来年のロンドンパラリンピックでの金メダルを目指し、世界記録更新を狙っているジャンパーがいる。中西麻耶、26歳。彼女の練習拠点は米国・サンディエゴにあるナショナルトレーニングセンター。そこでロサンゼルス五輪の男子三段跳び金メダリスト、アル・ジョイナーに師事している。当サイト編集長・二宮清純が中西の故郷、大分県で9月に行なわれたジャパンパラリンピックを訪れ、インタビューを敢行。彼女を世界トップクラスへと押し上げた、コーチの独特な指導法について訊いた。
二宮: ジャパンパラリンピック、お疲れ様でした。1本1本、跳ぶたびにコーチから何かアドバイスを受けていましたね。
中西: 一番最初に言われたのは「今日、勝ちたいのか?」と。「勝ちたい」と答えたら、「それなら、今までやってきたことをしなさい」と言われました。アルコーチは記録がどうのというよりも、どういうふうに跳んでいるかというメカニックの部分にこだわって見ているんです。

二宮: 今日のジャンプについては、具体的にどんなアドバイスを?
中西: 「助走は全く問題ないから、とにかく最後まで踏み切り板を見ないこと。踏み切りが合わなかった時にどうするかを考えるのは僕の仕事なんだから、麻耶はいつもと同じように跳びさえすればいい」と言われたんです。

二宮: つまり、踏み切り板を見ると、目線が落ちて跳躍にも影響が出ると?
中西: そうです。意識的には飛行機が離陸していくようなイメージなんです。飛行機ってスムーズに加速して上がっていきますよね。そこで下を向いていたら、スムーズに上がりませんから。

二宮: 跳ぶ時、目線はどこに置いているんですか?
中西: できるだけ遠くの方を見るようにしています。例えば砂場を跳び越えて、一番向こうに見える高い木のてっぺんを見なが跳ぶようにしています。

二宮: コーチは1本1本、助走のタイムを取っていましたね。
中西: コーチの助走の見方は独特なんです。普通のコーチですと歩数で見るのですが、彼の場合は歩数で見るんです。スタートしてから踏み切るまで、同じタイムで行けば、同じ歩数でいくと。もし、タイムが速すぎれば、その分、助走のスタートを後ろに下げ、逆に遅すぎたら前に出すんです。

二宮: その指導法は中西さんには合っていると?
中西: そうですね。頭で歩数を数えながら助走するよりも、タイムでの方がより自然体で跳ぶことができますからね。コーチの指導法が私には合っているからこそ、ここまで記録を伸ばすことができている。今回のジャパンパラリンピックでは世界記録を出せませんでしたが、次は必ず更新したいと思います。

<19日発売の『ビッグコミックオリジナル』(小学館2011年12月5日号)に中西麻耶選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください。>