9時間に及んだロング格闘技イベント『元気ですか!! 大晦日!! 2011』(さいたまスーパーアリーナ)は、地上波でのテレビ放映はなかったが、見応え十分だった。いや、テレビ放映がなかったことが逆に良かったのかもしれない。
 前年までのように「打倒! 紅白歌合戦」を掲げてテレビの視聴率を気にする必要はない。よって、タレントが大晦日だけのにわかファイターに扮して登場することはなく、落ち着いてリングを観ることができた。
 だが、その一方で観る側に戸惑いを与える部分もあった。それはリアルファイトと、あらかじめ勝敗を決めて行なわれるプロレスが混在する変則イベントだったことである。
 この日、行なわれた全17試合中、プロレスは以下の4試合。
 ジョシュ・バーネットvs.鈴木秀樹(第9試合)
 ジェロム・レ・バンナvs.ティム・シルビア(第12試合)
 藤田和之vs.ピーター・アーツ(第13試合)
 桜庭和志&柴田勝頼vs. 澤田敦士&鈴川真一(第14試合)

 他はすべてリアルファイトであったから、プロレスがそれらに挟まれる形で組まれていたのである。プログラムではプロレスに「IGFルール」と記されていた。また、リングアナウンサーに田中秀和を起用、レフェリーも和田良覚が務めていたから、わかる人にはリアルファイトとプロレスの違いが認識されていただろう。

 しかし、初めて観る人には、この違いがよくわからなかったのではないか。リアルファイト(総合格闘技、キックボクシング)とプロレスは似て非なるもの。ファン層も異なるのだから、「第1部・プロレス」「第2部・総合格闘技&キックボクシング」と分けたほうが良かったように思う。

 プロレスについて触れると、バンナvs.シルビア、藤田vs.アーツは観ていて辛かった。技の寸止めばかりが目立ってしまう。ジョシュは自分の世界を築いてはいたが、せっかくリングに上がるのなら、リアルファイトで観たいとの思いを抱く。

 おもしろかったのは桜庭が絡んだタッグマッチ。彼がどんなプロレスをするのかに興味があった。さすがに桜庭はプロレスもうまい。この試合のテーマは、かつての「UWFvs.新日本」の抗争さながらのシリアスさを醸し出すことだったのだろう。柴田も、澤田も、鈴川もイイ味を出していてプロレスとして楽しめた。ただ、大晦日ではなく、IGFの大会で観たかった内容であった。総合格闘技で闘うには限界が近づいている桜庭は、今後、IGFのリングに上がるつもりなのかもしれない。

 最後に石井慧の試合について。
 どうしてもリング上で新年のカウントダウンをやる必要などない。なのに、せっかくのメインイベントの進行が巻き巻きになったのは残念だった。セミファイナルで勝利した青木真也のマイクパフォーマンスはカットされ、石井、ヒョードルが、ともに早足でリングに向かう。好カードであっただけに、もう少しゆったりと観たかった。

 石井はこれで2度、ビッグチャンスを逃したことになる。
 1度目は3年前の大晦日のデビュー戦。すでにコンディションをつくれない引退間際の吉田秀彦の打撃を恐れて敗れた。そして今回のヒョードル戦。かつてヒョードルは無敵の男であったが、いまはそうではない。戦闘能力は、かなり低下している。石井にも勝つチャンスはあったが、打撃を喰らうと腰から砕けた。

「じっくり練習して、時間をかけて強くなりたい」
 総合デビュー前に、そう話していた石井は確かに少しずつ強くはなっている。だが、チャンスを2度逃したことは、プロとして致命的だ。強くなる速度が遅すぎ、これではファンに見放されてしまう。彼の総合格闘技転向が話題になったのは、北京五輪の柔道で金メダルを獲得した直後。あれから4年……今年、ロンドン五輪が開催される。


 12月31日に総合格闘家の宮下トモヤ選手、1月2日には、私も何度かテレビでご一緒させていただいた作家の真樹日佐夫先生が他界した。ご冥福をお祈りします。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』(汐文社)ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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