29日、ヤマザキナビスコカップ決勝が東京・国立競技場で行なわれ、鹿島が浦和を1−0で下し、9年ぶり大会史上最多4度目の優勝を収めた。試合は両チームともに退場者を出し、スコアレスのまま延長戦に突入。迎えた延長前半15分、興梠慎三のクロスを大迫勇也が押しこみ、鹿島が待望の先制点を奪う。鹿島はその後、落ち着いてゲームを支配し、浦和の反撃を許さなかった。MVPには決勝点をあげた大迫が選ばれた。

 大迫、値千金のMVP弾!(国立)
浦和レッズ 0−1 鹿島アントラーズ
【得点】
[鹿島] 大迫勇也(105分)
 最後は鹿島が持ち前の勝負強さをみせた。準々決勝から3試合連続で延長戦を制しての頂点。オズワルド・オリヴェイラ監督は優勝会見の席で冗談交じりにこう語った。
「(準々決勝からの)3試合を通じて120分で勝ちきる力があることを見せられた。なので、Jリーグにはリーグ戦に延長戦を導入することを提案したい(笑)」

 決して全盛期のような圧倒的な強さを見せたわけではない。ナビスコ杯に限らず、鹿島は今季、リーグ戦でも9分と、なかなか90分で決着をつけられないでいる。現在の順位も常勝・鹿島らしからぬ6位。優勝の可能性は既にない。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)でも決勝トーナメント1回戦で敗退。それだけに「我々にはタイトルを獲る義務がある」と指揮官はナビスコ杯の制覇に焦点を絞っていた。
「3試合でタイトルを獲れる(鹿島はACL出場のため、準々決勝からの登場)可能性があるとはいえ、対戦相手(準々決勝は横浜FM、準決勝は名古屋)の能力を考えた時、相手が我々を上回る部分がある。その相手に勝つためには献身と犠牲、そして諦めずに戦い続けることが必要だと選手たちに言い続けた。選手たちがそれを理解して、実証してくれた」
 
 指揮官がそう称えたように、試合開始から鹿島は攻守の切り替えが早く、球際での激しい体のぶつかり合いも多く見られた。そして、前半25分、チャンスを迎える。MF野沢拓也がPA左前から左足でシュート。これはGKに防がれた。対する浦和も負けていない。30分、MF梅司がFWエスクデロ・セルヒオのパスを受け、PA内左から右足でシュートを放つ。だか、こちらは相手DFに当たり、枠をとらえ切れなかった。

 両チームともに無得点で折り返した試合は後半早々、動きをみせる。4分、浦和・MF山田直輝がこの試合2枚目のイエローカードを受け退場。数的優位の状況に立った鹿島が攻勢に出る。11分、FW大迫勇也がゴール前の混戦からシュート。15分には、野沢がゴールから約30mの位置で得たFKを直接狙った。どちらも得点にはならなかったが、鹿島が主導権を握り始めた。

 だが、決めきれない。23分には野沢がPA内右でMF小笠原満男からパスを受け、左足でグラウンダーのシュートをみせる。コースは悪くなかったが、これもカバーに入っていたDFにクリアされた。すると、35分、予想外の出来事が起こる。センターバックの青木剛が、MF原口元気のドリブルを妨害したとジャッジされ、2枚目のイエローカード。退場処分となり、鹿島の数的優位は失われてしまう。

 不測の事態にもオリヴェイラ監督は素早く最終ラインの修正に動く。右SBの新井場徹をCB、ボランチの柴崎岳を右SBへ移した。
「サッカーでは相手を含めて、試合中に人数が増減することが大いにあり得る。そういった意味で、選手たちにはいろんな状況に対応できるように準備させてきた」
 急造のDFラインながら鹿島は落ち着いた守備をみせ、相手に主導権を渡さない。90分で両チームともにゴールは生まれず、試合は延長戦に突入した。

 延長に入っても、鹿島はボール支配率で上回り、プレスが弱まってきた浦和のスキをうかがう。そして延長前半15分、待望のゴールが生まれる。FW興梠慎三が左サイドを突破し、グラウンダーのクロス。これをファーサイドに走りこんでいた大迫が押し込んだ。

 タイトルまで残り15分。鹿島は、延長後半にはさらにボールポゼッションを高め、反撃したい浦和をいなしていく。10分には、柴崎が左サイドからのロングパスに抜け出し、PA内右からシュート。これはクロスバーを直撃したものの、試合巧者らしく、うまく時間を使っていく。浦和は終了間際にエスクデロがミドルシュートでゴールを狙うが、わずかに枠を外れ万事休す。鹿島が大会史上最多となる4度目の栄冠に輝いた。

「リーグ戦で自分たちの思い通りの結果を得られない中で、こういったタイトルを獲ることができた。これは選手たちがストレスがある中でもチーム内の規律や規則を忠実に守り続け、自分たちのやりたいことに持続的に取り組んできたからだ」
 オリヴェイラ監督は選手たちに対して賛辞の言葉を繰り返した。もちろん、優勝という最高の結果にも選手たちは満足しているわけではない。決勝弾を決め、MVPに選ばれた大迫は「(ゴールは)みんなでとったもの。仲間に感謝したい。(今日の結果は)自信になるけど、今日はもっとできると思ったし、またしっかり調整して次につなげたい」と浮かれたところはなかった。

 キャプテンの小笠原も笑顔を見せず、こう言った。
「(延長戦での勝利は)鹿島らしいといえばそうだけど、やはり90分で勝ちたい。これでOKではなくて、もっと見直すべきところは修正していかないといけない」
 今回の優勝で、鹿島の胸のエンブレムの上には、星がひとつ加わる。これでJリーグ最多の15冠。小笠原はさらにこう続ける。
「常勝という鹿島の歴史を途切れさせたくない」
 苦しいシーズンに得たタイトルで、勝負強い鹿島の伝統はしっかりとつながった。