野球賭博との関与が発覚し、前大嶽親方(元関脇・貴闘力)、元大関・琴光喜が日本相撲協会から解雇されて約2カ月が経つ。12日に初日を迎える秋場所を前にして、野球賭博問題などを調査した特別調査委員会は6日、賭博の仲介役とされた三段目・古市と床山・床池を解雇、賭博に関わった力士らを出場停止や譴責処分とする最終処分案をまとめ、解散した。秋場所ではNHKの生放送や天皇賜杯授与の復活が決まり、協会としては問題の幕引きをはかりたいのだろう。しかし、本当にこれで角界は良くなるのか。「処分がフェアなものだったらオレは納得して受け入れます。でも、そうじゃないからインタビューに応じることにしたんです」。前大嶽親方がこのほど沈黙を破り、協会内部に潜む問題点を当HP編集長・二宮清純に語り尽くした。相撲界の闇はまだ深い……。
二宮: 野球賭博に関わったとして日本相撲協会を解雇され、約2カ月がたちました。現在の心境は?
前大嶽: それはものすごく反省しています。と同時にホッとしている面もある。オレが残っていたら(2月の理事選で推した弟弟子の)貴乃花親方に迷惑をかけていたかもしれないし、(義父だった)大鵬さんの顔にもっと泥を塗っていたかもしれない。なにしろ伝説の横綱ですから……。

二宮: そもそもの疑問ですが、親方はなぜ元大関の琴光喜(7月に解雇)を通じて野球賭博を行ったんですか?
前大嶽: だって考えてみてくださいよ。(琴光喜を通してやったら)足がつきますか? つかないでしょう。全部、口頭でやっているわけですから。

二宮: 親方には数千万円の借金があったとか。
前大嶽: それは違っています。オレは負けた分は全部支払った。で、500万円、オレが勝った分を(琴光喜を通して)「払ってくれ」といったら、こういう事件に発展した。

二宮: 野球賭博の仲介役となった元力士の背後に反社会的勢力がいるという認識は?
前大嶽: 脇が甘いといわれるかもしれないけど、そこまでは考えていなかった。というより、そんなことどうでもいいと思っていました。

二宮: どうでもいい、というのは?
前大嶽: 別に身内同士で楽しくやって、おカネだけちゃんとくれるんであれば……。

二宮: 元力士の古市満朝容疑者が琴光喜に口止め料として約1億円を要求したといわれていますが、どう見ても、これは破格です。
前大嶽: ヤツらは琴光喜個人から1億円とろうとしていたわけではないと思います。たまたま彼が番付が一番上だから、代表者として脅された面がある。

二宮: つまり、野球賭博をしていた力士の頭数に数百万円を掛けて1億円になったと?
前大嶽: おそらく、そういう感覚じゃないでしょうか。

二宮: そこで親方が警察に相談したら、それが漏れて発覚しちゃったと?
前大嶽: そこから先のことは言えません。もちろん賭博が悪いことはわかっています。しかし、こちらは「(脅されているから)助けてください」と警察に相談したんです。ところが、逆の目に出てしまった……。

 講談社の雑誌『G2』にて掲載されているインタビュー全文では、この後、なぜ前大嶽親方が賭博にのめり込んだのか、二宮が質問している。その背景には、“明日をも知れない命”と感じるほどの厳しい勝負の世界があった。現役時代の激しい稽古や、兄弟子によるいじめの実態も明かされる。

 そして、インタビューは今回の核心部分である前大嶽親方が賭博に対する処分をアンフェアと感じた理由に迫る。前親方は、そこに大麻問題での露鵬、白露山に対する解雇、貴乃花親方の理事当選といった一連の動きが関係していると主張した。

 もちろん、反社会的勢力とつながる行為に加担してしまった前大嶽親方らの行いは社会通念上、許されるものではない。ただ、「相撲は好きだけど、今の執行部は嫌い」と断言する、彼の言い分にも耳を傾ける価値はあるのではないか。単に悪人だと決めつけ、排除するだけでは何の解決にもつながらない。

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