ジキルとハイド、どころではない。スーパー・ジキルとワースト・ハイド。うっとりするほど素晴らしい日本と、信じられないほどに無残な日本。とてつもなく大きな揺れ幅を見せつけられた試合だった。
 前半、なんといっても素晴らしかったのはボランチに入った山口と青山のコンビだった。どちらの選手も相手ボールに対するアプローチが抜群に速くて強く、最終ラインの選手からすると自分たちの前にリベロが2人構えているような感じだったのではないか。
 しかも、序盤は安全第一に徹していた青山が、時間の経過とともに挑戦的なパスをちりばめ始めたのも光った。ダブル・ボランチという言葉自体はすっかりポピュラーになっているが、実際のところは、一人のハンドラー(ボランチ)と一人の守備的MFである場合がほとんどだった。山口と青山のコンビは、今後、日本代表に新たな可能性と魅力をもたらしてくれるかもしれない。

 ただ、この2人が引っ込んだ後半は、いいところを探すのが難しい内容になってしまった。前半から不安定な一面をのぞかせていた最終ラインの両サイドは、中盤の顔ぶれが変わったことでさらに危うさを増した。この試合を研究材料とするW杯の対戦国は、必ずや狙ってくるだろうなと予感させられるモロさだった。

 とはいえ、そんな後半でも収穫がなかったわけではない。10分あまりという短い出場時間ではあったが、斎藤の突破力は圧倒的だった。あの速さは、来るべきW杯でも日本のジョーカーたりうる。W杯メンバーの決定までにはまだ時間があるが、わたしの中では“当確”ランプ点灯である。

 一方で心配なのは所属チームで出場機会が激減している香川である。PKを決めたことで吹っ切れてくれることを期待したが、好調時とは比較にもならないほどにボールを失う場面が多かった。時間の経過とともにプレーする楽しさを忘れていったように見えたのはわたしだけか。

 もう一人、所属チームで苦しい立場にある本田に関しては、まずまずいいリハビリができたという感じか。週末のユベントス戦では周囲から信頼されていない辛さがにじみ出ていたが、代表では水を得た魚というか、「俺はそんなに弱ってないぞ」というプライドすら感じさせるプレーぶりだった。こちらの方は、どうやら心配なさそうである。

 振り返ってみれば、Jリーグ勢がオフ明けとなるこの時期、日本代表は低調な試合をしてしまうことがほとんどだった。お世辞にもほめられた内容とはいえない試合だったが、過去を思えば、まずまず許容範囲である。

<この原稿は14年3月6日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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