Jの“太陽”が再び輝き始めた。
 今季、J1に戻ってきた柏レイソルが好調だ。シーズンも半ばにきて、首位と勝ち点差なしの2位。J1復帰即優勝という快挙も不可能ではない。快進撃を続けるチームとともに復活を遂げた男がいる。ベテランFWの北嶋秀朗だ。ここまで13試合に出て6ゴール。18ゴールをあげた2000年以来の2ケタ得点も見えてきた。度重なるケガを乗り越え、33歳が再びピッチで光を放っている理由はどこにあるのか。二宮清純が訊いた。
(写真:将棋が大好きで「一手先を読みながらプレーしている」と明かす)
二宮: 今季は復調と言ってもいい活躍ぶりです。その要因はどこにあるのでしょう?
北嶋: サッカーを具体化出来るようになってきました。これまでは自分の感覚でプレーしていた部分がたくさんあって、それをどう説明すればいいのか、よく分からないでいました。調子がいい時はなぜ調子がよくて、調子が悪い時はなぜ調子が悪いのか。それをもっと自分で分析できるように考える中で、自分のプレーを具体化していくことができるようになってきました。それが大きいと思います。

二宮: 北嶋さんというと昔からポストプレーに定評がありました。同じポストプレーの中でも、いろいろと質が変わってきたということでしょうか? 
北嶋: そうですね。今まではどちらかというと、フィジカルにものをいわせてボールをキープするのが好きでした。それがケガもあって、フィジカルではなく、相手の逆をとってポストプレーをすることができるようになってきた。そのプレーの分析を自分でできるようになったのが大きいかなと。

二宮: 相手の動きを把握する上で、「矢印」というものを意識しているそうですね。これは具体的にはどういうことですか?
北嶋: たとえば、僕がDFを背負ってパスを受けに行った時、相手の矢印は僕に向く。この僕に向けられる矢印がどれくらい太いかを見極めるんです。太い100%の矢印が僕に向けられている時にボールを受けに行ってしまうと、相手は僕のことがよく見えているので不利になる。でも、味方FWが他のスペースに走り込んだりして、僕に対する矢印が細かったり、ずれている時に、タイミングよく行ければ、相手はつぶしに来られない可能性が高まります。

二宮: 矢印とはいわゆる力のベクトル、向きと解釈してよいのでしょうか?
北嶋: はい。矢印を感じるために、使えるものは何でも使います。ナイターだったら、照明に照らされた影が使えます。あとは気配や雰囲気、足音や表情ですね。チラッと顔を見た時、“絶対削ってやる”という表情をしている相手もいます。そこに入っていくと、ボールを取られる可能性が高い。

二宮: 中には矢印が3本くらい出ている選手もいるのでしょうか?
北嶋: 守備がうまい選手になれば、その可能性もあります。しかしディフェンスには、ある程度の原理や原則がある。だから、その逆を突いていけばいい。そこが分かってきた去年、一昨年くらいからはサッカーがすごく楽しくなってきました。

二宮: 今季は3試合連続ゴールも決めましたし、この調子なら“もう一度代表へ”という声も出てくるのでは……。
北嶋: 代表はもちろん憧れの場所ですし、そういう場所を常に目指せる選手でいたい気持ちはあります。けれども、今のレイソルを見ると、菅野(孝憲、GK)、近藤(直也、DF)や大谷(秀和、MF)と、代表に行ける若手がたくさんいます。(アルベルト・)ザッケローニ監督には、ぜひ彼らを見て欲しい気持ちが強いですね(笑)。
(写真:4月にはJ1通算50ゴールを達成。「僕なりの歴史があるので、自分には誇っていいかな」)

二宮: 今、名前が挙がった選手たちの働きもあって、チーム自体も調子がいい。就任3年目のネルシーニョ監督の采配には定評があります。ヴェルディ川崎(当時)の監督時代もシステムを大胆に変えて、それがハマっていました。
北嶋: 現在のレイソルは前半でうまくいかなくても、ハーフタイムでチームがガラッと変われる強みがあります。そのひとつの理由として、やはりネルシーニョ監督の戦術眼は大きいですね。監督の出す指示には明確な理由があって、その結果、良くなることも多いし、交代で入った選手が活躍することも少なくない。

二宮: ネルシーニョは北嶋さんにどんな指示を?
北嶋: 主に相手のボランチとCBの間のところでうまくボールを受けてくれという指示です。あとは守備面で、追い方の指示がすごく細かいです。「相手のボランチを切りながら、そこにパスを入れさせないように」とか、「返されたボールに対しては、中から追って外に出すようにプレスをかけろ」とか。

二宮: レイソルはまだリーグ戦での優勝はありません。今年は手応えがあるのでは?
北嶋: それは、すごく感じています。昨年から積み上げてきたことにチーム全体が自信を持っていますから。ただ、優勝とかあまり先を考えずに戦うことも大切だと思っています。J2だった昨季も1試合1試合、全力でぶつかっていくスタイルで2回しか負けなかった。だから、次節の相手をどう攻略するか、そこで自分がどのようにゴールを決めるかに集中しています。

二宮: リーグ戦で3位以内、もしくは天皇杯で優勝すれば、アジアチャンピオンズリーグの出場権を得られます。そこを勝ち抜けばクラブW杯もある。どのクラブにも世界一になれるチャンスが出てきました。
北嶋: 真剣勝負で世界のビッグクラブとプレーすることは、一昔前までは考えられなかったことです。ぜひクラブW杯にレイソルを出場させたいし、僕も出たい。レイソルを世界一にさせることが夢ですね。

<現在発売中の『ビッグコミックオリジナル』(小学館2011年8月5日号)に北嶋選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください。>