先日、講談社『本』の取材で王貞治さんに編集長がインタビューを行いました。編集長に同行し、王さんとは球場やキャンプ地などで何度もお会いしていますが、73歳とは思えない颯爽とした姿に、いつも感心させられます。

「どんな相手でも分け隔てをしない」とよく言われる王さんですが、今回も取材場所に入るなり、あの独特な声で「よろしくお願いします!」とひとりひとりに丁寧にご挨拶をしていただきました。

 なんと言っても相手は世界の王さん。恐縮しつつも、緊張して待っていたこちらの心が、その挨拶でフッと和み、インタビューが順調にスタートしました。

 高校時代やV9巨人の思い出から、監督時代に貫いた信念、日本代表への思い、球界への提言……。1時間のインタビューで話題は多岐に及びました。

 驚いたのは、編集長がどんな質問を投げ込んでも、あのどんぐり眼を一層大きくして的確に意図をとらえ、瞬時に答えを打ち返してくることです。しかも、もう何十年も前の現役時代のことでも、「あれはね~」と、つい昨日のことのように話をするのです。

 さらには何年何月と、その出来事の年月も記憶し、「確か、その日は4打数ノーヒットだったと思う」と成績まで覚えていました(しかも、後で確かめると本当にその通り!)。編集長も20年以上前の試合やインタビュー内容をディテールまで記憶し、ビックリさせられることがありますが、王さんの頭脳はそれ以上。「あの記憶力がホームランを868本も打った源だよな」と編集長も改めて感心していました。

 かつ、王さんの話はきちんと整理されていて、バッティングの話題になると身振り手振りも交え、とても分かりやすい。翌日、インタビュー内容をテープ起こしすると、非常に文字化しやすく、短時間で終了しました。手伝ってくれたY.S.君も「その場にいなかったのに、話がすごく面白くて聞き入ってしまいました」と語っていたほどです。

 1時間のインタビューはあっという間に過ぎ、王さんは次の予定へ移動しなくてはいけない時間が来ました。秘書さんから事前に聞いていた出発時間が過ぎているにもかかわらず、王さんは「大丈夫ですよ」と慌てることなく、最後の質問まできっちり答えていただきました。

 おまけに取材場所を出て、タクシーに乗る間際にも足を止め、最近のピッチャーについて語り始めたのです。その内容は「なるほど!」と目からウロコが落ちるような、超一流バッターならではの視点でした(詳しくは来月から3回シリーズで掲載する『本』をお楽しみに)。「最後にいい話聞けたなぁ」と編集長も笑顔。ギリギリまで貴重な話をしていただき、本当に頭が下がる思いでした。

 あらゆる質問に対応する力、分かりやすく話す力、時間をオーバーしても丁寧に話をするサービス精神……。王さんは現役時代、三冠王を2度獲得していますが、今の球界でも取材対応の三冠王と呼べるのではないでしょうか。残念ながら王さんのプレーをリアルタイムで観たことのない僕ですが、その偉大さを改めて感じ入った1時間でした。

 これまで何千、何万回とインタビューを受け、取材慣れしている面はあるでしょう。しかし、インタビュー時の振る舞いからは、それだけが理由ではない王さんの人間性が垣間見えたような気がします。

「ジャイアンツの選手はね、24時間、365日、ジャイアンツの選手であり続けなくてはいけないんだよ」
 王さんは取材の中で、そんなことを語っていました。周囲から常に注目される中で、巨人のスター選手として活躍し続けるのは並大抵ではなかったでしょう。

 でも、王さんは「まぁ、僕は16歳で甲子園で優勝して注目されてきたから、こんなものだと思ってましたよ。自分の中では当たり前でしたね」とサラッと言い切ります。きっと、これまでも、そして、これからも王さんは「王貞治」でい続けるはずです。

(スタッフI)
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