五輪イヤーが幕を開けた。各競技とも出場権確保や代表入りを目指して熾烈な争いが続くが、いち早く内定を得ている選手もいる。そのひとりが女子トライアスロンの上田藍(シャクリー・グリーンタワー・稲毛インター)だ。昨夏、本番と同じコースで実施された世界選手権シリーズのロンドン大会で選考基準(3位と30秒差以内)を満たし、代表に選ばれた。初出場となった前回の北京大会では無念の17位。2度目の大舞台で日本トライアスロン界悲願のメダルを狙う。4年前に続いて、二宮清純が五輪への抱負を訊いた。
二宮: 前回の北京五輪は17位でした。振り返ってみて、どう感じましたか?
上田: この大会では井出(樹里)選手が5位入賞しましたが、そういった上位を目指す準備ができていたかと言われたら、「五輪に出ること」で精一杯だったように思います。だから、北京五輪が終わった日からは、「メダルを取るためにどうすればいいのか」という考えを持ってトレーニングをしています。選考レースはあくまでも過程。五輪でどう結果を残すかを見据えて、コーチやトレーナーと話をしながら練習に取り組んでいます。

二宮: 北京で見えた具体的な課題は?
上田: 北京はレースプランとしては思い通りの展開でした。スイムでの遅れは30秒以内に収め、バイクを得意としているスイスの選手とともに第1集団に追いつく。勝負どころを押さえてラン勝負には持ち込むことができました。ただ、バイクの第1集団から誰かがアクションを起こして抜け出すのではないかと思い、前の方で走り過ぎましたね。そこでスタミナを余計に使ってしまいました。結局のところ、抜け出す選手は誰もいなかったので、レース状況を早く見極めてランに向けて足を溜めておけば良かったです。

二宮: 他の選手はランまで力を温存していたと?
上田: はい。状況判断を誤っていました。もちろん自転車で少々疲労しても、ランで勝負できるだけの自信はありましたし、そのくらいの練習も積んでいました。ところが、本番の私はアドレナリンが出て冷静さを欠いていた。思った以上に疲労していたことに気づきませんでしたね。得意のランでまったくスピードが上がらない状態になっていました。せっかく勝負できる展開に持ち込んでいるのに、そこでムダな足を使ってしまった。本当にもったいないレースをしてしました。

二宮: 今回、ロンドン五輪と同じコースの大会で好成績を収め、内定を得ました。
上田: 各国とも五輪の選考レースを兼ねていたのでかなりハイレベルでしたが、手応えを掴んだ大会になりましたね。私はスイムに課題があるので、まだ第1集団で泳ぎ切ることはできませんが、第2集団の前のほうでスイムを終えられた。だから早めにバイクで追い付いて、ラン勝負に持ち込めたんです。その中で、トップ集団のさらに前のところで勝負できました。ハイペースだったので最終的な順位は11位に終わりましたが、3位からは24秒差です。本番に向けて、いい経験になりました。

二宮: では、メダル獲得のイメージも膨らんできたと? 
上田: はい。これまでは「メダルを目指します」と言っても漠然としたイメージでした。でも本番と同じコースでトップ集団と競ったことで、現実にあと何秒縮めればよいか、目標が明確になりました。
 このロンドンのレースではバイクからランのトランジッション時点でトップから7秒差だったのを、最初の1キロで完全に縮めています。入りに関しては全選手で一番、速かった。だから、もう少し落ち着いて10キロのレースを組み立てれば、もっといいタイムが出ると感じました。

二宮: 早々と内定が決まったことで五輪に向けた強化、調整がしやすい点はメリットです。残り7カ月のスケジュールは?
上田: コーチと話をして、五輪までのどのくらいの量と質で練習し、どのレースに出ればよいかプランを立てています。トイレに貼り出して、確認できるようになっているんです(笑)。

二宮: 北京での反省点も糧にできますから、ここも強みになりますね。
上田: 大舞台になると、どうしても勝ちたい思いが先行し過ぎて冷静さを欠いてしまう。北京で感じたことを踏まえて、ロンドンでは落ち着いて走れると思っています。今回の五輪を私は28歳で迎えます。トライアスロンは持久力が求められるスポーツなので、30歳前後が一番脂が乗ってくる。ロンドンは一番いい年齢で臨む五輪なので、しっかりメダルを狙っていきたいです。

二宮: まだ4年後でも32歳。ロンドン後の話をするのは早いですが、次のリオデジャネイロ五輪で、さらなる高みを目指すことも可能ですね。そうなると結婚はちょっと先になりそうですか(笑)。
上田: 両親には「そろそろ孫が見たい」なんて言われますけどね(笑)。コーチからはこんな話をされました。「五輪の選手村で他競技のスプリント系の選手と出会って結婚したらサラブレットができる」って(笑)。それは冗談として、今は五輪に向けて競技に集中したいと考えています。

※4年前のインタビュー、「6年目の日本チャンピオン 〜トライアスロン・上田藍〜」はこちら
>>前編
>>後編

<現在発売中の『第三文明』2012年2月号では、さらに詳しいインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>