今年もまたバスケットの季節が到来し、10月16日にはbjリーグ2010−2011シーズンが開幕した。6年目を迎えた今シーズンは秋田ノーザンハピネッツ、島根スサノオマジック、宮崎シャイニングサンズの3チームが加わり、16チームによる熱戦が全国で繰り広げられている。昨シーズンは参入2年目の浜松・東三河フェニックスが初優勝し、イースタン・カンファレンスから初めて王者が誕生した。果たして今シーズン、頂点にたどり着くのはどのチームか。今シーズンの展望と注目チームおよび選手について河内敏光コミッショナーに訊いた。
(写真:6年目にして16チームとなったbjリーグ)
 いよいよ今シーズンもbjリーグが始まりました。チーム数も16に増え、昨シーズン以上の盛り上がりを見せてくれています。各会場でのブースターの応援にも力が入っており、今後、ますますヒートアップしていくことでしょう。

 さて、今シーズンは3チームが新規参入しました。秋田、島根、宮崎です。まず秋田ですが、このチームにはプレーイングマネジャーのPG長谷川誠をはじめ、元新潟アルビレックスBBのメンバーが多くいます。ですから、新規というイメージはあまりないですね。加えて土地柄としても能代工業高校というバスケットボールの名門がある地域ですから、バスケットの目がこえている人が多い。ですから、1年目から結果を求められるのではないでしょうか。東北ダービーとなった89ERSとの開幕戦は2連敗と厳しいスタートとなりましたが、新潟、宮崎とは1勝1敗の五分。少しずつ秋田のバスケットが確立されてきているのではないでしょうか。

 チームには長谷川とF庄司和広というベテランの2人がいます。彼らがプレーで引っ張るというよりは、メンタル面でいかに若い選手をうまく乗せてあげられるかが重要でしょう。特に長谷川は指導者への道を歩み始めたわけですから、ゲーム以外のところでも選手をカバーするなど、彼自身が成長できるかどうかも大事になってきます。また、bjリーグ初となる高卒ルーキーG澤口誠にも期待したいところ。すごくいいものをもっていますから、大きく化ける可能性も十分にあります。そのためにはベテランがどう彼を気持ちよくコートに送り出せるか、乗せていけるかでしょうね。

 島根は石崎以外の日本人選手がカギに

 島根県初のプロチームとなった島根スサノオマジックには、bjリーグ初の日本代表となったPG石崎巧がいます。彼は188センチ、90キロと体格も申し分ない。あとはbjリーグの速さにどれだけついていけるかでしょう。また、将来を嘱望されている彼が、世界を熟知しているジェリコ・パブリセビッチHCが指揮するチームに入ったということも大きい。この1年で彼がどれだけ成長するか、非常に楽しみです。

 しかし、どのチームも石崎を厳しくマークすることは想像に難くありません。となれば、他の選手がノーマークになる可能性があるわけです。ですから、その選手がチームの要となると思います。特にSG横尾達泰やF仲西翔自らがアウトからのシュートの確率をどれだけ高められるか。そこが悪ければ、逆に石崎や他の外国人選手がカバーにいって、無理にシュートを打たざるを得なくなる。そうすると、島根は厳しいシーズンになってしまうでしょうね。

 宮崎シャイニングサンズはHCも選手も若い。ただ、リーダー格のG清水太志郎をはじめSF小島佑太、G伊藤拓郎、G大石慎之介とbjリーグの経験者も多く、彼らがどういうふうにチームを引っ張っていけるかがみどころですね。遠山向人HCは昨季まで浜松・東三河フェニックスの中村和雄HCの下でコーチとしてやってきました。ですから、オフェンスとディフェンスの速い切り替えを徹底させたバスケットをしてくるはずです。その遠山HCにチーム全員が信頼してついていくことができるか否かで、チームの強さがガラリと変わってくるでしょうね。

 浜松は“フォア・ザ・チーム”の徹底

 遠山HCとの師弟対決が楽しみな中村HC率いる浜松は、今シーズンは「スパイラルオフェンス」をしてきています。これまで外国人選手は自分がボールをもらったら、他の選手がスクリーンをかけに来てくれて、自分で点数を取りにいくというパターンがほとんどでした。しかし、スパイラルオフェンスでは、全員が動いて、ノーマークの選手がシュートを打つという戦略。だから外国人も日本人もないわけです。その分、外国人選手が自分を殺して、どこまでフォア・ザ・チームに徹することができるか。これがカギになってくるでしょう。

 そして他のチームのHCも皆、口をそろえて評価しているのがC太田敦也の成長ぶり。この2年間、bjリーグで外国人選手とマッチアップしてきたことで、外国人選手にも当たり負けしないフィジカルの強さが出てきました。9月に行われた日韓チャンピオンシップゲームズではMVPに輝く活躍を見せてくれました。近い将来、日本代表に選出されてもおかしくない逸材だと思います。

 初代王者に輝き、そこから3連覇と最初の黄金時代を築き上げた大阪エヴェッサですが、一昨年、昨年とプレイオフで悔しい思いをしました。今シーズンは心機一転、天日謙作前HCから昨季まで現役としてプレーしていたブラックウェルが指揮官に就任。大阪にとって新たなスタートといっていいでしょう。とはいえ、Fリン・ワシントンが中心というスタイルは変わりません。そこに昨年優勝チームの浜松からFウィリアム・ナイトが加わりましたから、今シーズンも安定したバスケットを見せてくれることでしょう。

 また、日本人選手では着実に力をつけてきたG今野翔太と琉球ゴールデンキングス(沖縄)から移籍してきたG小淵雅にも期待しています。小淵は大学時代から学生選抜のエースとして活躍してきましたし、実力は十分。テクニック、シュートの確率ともに申し分ない選手です。スピードとフィジカルの今野、テクニックとシュートの小淵の2ガードは、相手にとっては非常に嫌だと思いますよ。

 NBAの元HC&ドラフト候補選手のいる東京に注目!

 王者奪回に燃えている沖縄は、G金城茂之がケガから復帰したことが何よりも大きい。日本人選手も外国籍選手もいい補強をしましたから、今年も優勝を狙える力は十分にあります。特に新潟から獲得したG小菅直人と金城とのコンビが楽しみですね。金城はシュートが入り出したらもう手をつけられない爆発力がある。フィジカルも強いですから、自分でドライブしていって点数を取りに行くこともできる。一方、小菅には得意のジャンプシュートがあります。外国人選手でさえも、彼のジャンプシュートをブロックショットすることはなかなかできません。

 彼ら2人のシュートの確率が上がってくれば、相手ディフェンスは彼らをマークしなければならなくなる。そうなると、今度はエースのFジェフ・ニュートンやFアンソニー・マクヘンリー、それに新加入のFカルロス・ディクソンらがいきてくるわけです。彼らがインサイドで自由に暴れ出したら、沖縄は強さを発揮できると思います。ただ、昨シーズンのようにトライアングルオフェンスにこだわりすぎて、ハーフコートでのオフェンスばかりになってしまうと、インサイドが狭くなり、外国人選手が1対1で攻めるスペースがなくなってしまいます。優勝した時のようにオールコートでガンガン攻める沖縄のバスケットを取り戻すことができれば、今シーズンも間違いなく優勝争いの一角に入ってくるでしょう。

 さて、私が今シーズン最も注目しているのが、東京アパッチです。新指揮官には元NBAHCのボブ・ヒルが就任し、さらに来シーズンのNBAドラフトで指名間違いなしと言われているFCジェレミー・タイラーが加入しました。彼らがbjリーグでどんなバスケットを見せてくれるのか、考えただけでもワクワクします。

 その東京に対して、ヨーロッパで実績のある島根のジェリコ・パブリセビッチHC、米国の大学バスケット界で有名な埼玉のボブ・ナッシュHC、そしてbjリーグを代表とする浜松・東三河の中村HCがどう挑むのか。そして、日本の若いHCたちが世界のバスケットを肌で感じ、指導者としてどういうふうに成長していくのか。とにかく今シーズンのbjリーグはみどころがたくさん! ぜひ会場に足を運んでトップレベルのバスケットを楽しんでください。

河内敏光(かわち・としみつ)プロフィール>
1954年5月7日、東京都生まれ。bjリーグコミッショナー。中学からバスケットボールを始め、京北高では全国ベスト4に進出。明治大時代には全日本学生選手権3連覇を達成した。卒業後、三井生命で約10年間プレーし、日本代表としても活躍した。現役引退後、三井生命監督に就任し、実業団選手権優勝、天皇杯準優勝に導いた。94年からは全日本男子監督を務め、2000年に新潟アルビレックスの運営会社社長に就任。04年にはbjリーグを立ち上げ、完全プロ化を実現させた。

(構成/斎藤寿子)