男女マラソンなど来年のロンドン五輪へ熾烈な出場権争いが本格化してきた陸上競技で、早々と出場を確定っさせた選手がいる。男子競歩の森岡紘一朗(富士通)だ。9月に大邱で行われた世界陸上50キロ競歩で6位入賞を収め、ロンドン行きの切符を手にした。過去、五輪の同種目での日本人最高順位は7位。森岡にはそれを上回る好成績、メダルの期待がかかる。霧の都での“快歩”を目指す26歳に二宮清純がインタビューした。
二宮: 五輪内定おめでとうございます。森岡さんはこれまで20キロのレースに出場することが多かったですね。ところが最近は50キロにシフトしてきています。両方を経験しての違いは?
森岡: 20キロのレースで勝つには、まず先頭集団に入ることが鉄則になります。一方、50キロは個々の選手の特性にもよりますが、たいてい後半で大きくレース展開が変わる。だから駆け引きも重要になります。どの選手も35キロから40キロあたりがとても苦しくなるので、そこまでいかに余力を残しておくかが重要です。

二宮: スピード勝負になると外国人とのフィジカル差が出てしまう。森岡さんが世界陸上の50キロで6位入賞したように、日本人は50キロのほうがチャンスがあるわけですね。
森岡: 長距離走でも、日本人は5000メートルや10000メートルより、マラソンのほうが世界で結果を残しています。スピードよりも持久力を重視する種目のほうが合っている。この傾向は競歩でも同じです。僕も50キロのほうが、メダルを目指しやすい気がしています。

二宮: トップ選手になると、歩くスピードはどのくらいでしょうか。
森岡: 時速13〜14キロくらいです。キロあたり約4分30秒。20キロ競歩になると1キロ4分を切りますね。ちなみに100メートルだけなら16秒くらいで歩けると思います。

二宮: それは速い! 普通のジョガーであれば、追いつけないスピードです。ただ競歩は、走るように一気に加速はできない。相手に離されるときは、徐々に背中が遠くなっていく。これは精神的につらくないですか? 思わず、背中を引っ張りたくなったりとか(笑)。
森岡: アハハハ。確かにもどかしさはありますよ。ただ、そこで焦ってしまうと、歩形を乱してルール違反になるリスクが高いですから、冷静になるように心がけています。

二宮: 話を聞いていると競歩はメンタル面が大きなウエイトを占めるころがわかりました。抜かれてもカッとなったらダメですね。気持ちを落ち着かせ、勝負どころを見極めて我慢する……。何よりも忍耐強さが問われます。まさに自分との闘いですね。
森岡: この前の世界陸上でも、先頭集団から離されていったとき、体力的にはまだまだ余裕があったので“このままついていきたい!”と思ったんです。しかし、そこで我慢できたからこそ、入賞という結果を得られたと思っています。

二宮: 競歩のレースは人生の縮図ですね。勝負どころは20代、30代じゃなく、50代、60代になんだと。
森岡: ええ。やはり最後の勝負が肝心です! 競歩を始めてから自分の性格も変わりました。良くも悪くも冷静に物事を見る習慣がついています。目先のことだけではなく、リスクも考えて長期的な視野を持つようになりましたね。

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