5度目の五輪へ、大きな試練がやってきた。
 ボートの武田大作選手(ダイキ)は8日からスイス・ルツェルンで開催された「FISAワールドカップ第3戦」に参戦。夜久智広選手(東レ滋賀)と組んだ軽量級ダブルスカルで22位に終わり、8月28日に開幕する世界選手権(スロベニア・ブレド)の出場ができなくなった。この世界選手権はロンドン五輪の選考レースも兼ねている。武田は過去、シドニー、アテネ、北京と前年の世界選手権で上位に入って五輪の切符を得ていただけに、ロンドンに向けて大きな軌道修正を迫られることになった。帰国直後の武田に現在の心境と今後を訊ねた。
――ワールドカップでは記録が伸びず、22位と残念な結果でした。敗因は?
武田: このレースで18位以内に入ることが世界選手権出場の条件でした。そのくらいの成績は残せると思っていただけに誤算でしたね。ただ、夜久君とペアを組んだのは3カ月前。2人の感覚を合わせ、コンビネーションを高めるには時間があまりにも短すぎました。これが現実なので仕方ないと思っています。

――夜久選手は昨年の日本選手権で武田さんに次いでシングルスカルで2位になった選手です。実際に組んでみての印象は?
武田: 彼はフィジカルも強く、向上心もいいものを持っています。それがペアを組んだ最大の理由です。でも、大学からボートを始めたため経験が浅く、技術的にクセがある。たとえば漕ぐ際に体がねじれてしまうので、オールの動きに左右差が出ているんです。国内なら、これでも勝てますが、世界ではわずかな差が命取りになる。僕と組んでからは、その修正に取り組んできました。

――6月にオランダ・アムステルダムで行われた「ロイヤル・オランダカップ」では優勝。幸先の良いスタートを切ったように感じましたが……。
武田: 夜久選手は世界を舞台に転戦するのは今シーズンが初めて。だから国際大会の雰囲気に慣れてほしいと思って出場しました。正直、レベル的には勝って当然のレース。優勝したことよりも翌日が3位に終わった点で課題が残りました。
 夜久選手はフィジカルが強いと思っていたのですが、やはり2日間、100%の力を発揮できるだけの体力がない。疲れが出ることは予想していたものの、予想以上に2日目のコンディションが悪かったんです。

――世界選手権で五輪出場を決めることはできなくなりました。五輪に出るためには来年4月のアジア大陸予選で3位以内に入ることが条件になります。
武田: アジア予選で枠を確保するのは、最初の五輪出場となったアトランタ(1996年)以来ですね。あの時は1位で通過しました。五輪本番までの準備期間は少なくなる反面、逆に来春までコンビネーションを高める準備に充てられる。その点は前向きに考えています。ただし、協会の方針もありますし、まだ夜久選手の気持ちも聞いていないので、このまま同じペアで続けるかどうかは分かりません。とりあえず、オランダ、ドイツ、スイスと海外遠征が続いたので、今は少し休養するつもりです。

――例年になく静かな夏になりそうですね。
武田: 世界選手権に出ない分、練習はできるので、暑い中で量をこなして基礎レベルをあげたいと考えています。
 せっかく時間ができたので、東北の被災地を訪れる計画も立てています。岩手には合宿でお世話になった場所もありますし、被災地のボート部は大変な状況で活動していると聞きました。僕には一選手として一緒に練習をしたり、コーチングするくらいしかできませんが、少しでもお役に立てればと思っています。

――日本では、なでしこジャパンのサッカーW杯優勝に沸いています。ヨーロッパでも話題になっていましたか?
武田: スイスで準々決勝のドイツ戦をテレビでやっていました。やはり、世界を相手にするには“石にかじりついてでも勝つ”という強い気持ちが必要だなと改めて感じましたね。彼女たちからは、そういうひたむきさ、ギラギラしたものが画面を通じて伝わってきました。日本のボート界も、もっと「勝ちたい」という気持ちを全面に出して取り組まないといけないでしょう。

――武田さんがペアを組む選手も、そういう闘争心を持ってほしいと?
武田: その通りです。まず気持ち、心が強くないと戦いには勝てません。そして次が体。最後がテクニック、技です。体が強ければ、テクニックは練習でいくらでも磨けます。心技体ではなく“心体技”。これが僕がパートナーに求める優先順位です。「武田と組めば、自分がボート界のトップに立つチャンスだ」と考えるくらい野心のある選手が出てきてほしいですね。

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(聞き手:石田洋之)
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