26日、ロンドン五輪男子代表選考会を兼ねた東京マラソン2012が東京都庁前から東京ビッグサイトまでの42.195キロで行われ、マイケル・キピエゴ(ケニア)が2時間7分37秒で優勝を果たした。2位には藤原新(東京陸協)が自己最高記録の2時間7分48秒でゴール。注目を集めた川内優輝(埼玉県庁)は2時間12分51秒で14位(日本人9位)だった。
 男子五輪代表選考大会は、3月4日に行われるびわ湖毎日マラソンが最後となる。
(写真:今年は過去最多3万6407人のランナーが東京を駆け抜けた)
 今年の東京マラソンは前世界記録保持者の“皇帝”ハイレ・ゲブレシラシエ、福岡国際マラソン日本人トップの川内ら実力者が集結した。その中で、両手を広げ、笑顔を見せながら2位でフィニッシュテープを切ったのは藤原新だ。日本人トップという結果をもたらしたのは、したたかなまでのレース戦略と五輪への強い思いだった。

 藤原は序盤から、先頭集団から約12秒差の第2集団でレースを展開。集団の後方の位置をキープし、前に出て行こうとしない。同グループでは川内が中盤から前の位置を確保しており、このことが、藤原が前に出ない理由だった。

「川内君に粘られることが一番怖かった」
 藤原の言葉とおり、川内最大の武器は“粘り”だ。昨年末の福岡国際マラソンにおいて、一度はペースダウンしながらも、驚異的な追い上げから日本人トップの3位になっている。他の日本人選手と抜きつ抜かれつのデッドヒートを制したレースでもあった。このことから藤原は、川内と競り合わないレースプランを選択。「川内君の視界に入らないように心がけた」と語り、絶対に川内より前に出なかった。

 しかし、レースは予想外の展開に発展する。24キロ手前で川内がペースダウン。2秒、3秒と遅れ始め、26キロを過ぎると先頭との差は100mにまで広がった。「川内君が(第2集団から)落ちたのを確認してから、もう一度レースを始めた」と藤原は、26.5キロで第2集団から抜け出す。他の選手は付いていくことができず、藤原が日本人単独トップに立った。

 グングンとペースを上げた藤原は、ゲブレシラシエらのトップグループを追い上げる。そして32キロ過ぎ、先頭集団から遅れていた4位のステォーブン・キプロティチ(ウガンダ)に追い着いた。藤原はなおも快走を続け、トップを走るゲブレシラシエとの差を25秒に縮める。

 レースが大きく動いたのは38キロ付近。3位から上がってきたキピエゴが先頭のゲブレシラシエをとらえると、そのまま突き放す。追っていた藤原も、並走していたキプロティチに前に出られる。たが、ここからが藤原のハイライトだった。
 まず41キロ過ぎ、3位に順位を落としていたゲブレシラシエに並び、一気に抜き去る。
「ゲブレシラシエに追いついて、元気が出た。リズムも良くなって、最後までペースアップしていこうと思った」

 そう語った藤原の次なる標的は一度離されたキプロティチだ。42キロ直前にその背中をとらえて2位に浮上。1位のキピエゴには及ばなかったものの、フィニッシュタイムはトップと11秒差にまで迫っていた。2時間7分48秒は08年の東京マラソンで記録した自己ベスト(2時間8分40秒)を上回り、日本人選手としては5年ぶりに7分台を叩き出した。
 
 4年前の北京五輪は惜しくも補欠。「五輪のない競技人生は考えられない。何としてでも行くしかない」と代表を狙ったが、思いは果たせなかった。だからこそ、ロンドン行きの切符は是が非でも手にしたかった。
「次(リオデジャネイロ五輪)は34歳なんで。その時にどうなるかわからない。今回は絶対(代表の座を)とるしかない気持ちで臨んだ。五輪という目標が僕をここまで動かしてくれた」
 40kmからゴールまでのタイムはトップ10の選手では最速の6分41秒。最後の意地が好タイムにつながった。
(写真:東京マラソンは自身3度目の2位。それでもレース後は笑顔が溢れた)

 レース後、日本陸連の坂口泰・男子マラソン部長は「ペースメーカーが外れた25kmからを失速せずに、ペースを上げる積極的な走りをしていた。最後も(さらにペースを)上げていけていた。そして、(レース途中で)一人で走る状況を続けられたことも評価できる」とその走りを称えた。藤原自身も「世界的には(2時間)4、5分が主流。自己ベストは出たけれど、5、6分台を念頭において強くなっていきたい。これでロンドン五輪に向けて、楽しいマラソン練習ができると思うとうれしい」と既に大舞台を見据えている。五輪へ向けた代表選考レースはあとひとつ残っているが、まさに“新たな”最有力候補に躍り出た。

上位の成績は以下のとおり。

1位 マイケル・キピエゴ(ケニア) 2時間7分37秒
2位 藤原新(東京陸協) 2時間7分48秒
3位 スティーブン・キプロティチ(ウガンダ) 2時間7分50秒
4位 ハイレ・ゲブレシラシエ(エチオピア) 2時間8分17秒
5位 ビクトル・ロスリン(スイス) 2時間8分32秒
6位 前田和浩(九電工) 2時間8分38秒
7位 松宮隆行(コニカミノルタ) 2時間9分28秒
8位 ハイル・メコネン(エチオピア) 2時間9分59秒
9位 熊本剛(トヨタ自動車) 2時間10分13秒
10位 井川重史(大塚製薬) 2時間11秒26秒