日本が決勝トーナメント進出を果たした一昨年の南アフリカW杯。評価を上げたのは代表だけではない。国際審判員・西村雄一は、南アW杯で日本人史上最多となる4試合で主審を務め、決勝戦にも第4の審判員として参加するなど高い評価を得た。現在、国際試合の主審を務められる日本人審判は、わずか7人。日本が誇るトップレフェリーに、二宮清純が迫った。
二宮: これまでの審判生活で最も想定外だった出来事は?
西村: そうですね……。アクシデント的なことであればいろいろあります。海外での試合の時が多いですね。たとえば、爆弾が投げ込まれたこともありますよ。

二宮: 爆弾!?(笑) それはどこの国での出来事ですか?
西村: ヨルダンで開催されたAFCの大会です。爆弾が投げ込まれて、アウェーチームのベンチの屋根に落ちたんです。そして屋根を貫通して、ボーン! 煙で周りが真っ白になりました。大勢の人が競技場の中に入ってきて、「あ、これは大変なことになったな」と(笑)。さらに会場スタッフが「これが投げられた」と私のところに爆弾を持ってきたんです。煙がボコボコ出ているものを持ってこられてもと思いましたね(笑)。

二宮: それで、試合は中止になったのですか?
西村: とりあえず、ゲームはストップさせて、ベンチの後ろにいた観客を全員追い出しました。20分ぐらいですかね? 少し落ち着いてから、試合を再開しました(笑)。

二宮: 再開の判断は西村さんが?
西村: 一応、私の判断を落としながら、マッチコミッショナーと協議をした上で最終的に判断しました。選手や、お客さんにケガ人は出ていないようでしたからね。ただ、次に爆弾が飛んで来たら即刻中止ということを考えていました。

二宮: そういう危険な場面にも遭遇する審判という仕事ですが、西村さんにとっては天職といえるのでは?
西村: そうですね。18歳の時に4級審判員の資格を取って、今は多くの人に支えてもらい、試合をすることに集中させてもらえる環境をいただいている。だからこそ、私は選手のために、誠心誠意尽くすことに集中できる。これは本当に幸せなことだと思います。

二宮: 最後に、西村さんが求めるレフェリーの理想像とは?
西村: 私が一番大事にしているのは、「次」ということです。割り当てられた試合をうまくコントロールできて、観ている人に納得、感動してもらえれば、また次の試合の割り当てをうけられるのが審判の世界です。後悔しないように、すべてに準備を尽くし、試合に臨む。それでも、試合中に起きてくることにうまく対応できない時があるかもしれません。なので、引きずらずに次に起こりうること、目の前のことに完璧に集中する。これだけを大事にして、ずっと審判をやっていきたいと思います。

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