前回の編集長の寄稿にもあるように、クライマックスシリーズ(CS)を上から目線、もとい“下から目線”で見ている燕党のIです。

 先週末からのCS第1ステージ。職業柄、いつもは冷静に試合を見ている編集長も、さすがにカープファンの“赤い血”がメラメラと燃えていたようです。

 阪神に連勝し、突破を決めた試合後、用件があって編集長に電話をしました。
「あっ、編集長、少しいいですか?」
「I、永川(勝浩)のピッチングは見ていられなかったぞ。阪神の攻撃に助けられたな。ランナーをためられて、ひっくり返されるかとヒヤヒヤしたぞ。それに、阪神はなんで能見(篤史)を使わなかったんだ? 助かったけどな」

「……あの~」
 編集長は文字どおりの興奮状態。テンションの高さについていけず、僕は思わず、電話を切ってしまったのでした(苦笑)。

 おそらく全国のカープファンがこんな状態で突入した巨人とのファイナルステージ。第1戦はあいにく編集長は仕事が入っており、試合開始から観戦できないスケジュールでした。
 
 試合はカープが相手のエラーに乗じて2点を先制。外出先から戻ってくるやいなや、編集長は「おい、どうなっている?」と書斎のテレビのリモコンに手を伸ばします。
「おっ、勝っているじゃないか」
 編集長はスーツを着替えることもなく、ジッとテレビ画面を凝視します。

 ところが……編集長が試合を見始めた途端、巨人が追い上げを開始。4回に1点、6回に1点を返されて同点に追いつかれると、7回にはとうとう村田修一のタイムリーで逆転されてしまいます。編集長の書斎からは重い空気が漂ってきました。

 ここで編集長は社内で打ち合わせの時間。テレビの前を離れ、応接間でスタッフと話をしている間に試合は最終回となります。

 2死ながら、一、二塁と同点のチャンス。絶好の場面で打ち合わせが終わり、編集長がテレビの前に戻ってきました。
「菊池(涼介)か。一番期待できるバッターじゃないか」

 祈るように画面を見つめる編集長。その願いが届いたのか、菊池は三遊間にヒット性の当たりを飛ばします。
「よしっ!」
 編集長の声が書斎から聞こえてきた次の瞬間、状況は暗転しました。

 野球ファンなら、ご存知かとは思いますが、念のため。ショート坂本勇人がレフト前に抜けそうな打球に飛びつくと、代走で出ていた二塁走者の赤松真人が三塁をオーバーランしてしまい、あえなくタッチアウト……。無情のゲームセットとなってしまいました。

 それから、どのくらい経ったでしょうか。編集長の書斎からは物音ひとつ聞こえてきません。
「あまりのショックで茫然自失なのでは?」
 心配になって書斎をそっと覗くと、編集長は机に向かって、原稿を書いていました

「ん? 最後どうなったの? 原稿書いていて見ていなかったから分からないよ……」
 それが編集長の精一杯の強がりだったのは明らかでした。悔しさを押し殺すかのようにくしゃくしゃに丸められた原稿用紙がそこら中に転がっていたからです。

「あ~ぁ。だから見ないほうが良かったんだよ。見るとダメなんだから……。もう見ないぞ!」
 ひとりごちている背中には落胆の色がありありとうかがえました。

 続く第2戦も編集長は地方での仕事で、合間を縫ってのテレビ観戦でした。試合は頼みのエース前田健太が3ランを浴びて劣勢。カープ打線は新人の菅野智之の前に手も足も出ません。

「編集長が見ても見なくても結果は同じなんだから、気にしすぎなんじゃないかな」
 そう思ってテレビ中継を見ていると、カープに最終回、大きなチャンスがやってきます。この試合、初の連打で1死満塁。長打が出れば同点、一発が出れば逆転の場面です。

「もしかしたら……」と期待を抱かせる展開で、タイミングよく編集長からスタッフへ「逆転勝ちもあるから、録画を忘れずに」との連絡が入りました。

「おっ、編集長もテレビにかじりついているんだな」
 しかし、結果はお分かりのように、ブラッド・エルドレッド、梵英心が凡退して無得点で試合終了。果たして、編集長はどんな一夜を過ごしたのか? ちょっと怖くて僕は聞くに聞けません。

(スタッフI)
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