今年3月に行なわれた第3回ワールドベースボールクラシックで、2009年の第2回大会に続いて、日本代表の外野守備走塁コーチを務めたのが緒方耕一だ。現役時代は盗塁王に2度輝くなど、走塁のスペシャリストとして活躍。その緒方に二宮清純がインタビュー。知られざる盗塁における勝負の裏側について訊いた。
二宮: 盗塁はランナーの足と、キャッチャーとの肩との勝負と言われます。
緒方: 実はランナーにしてみたら、キャッチャーよりもピッチャーを勝負しているんです。

二宮: 盗塁のスペシャリストだった福本豊さんは「南海戦でよく走ったのは、キャッチャーの野村(克也)さんの肩が弱かったからではなく、ピッチャーのモーションが遅かったから」と言っていました。盗塁はピッチャーとの駆け引きの方が大きいと?
緒方: そうなんです。盗塁はいいスタートが切れるかどうかなんです。だからまずは、クイックが速いピッチャーとの勝負なんです。キャッチャーの肩との勝負は、その後なんですよ。僕が現役時代は、古田(敦也)さんや谷繁(元信)が素晴らしい肩とフットワーク、そしてコントロールをしていましたが、彼らとではなく、まずはピッチャーとの勝負でしたね。そういう意味では、野村さんや古田さんはピッチャーにクイックを指導した。だから、ヤクルト戦ではなかなかスタートが切れなかった。そうすると、古田さんとの勝負もできないという感じでしたね。

二宮: つまり、盗塁をされるということは、キャッチャーではなく、ピッチャーの責任の方が重大だと?
緒方: 僕はそう思いますね。

二宮: キャッチャーの肩が強いことよりも、ピッチャーにクイックを習得させることの方が盗塁を阻止できるということなんですね。
緒方: はい。よくキャッチャーの盗塁阻止率が何割という評価をしますが、僕はそのデータを見ると、いつも「このチームのピッチャーは……」とキャッチャーが誰ということよりも、ピッチャーの顔を思い浮かべるんです。もちろん、キャッチャーもそうなんでしょうけど、それ以上に「ここのチームのピッチャーは優秀なんだろな」と。

二宮: 緒方さん自身、現役時代に走る時はキャッチャーではなく、ピッチャーがクイックが速いかどうかを一番重視していた?
緒方: もちろん、あまりにも肩が弱いキャッチャーであれば別ですが、プロの一軍でマスクを被っているわけですから、そんなに肩が弱い人はいません。ですから、走ることに関して頭に入れていたのは、いつもピッチャーのことでしたよ。バッティングに関しては配球のクセがありますから、どういうキャッチャーかを知る必要はありますが、こと走ることに関しては8割方はピッチャーでしたね。

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