3日、Jリーグ第34節が行われ、首位の柏レイソルが浦和レッズに3−1で勝ち、初のリーグ優勝を果たした。1999年にJリーグ2部制が導入されて以来、J2から昇格したクラブが1年でJ1優勝するのは史上初の快挙。2位・名古屋グランパス、3位・ガンバ大阪はそれぞれ勝利したものの及ばなかった。この結果、柏は12月8日に開幕するFIFAクラブW杯に開催国枠で初出場する。
「シーズンを通してどうすればいいかを思い悩むような時期はなかった」
 試合後、ネルシーニョ監督が振り返ったとおり、優勝がかかったこの試合も柏に迷いはなかった。試合開始からボールを支配し、MFレアンドロ・ドミンゲスを中心に、中央、サイドと豊富なバリエーションで浦和の守備陣を崩しにかかる。

 前半29分、待望の先制点を奪った。ジョルジ・ワグネルの左CKから、ゴール前で混戦となり、レアンドロが押し込む。これが左ポストに当たってこぼれたところを、ジョルジが角度のないところから左足を振りぬくと、ボールはGKの足に当たりゴールネットを揺らした。今季から柏に加入したブラジル人レフティーが、真っ赤に染まったスタジアムの一角に陣取った黄色い柏のサポーターに歓喜を届けた。

 勝てば文句なしの優勝。引き分け以下でも名古屋とG大阪の結果によってはタイトルに手が届く状況も守りに入る気配は見せなかった。その姿勢が、38分に実を結ぶ。右CKからゴール前でのルーズボールをDF橋本和がオーバーヘッドシュート。ふわりとしたボールがゴール右上へ決まった。これで2−0。柏が勝利へ、そして優勝へむけて理想的なかたちで前半を折り返した。

 しかし、後半8分、ホームの大観衆の前で浦和が意地を見せる。右サイドからのクロスにMF柏木陽介が頭で合わせた。1点差に詰め寄る一撃で5万人を超えるレッズサポーターが息を吹き返し、スタジアムは異様な雰囲気に包まれていく。ボールを保持する時間も浦和が多くなり、柏にとっては我慢の展開となった。

 それでも、柏は揺らぐことなく攻めのスタンスを貫いた。20分、FW工藤壮人に代えて、攻撃的MFの澤昌克を投入し攻撃の活性化を試みる。この交代策が的中し、柏が再びボール支配率を高めた。そして31分、右CKからのこぼれ球をこの日先発に起用された20歳のMF茨田陽生がPA手前から右足でシュート。コースはGK正面だったが、これをGKがまさかのファンブルで後ろに逸らす。幸運ともいえるダメ押し点だった。

 栄冠に限りなく近づいた柏だが、指揮官はさらにFWの選手を投入し、決して守る姿勢を見せない。「結果を残してきたやり方を変える必要はないし、変えてはいけない」。ネルシーニョ監督がみせた攻撃的な采配こそが、今季の柏の象徴といえるだろう。監督のメッセージを選手たちが理解し、柏はボールを前に運び続けた。そして、歓喜のホイッスルが埼玉スタジアムに鳴り響いた。

 54,441人の観客が見守る中で、柏・ネルシーニョ監督は4回宙を舞った。95年にJリーグに参入してから17年。2度のJ2降格を経験しながらも、柏がついにJのマイスターシャーレを天に掲げた。11年前の最終節では、勝てば2ndステージ優勝という状況でドローに終わり、タイトルを逃した。この悲劇を経験したベテラン・FW北嶋秀朗は人目をはばからず涙を流した。
「かみしめることが多くて。勝つことで優勝するんだということをみんなが理解してしっかりとやれた」
 今季通算50ゴールを達成。5月には3試合連続得点をあげるなどチームに勢いをつけた背番号9は、晴れ晴れとした表情でこう語った。

 北嶋のようなベテラン、中堅の主将・MF大谷秀和、茨田やDF酒井宏樹をはじめとした若手、そしてレアンドロやジョルジという質の高い外国人――。今季の柏はこれらすべてがうまく融合したチームだった。酒井が「負けた後に“次勝てば大丈夫!”と声を出して僕たちを切り替えさせてくれている」と語るように、ベテランや中堅の存在はチームに安定感をもたらした。これに引っ張られた酒井、工藤、茨田といった若手は次々と結果を出した。さらにレアンドロとジョルジは2人合わせて26ゴールを稼ぎ、攻撃のアクセントとして大きな存在感を示した。

そしてネルシーニョ監督も、これらのタレントの中から好調な選手をうまく見極め、起用した。チーム内の競争意識が高まり、レベルを底上げしたことは間違いない。ベテランの北嶋は「FW陣で良いライバル関係を築けていた」と語る。その結果、北嶋は今季9ゴールと復活ともいえる結果を残し、21歳の工藤は7得点、24歳のFW田中順也は13得点と飛躍を遂げた。

 シーズンを通した攻撃的なスタイルと、バランスの良いチーム編成と激しいポジション争い。名将の巧みなマネジメントでつくりあげられた総合力で、わずか1年で柏は頂点に立った。8日に開幕するクラブW杯では、勝ち進めばブラジルの名門・サントスFC、さらには世界王者のバルセロナとの対戦も見えてくる。柏の世界デビューとなる戦いは8日(木)、ニュージーランドのオークランド・シティFC戦(豊田スタジアム)で幕を開ける。