ゴールデンウィークのバレーボールの風物詩的な大会として、これまで55回にわたって開催されてきた「黒鷲旗全日本バレーボール大会」(主催/(財)日本バレーボール協会、(株)毎日新聞社)。これまでは、高校、大学、Vリーグ、クラブチームなど30チーム以上が参加して開催されてきたが、今年度からは新大会「天皇杯・皇后杯全日本バレーボール選手権大会」の新設に伴い、「黒鷲旗」は「黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会」にリニューアルされた。
 男女各16チームが参加して行われた「第56回黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会」は、これまで通り、5月の連休を利用して開催され、連日多くの観客が詰め掛けた。
(写真:大会のベスト6に選ばれた選手たち)
 存在感を示した東レ・富松 〜男子〜

 男子は、プレミアリーグ覇者に輝いたサントリーサンバーズが、全日本の主軸である越川、山村、荻野、津曲らを軸に「二冠」達成をねらったが、決勝ラウンド(各組1位の4チームのみが進出)で、リーグではケガ人の多さなどの影響を受け、7位に低迷したNECブルーロケッツに敗れた。
 準決勝に進出したのは、東レアローズ、豊田合成トレフェルサ、JTサンダーズ、NECブルーロケッツの4チーム。しかしリーグではサントリーに次ぐ準優勝の東レアローズも、主砲・ニコロフをケガで欠く苦しい布陣。代わって出場した高杉らの活躍で、リーグ4位の豊田合成トレフェルサに追随したが、盛重、川浦といった全日本復帰組を要する豊田合成トレフェルサの勢いに屈し、決勝進出を果たすことはできなかった。

 昨年、一昨年の黒鷲旗を制し、三連覇を狙った東レだが、リーグに引き続き、今季はタイトルを得る一歩手前で涙を飲んだ。しかしそのなかで、確かな存在感を示したのが、初めてのプレミアリーグでブロック賞を獲得し、新人王に輝いた富松だ。
 身長は191�と決して大きな選手ではない。ポジションはセンター、ブロックの軸を担う場所であり、同じチームである齋藤(205�)、篠田(194�)だけでなく、他チームのセンタープレーヤーのなかでも、富松が最も身長が低い。
 それだけではない。富松が、センターへとコンバートされたのは大学3年時であり、まだわずか1年半ほどにすぎない。経験、身長、ともにビハインドを背負うにもかかわらず、堂々のブロック賞に輝いた新戦力は、黒鷲旗後に本格始動する全日本メンバーにも選出された。
 昨年、東海大学4年時に出場した「黒鷲旗全日本大会」では、この試合限りでの活動休止が決まっていた旭化成スパーキッズを破り、決勝進出を果たした。一段階段を上がって迎えた黒鷲旗では、準決勝では「何もできずに終わった」と唇を噛み、3位決定戦でもJTサンダーズに敗れた。
「個人の成績云々というよりも、リーグも黒鷲も最後に負けて終わったという印象がとても強いので悔しいです。ここまでのシーズンで得た課題を克服して、さらなるレベルアップと来季こそは優勝を目指したい」
 初めてのシーズンの経験が、富松をより成長させることは間違いなさそうだ。

 3位決定戦は“メグ”“カナ”が激突! 〜女子〜

 女子はリーグを制した久光製薬スプリングスと、フルセットで女王の座を逃したJTマーヴェラスがプレミアリーグに引き続き、再び決勝戦で顔を合わせた。
 運命のいたずらか、リーグに続いたのは組み合わせだけではなく、フルセットの激戦であること、そしてその勝者が久光製薬スプリングスであることも同じ。大激戦を制して完全優勝を果たし、リーグ、黒鷲旗と最高殊勲選手に輝いた先野は「これまでいろいろなことがあったので、思いが込み上げてしまった」と大粒の涙を流した。

 女王・久光の強さが際立った今シーズンの最終戦。その前に行われた3位決定戦は、パイオニアレッドウィングスと、東レアローズの一戦。パイオニアには栗原、東レには大山。4年前のワールドカップを沸かせた“メグ”“カナ”が久しぶりに大舞台で激突した。

(写真:試合後、会見に臨む大山選手)
肩のケガで、今季のリーグはほとんど出場機会のなかった大山。選出されていた昨秋の世界選手権も辞退した。
「試合から遠ざかっていたので、試合勘がなかなかつかめず苦労した。試合に必要な体力もまだ整っていないので、後半になって息切れしてしまった」
 準決勝で敗れた後、悔しそうに話しながらも、ここまで戦える手ごたえもつかみつつあることを示し、その表情はどこか晴れやかでもあった。

 対する栗原は、準決勝でJTマーヴェラスに完敗。
「何もできなかったし、何も満足していない。言うことはありません」
 険しい表情でそう振り返った。
 チームを担うエース2人の対決。多くの観衆が、その行方を見守った。
 昨年はリーグMVPに輝いた栗原、3位決定戦でも安定したプレーでチームを牽引する。高いトスを打ち切る“パワー”の大山に対し、速いトスへの対応も巧みにこなすなど成長した姿を見せ、試合もパイオニアが先行する。
 しかしここから東レも巻き返し、大山だけでなく、全日本でもその卓越した技術で存在感を残す木村の活躍などで、2・3セットを奪い、逆に王手をかける。リーグでは6位に終わった東レが、黒鷲旗では一矢報いるかと思われたが、ここからパイオニアが“経験”の持つ強みを随所で発揮。第4セットを奪取し、第5セットもわずか2点差で制し、粘る東レを退けた。

(写真:試合を振り返る栗原選手)
 今季最終戦を終えた後、「まだまだ肩は万全ではないけれど、それなりにできるという自信はついた。これからさらに戦える身体をつくっていきたい」(大山)
「昨日に比べれば自分のプレーには満足している。全日本シーズンに向けて、もっと1つ1つのプレーをより高いものにしたい」(栗原)
 それぞれ振り返った“メグ”“カナ”の2人。初めてのワールドカップでは18歳だった2人も、今秋には22歳になる。再びその雄姿を同じ舞台で。確実に成長した姿とともに、再び2人がニッポンバレーを躍動させる。


(田中夕子)