「2月は逃げる」と言いますが、今年は例年のプロ野球キャンプにソチ五輪が重なり、いつも以上に早く“逃げた”感じがします。編集長も東京で五輪関連のテレビに出演した、その足で空港からキャンプ地に飛ぶなど、なかなかのハードスケジュールでした。

 期間中、編集長とともに沖縄へ2往復。都心の大雪で飛行機出発の大幅遅れといったトラブルにもめげず、予定通り、各球団で取材を行うことができました。

 キャンプ取材中の楽しみといえば食事。その土地土地のおいしいものに舌鼓を打ちつつ、地酒を飲み交わす(といっても僕は下戸で飲めませんが……)と、あっという間に夜は更けていきます。今回の沖縄でもアグー豚のしゃぶしゃぶや、豆腐よう、ゴーヤーチャンプルーなどを、おいしくいただきました。

 ただし、今年は編集長を交えた食事会で、ひとつだけルールがありました。それは「直箸禁止」。みんなで同じ皿を囲んで食べるのはお互いの距離が縮まるとはいえ、巷ではインフルエンザやノロウイルスも流行しています。

 編集長は日々のスケジュールが詰まっており、もしものことがあっては仕事に支障が出てしまいます。少々、かたぐるしいかもしれませんが、用心に用心を重ねるに越したことはありません。そこで店員さんに取り箸を用意してもらい、編集長が“奉行役”を務めて全員に料理をとりわけていきました。

 そんな沖縄取材も終盤にさしかかった夜のこと。この日は、地元の人たちも利用する島の大衆食堂で打ち上げです。お店のオススメは魚、ということで定番のグルクンの唐揚げや、刺身の盛り合わせを注文しました。

「このタイの刺身、おいしいな」
 編集長は盛り合わせの中にあったタイがとても気に入ったようです。盛り合わせでは少量だったため、「大将、このタイだけ、また切ってくれる?」と自ら追加注文。お皿に乗ったタイの刺身がドーンとテーブルに運ばれてきました。

「どうぞ、食べてください」と全員に箸を勧める編集長。少し泡盛も入って気分も良くなってきたのでしょうか。僕が「じゃあ、取り箸を……」と店員さんを呼ぼうとすると、編集長が「もう、直箸でとっていいよ」とひとりひとりに食べるよう促します。

「い、いいんですか……」
 そう思いつつも、全員で箸をつつき、タイの刺身はあっという間に胃袋の中へと泳いでいきました。

「もう一軒、行こうか」
 編集長の一声で、今度は場所を移しての2次会へ。しかし、移動中、どうも僕はお腹の調子が思わしくないことに気づきました。次第にお腹は痛くなり、額からは冷や汗も流れてきます。

「ちょっとスミマセン。一旦、ホテルに戻ります」
 そう皆さんに断って、部屋のトイレに駆け込むと食べたものがすべて下から出てきました(汚くてスミマセン)。すぐに胃腸薬を飲み、2次会には合流せず、そのままホテルで静養。早めの処置が良かったのか、一晩寝ると問題のないレベルまで回復していました。

 ところが……。集合時間、ホテルの部屋から出てきた編集長の表情が冴えません。
「なんか昨日、食べたものがよくなかったんじゃないかな。お腹の調子が悪いよ……」
 聞けば、編集長も深夜にだいぶ苦しい思いをしたようです。

 前日の食事でリスクがありそうなものといえばタイの刺身。しかも、何人かで直箸でパクパク食べたのですから、余計に危険度は高まります。

「調子に乗って食べるんじゃなかったなぁ……」
 そうボヤキながら、ぐったりと移動のタクシーに乗り込んだ編集長。何とか、その日の取材をこなすことができたものの、まさに油断“タイ”敵の沖縄取材となってしまいました。

(スタッフI)
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