侍ジャパンの1球、1プレーに日本中が注目したWBCが終わりました。日本は残念がら3連覇達成となりませんでしたが、監督人事が迷走し、日本人メジャーリーガーが不在という条件を考えれば、選手たちは健闘したと言えるのではないでしょうか。
ただ、「負けに不思議の負けなし」とあるように、敗戦には必ず原因があります。あの準決勝のプエルトリコ戦では、8回、2点差と迫った場面でのダブルスチールがクローズアップされますが、日本にとって痛恨だったのは7回、アレックス・リオスに浴びた2ランではなかったでしょうか。
6回から登板した2番手の能見篤史は、ボールが高めに抜ける場面が見られ、いい当たりを飛ばされていました。6回は0点に抑えたものの、決して安心できるピッチングとは言えませんでした。
7回もマウンドに上がった左腕の姿を見て、正直、一抹の不安がよぎりました。そう感じたのは僕だけではなかったようです。
「あぁ、能見は危ないぞ。コントロールできていないから代えたほうがいい」
それまで黙ってテレビ中継を見ていた編集長が大声を出して、スタッフルームに駆け込んできました。
イヤな予感は良く当たるものです。先頭打者のマイク・アービレイスには高めに浮いた球をライト前へ運ばれました。
「もう、ここで交代だよ。右が続くんだし、右ピッチャーを出そう」
編集長はいてもたってもいられない様子です。
「じゃあ、山本浩二さんに電話したらいいじゃないですか(笑)」
冷静にテレビを見ていたHさんが、そんな冗談を飛ばすと、編集長は手にした携帯電話をギュッと握りしめます。その目は完全に勝負モードです。
「できることなら本当に電話したいよ。あぁ、ホームランを打たれそうな気がするな……」
そう言い終わるか終わらないか、テレビ画面では能見の投じたチェンジアップがリオスのバットの軌道とピッタリと合ったシーンが映し出されます。
「ほら、ほら、あぁ~」
画面が切り替わると、打球は無情にもレフトスタンドへ。あまりにも痛すぎる一発でした。
「見ろ! オレが言ったとおりじゃないか。I、何で代えなかったんだよ!」
感情の持って行き場がなかったのか、編集長はなぜか僕の背中をバシバシ叩いてきました。
「イテテテ、僕のせいじゃないですよ(苦笑)」
そういえば、4年前のWBC決勝(対韓国戦)も編集長は“予言”を的中させていました。最終回、1点リードでダルビッシュ有がマウンドに上がった場面です。
「なんかスライダーが全部外れている。これは危ないぞ……」
すると、まさに、そのスライダーを打たれ、同点に追いつかれてしまったのです。延長でイチローの決勝タイムリーが飛び出して大団円となったものの、編集長の悪い予想は、本当によく当たります。
「もう30年も、いろんな試合を見ているから、だいたいの展開は読めるんだよな、困ったことに……」
落ち着きを取り戻した編集長は、達観したようにつぶやきました。次のWBCは4年後の2017年。今度は“悪魔の予言”が出てこないことを祈りたいものです。
(スタッフI)
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