アスリートが競技種目の枠を超えて集い、スポーツ振興や社会貢献活動を推進するための組織「一般社団法人 日本アスリート会議」が設立され、都内で発表会見が開かれた。これまでアスリートや指導者がNPO法人などを通じて個別に実施してきた活動をとりまとめ、支援する中間団体の役割を果たすことを目指す。同団体の発起人であり、日本アスリート会議の議員にも名を連ねる柳本昌一・元全日本女子バレーボール監督は「点を線で結んで、それぞれが補完しながらムーブメントを起こしていくことが必要。アスリート目線で大きなうねりを起こしていきたい」と今後の活動への意気込みを語った。
(会見に臨んだ柳本氏(左端)、陸上・為末選手(中央)、朝原氏(右から2人目)ら)
 同団体はアスリートの社会貢献活動を支援するほか、相互の活動の連携促進を図り、アスリートが社会の中で活躍する場を創出することを主な活動に掲げている。また総合型地域スポーツクラブと連携して、これらの活動に対するニーズを調査したり、諸外国のアスリート組織を参考に、日本独自の活動環境を整えるべく研究も実施する。

 さらには現場からの視点を取り入れるため、現在、社会貢献活動を組織化して実施している各競技の代表監督経験者による「日本アスリート会議」を開催。活動に関して定期的に提言を行う。この会のメンバーには、柳本氏のほか、シンクロナイズドスイミングの井村雅代・元代表ヘッドコーチ、サッカー男子の岡田武史・元代表監督、バスケットボール男子の倉石平・元代表監督、ラグビーの平尾誠二・元代表監督が議員として名を連ね、第1回ワールドベースボールクラシックの日本代表監督だった王貞治氏が顧問に就任している。

 アスリートを代表して会見に臨んだ世界陸上400メートルハードル銅メダリストの為末大選手は「日本のスポーツ界の大きな問題のひとつは縦割り。各競技での連携や交流がない」と指摘。昨年には競技の垣根を越えてアスリートの自立支援を目的とした「一般社団法人アスリートソサエティ」を立ち上げており、「10年前より社会とつながろう、他のスポーツとつながろう、地域とつながろうという選手は増えてきた。そこをつなぐ組織になるといい」と期待を寄せた。
(写真:「スポーツが社会でどんな役割を果たせるのかを示す必要がある」と課題をあげた為末選手)

 具体的には、この夏、長野県の軽井沢や福島県の南相馬など、全国4カ所で地元のクラブと連携したスポーツ体験教室を実施する。柳本氏はメジャー競技、マイナー競技にかかわらず、スポーツ全体を盛り上げて環境を整備するための「日本大運動会」の実施も1つのプランとして掲げた。
(写真:「スポーツ振興に必要なのはヒト、モノ、カネの順番ではなく、モノ(施設)、ヒト(指導者)、カネ」と考えを披露した柳本氏)

 こういったスポーツ界の横のつながりを強化する組織はカナダやイギリス、オーストラリアなどでは既に立ち上がっており、カナダでは資金を集めてアマチュア選手への支援に充てるなど、スポーツ振興や社会貢献に寄与している。倉石氏は「個別の活動では難しい部分もある。それぞれの方向性は同じ。連携し合うことで大きな力になって、この会ならではのプロジェクトができるのでは」と枠組を超えた組織の意義を語った。今後は障害者スポーツも含めて、ゆるやかに連帯を広げ、継続的に活動できる組織へと発展させていく意向だ。

 活動の原資となる各企業や団体、個人からの協賛・支援集めをはじめ、具体的なアクションを起こすのは、まだこれから。だが、昨夏には文部科学省から公表されたスポーツ立国戦略では重点項目のひとつとして、スポーツ界の連携・協働による「好循環」の創出が挙げられており、今回の団体設立は国の方針とも合致する。

「日本のスポーツにはさまざまな問題がある。それらをひとつひとつ解決していくことも大事だが、新しいシステムをつくっていくことも大事。新しい仕組みができることで、新しい日本のスポーツの形ができると思う」
 会見に同席したシドニー五輪テコンドー銅メダリストの岡本依子氏はそう語った。東日本大震災では、大勢のアスリートがそれぞれの立場で復興支援活動に協力し、スポーツの力を示した。日本の文化としてスポーツが根付き、より人々にとって身近な存在にすべく、日本アスリート会議は今後の100年をアスリートが日本を支える時代と位置付け、活動していく。