゥーレ・ヤヤ、シルバはリーガ・エスパニョーラ、ボアテンクはブンデスリーガからの移籍だ。彼らがどれだけ早くプレミアリーグの水に慣れることができるか。ここがシーズン序盤のカギになる。
 トップにはエマヌエル・アデバイヨール、カルロス・テベスというプレミアで結果を残している点取り屋がおり、さらにガレス・バリーという精神的支柱となる選手もいる。ロベルト・マンチーニ監督が個性派軍団をうまくまとめることができれば、昨季の5位を上回る可能性も十分だ。悲願のCL出場に向けて好スタートを切ることができるか。加えてCLとの両立が課題のトッテナムやマーティン・オニールが堅実なチームを作りあげたアストンビラが上位候補となる。

 リバプールが巻き返し再び“ビッグ4”の時代となるのか。それとも巨額の補強を行なったマンチェスター・シティが念願のCL出場なるか。おそらくセスクが最後のシーズンとなるアーセナルもタイトル獲得への気持ちは強い。もちろんプレミア連覇を狙うチェルシー、昨季無冠に終わったマンチェスター・ユナイテッドは欧州制覇も視野にいれながらプレミアシップを狙っている。新しい時代の扉を開けつつあるプレミアリーグから今季も目が離せなくなりそうだ。