史上6校目の甲子園初夏連覇を達成した興南(沖縄)。その立役者はトルネード左腕の島袋洋奨だった。
 決勝では東海大相模(神奈川)を9安打1失点に封じた。奪った三振こそ4と少なかったが、これは勝利を優先した証拠。打たせるところは打たせ、要所要所では縫い目にしっかりと指のかかったボールを投げていた。

 トルネードといえば元祖は元メジャーリーガーの野茂英雄だ。その野茂の近鉄時代の同僚・佐野慈紀は島袋をこう評していた。
「打者にとっては球の出どころがわかりにくく、しかも初速と終速があまり変わらないので、ボールの勢いを感じるでしょう。
 このフォームは誰にでもできるわけではありません。下半身、とりわけ内転筋が強くなければ、腰のターンに負けずに踏ん張ることはできないし、バランスを保つこともできません」
 もちろん課題もある。
「まだトップの位置が高いので、もう少しリリースポイントを前にもってくれば、より(ボールの)キレが増すはず。高めのストレートにも角度がつくようになると、さらに凄味を帯びてくることでしょう」
 プロのスカウトの中には「もう少し背が高かったら……」と言う者もいるが、サウスポーなら173センチもあれば十分ではないか。
 ちなみに島袋が好きなプロ野球選手にあげるスワローズの石川雅規は167センチ。小柄な石川がプロで大活躍していることを考えれば、身長は大きなハンデにはなるまい。

 気になるのは卒業後の進路だ。本人は東都リーグの中央大に進み、将来は高校野球の指導者になることを考えているようだ。
 立派な目標だが、果たしてプロのスカウトがあれほどの逸材を放っておくだろうか。プロ野球を目指す高校3年生は10月14日までに高野連にプロ志望届を提出しなければならない。現にファイターズ、ベイスターズなどが獲得に興味を示している。
 実力は申し分ない。マスクもいい。加えて沖縄の選手というところがセールスポイントになっている。
 周知のように現在、ホークス、ライオンズ、ジャイアンツを除く9球団がスプリングトレーニング(春季キャンプ)を沖縄で行っている。来季からはジャイアンツが那覇市の奥武山野球場でキャンプを張る。
「島袋が投げるとなると、オープン戦はもうそれだけで満員になりますよ。当然、フロントはそこまでソロバンをはじいている。彼がプロ志望届を出せば間違いなく上位で消えるでしょうね」(在京球団スカウト)

 沖縄における人気ナンバーワンスポーツはゴルフ。宮里藍、宮里美香、諸見里しのぶら人気女子ゴルファーを輩出している。
 プロ野球が復権するには“郷土のスター”が必要だ。“琉球のトルネード”の上陸先はどこか。注目しているのは沖縄県民だけではない。

<この原稿は2010年9月19日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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