日本スポーツ仲裁機構(JSAA)は27日、男子ボートの武田大作(ダイキ)がロンドン五輪アジア大陸予選会(4月、韓国)に臨む軽量級ダブルスカルの代表クルーから落選した結果を不服として申立を行った件について判断を下し、昨年11月に日本ボート協会が決定した代表の内定を取り消すよう命じた。武田サイドは最終選考の参加選手全員のタイムの公開や選考レースの再度実施なども求めていたが、これらの申立は棄却した。五輪に関係する代表選考に関して、選手側の主張が認められたのは史上初のケースとなる。
(写真:仲裁判断の骨子を発表するJSAAの道垣内機構長(左))
 今回の最終選考では武田を含む6選手がペアを変更しながら10レースを実施。個々人の平均タイムの上位2名が代表となることが決まっていた。さらに2位と3位が僅差の場合は上位4名によるプレーオフレースを追加し、決着をつける方式が導入された。10レースが終了した時点で協会は結果が僅差だったとしてプレーオフ2レースの実施を発表。武田が組んだペアは、そのいずれのレースでも、もうひとつのペアより好タイムだった。選考10レースを終えて武田は僅差の3位だったため、選考要領に従えばプレーオフを経て武田は2位に浮上し、代表クルーとなるはずだった。

 ところが協会は選考10レースの間に、“イレギュラー”が起こり、6選手のうち1名が著しくタイムが悪くなったと判断。その選手を除いてレース平均タイムを再計算したところ、武田は3位で2位と明確な差があったとした。僅差ではなかったため、その後、実施されたプレーオフは“無効”となり、再計算で1位、2位に入った選手が代表となることが決まった。

 武田サイドは2日にJSAAに提出した申立書のなかで、“イレギュラー”につながったとされる行為は正当であると主張し、その後の協会の対応が「決めていた選考要領と異なるもの」で、「恣意的なデータの操作」をしたと指摘。協会も9日に仲裁を受諾したため、JSAAは3名の仲裁人による仲裁パネルを構成し、25日にボート協会と武田サイドから4時間に渡って審問を実施した。

 その結果、仲裁パネルは「選考要領に明記されていないイレギュラーな事態が生じた場合には、協会において別途合理的な基準に基づいて本件選考をすることもあながち不当とはいえない」と協会に選考に関する裁量権があることは認めつつも、特定選手の記録をすべて除外した方式には「著しく合理性を欠く結果を生じているといわざるを得ない」として代表内定の取り消しを求めた。ただし、今後の代表選考については、「具体的な選考方法の選択に関しては、本件仲裁判断を踏まえて、協会がその専門的知見に基づいて判断すべき」と協会に委ねた。また、協会が主張した“イレギュラー”な事態についても、「なお争いの残るところ」として、判断は示さなかった。

 JSAAの判断を踏まえてボート協会の平岡英介副会長は同日、会見を開き、「当然のことながら仲裁には従う」と結果を受け入れることを表明。今後については「(内定取り消しの結果が出ると)予想していなかった。改めて選考について強化委員会主体に早急に決定し、3月中には2名の代表選手を決定したい」と語った。協会では3月5日から代表強化合宿を開くことが決まっており、再選考の方法を検討した上で、最終選考に残った6選手に参加を呼びかける方針だ。
(写真:平岡副会長は「公正公平に選考は実施したと考えている」と改めて協会の立場も主張した)

 ただ、選考の再レースを実施するかどうかについては、「タイムスケジュール的には厳しい。戸田ボートコースは年間スケジュールが前年に決まっており、(選考レースのために)コース閉鎖の了解を得るには時間がかかるかもしれない」とこれから検討に入る旨を繰り返すにとどめた。また武田サイドが求めている選考タイムの公開については、「(10レースを実施して)“イレギュラー”をどう省くのが最も公平かと検討した上での判断。公開したほうが(さまざまな)憶測を呼ぶ」と今後も応じない方針を示した。

 JSAAの道垣内正人機構長は「武田選手のような第一人者が申立をして風通しがよくなっていくならいいこと」と今回の意義を語る。現在、日本のスポーツ団体でJSAAによる仲裁に自動的に応じる条項を盛り込んでいるのは半数に満たず、ボート協会にも取り決めはなかった。協会側が申立に応じなければ、選手の訴えが門前払いとなるリスクをはらんでおり、道垣内機構長は「今後は自動受諾が普通になってほしい」と語った。

 地元の愛媛で今回の判断を聞いた武田は「申立は認められたことは良かった。今後は協会がどのような対応をするか待ちたい」と、まずはホッとした様子。協会の平岡副会長が会見で明かした「五輪でいい成績、メダルを獲れる方向へ進めていく」という方向性は武田も共有している。果たして、どのクルーを出せば五輪の出場権を確保し、本番で結果を残せるのか。判断が下された以上、協会は全員が納得するかたちで再選考へ真っすぐオールを漕ぎ出してほしい。

(石田洋之)