今夏、ロンドンで開催されるパラリンピックに向けて、パラリンピアンズを応援するイベント「Sports of Heart」が、3、4日の2日間にわたり、東京・恵比寿で開催された。同イベントでは募金の呼びかけとともに、さまざまなアーティストによる応援ミニライブやダンスショー、アスリートによるトークショー、さらにはこのイベントの応援団長・高橋尚子のかけっこ教室、同副団長・川崎憲次郎らプロ野球OBによる野球教室、ブラインドサッカー、車椅子バスケットボールなどの体験教室が行なわれた。
(写真:エンディングでは「Go to LONDON!」の声が会場にこだました)
 当サイト編集長・二宮清純も出席した3日のオープニングセレモニーでは、平野博文文部科学大臣や牧義夫厚生労働副大臣をはじめ、細井優東京都スポーツ振興局長、日本オリンピック委員会の青木剛常務理事や日本パラリンピック委員会の中森邦夫事務局長など、錚々たる顔ぶれがそろった。そして、応援団長・高橋尚子と副団長・川崎憲次郎が声高らかに開会宣言を行ない、「Sports of Heart」がスタートした。

(写真:一般参加者とアスリートが一緒にゲームを楽しんだ)
 同イベントの目的の一つは、障害者スポーツおよびパラリンピックの認知拡大だ。そこでメイン会場の恵比寿ガーデンプレイスに近い小学校では校庭と体育館に分かれて、障害者スポーツの体験教室が行なわれた。両日ともに行なわれた車椅子バスケットボール体験教室では、現役選手やOB、さらには一般スポーツからもアスリートたちが集い、競技の垣根を越えて、一般参加者たちと車椅子バスケットを楽しんだ。2日目には、ブランディング・プロデューサーの藤巻幸大氏、経営学者の米倉誠一郎氏とともに当サイト・二宮清純も参加。アスリートや子どもたちと一緒に、初めての車椅子バスケットを体験した。

 女子車椅子バスケットボール日本代表のエース・網本麻里は、今回の体験教室について、次のような感想を述べた。
「子どもたちの方から『やりたい! やりたい!』という声をたくさん聞けたことが、何より嬉しかった。みんな笑顔だったので、楽しんでもらえたんじゃないかと思う。こんなにたくさんのアスリートたちが、一堂に会して車いすバスケットを体験するということはほとんどないので楽しかった。空き時間には、他の競技の選手の人たちと話すことができ、自分たちの練習環境の現状や、いろいろと支援してくれている方たちのお話をすることもできたし、自分自身も刺激を受けた。とても有意義な時間を過ごすことができた」

 また、2日目の車いすテニス体験教室では、ロンドンで5大会連続出場となる斎田悟司や、北京に続いての出場を狙う藤本佳伸、49歳ベテランの本間正広を迎え、吉永寛和九州車いすテニスオフィシャルコーチと共に、参加者に球出しなどが行なわれた。参加者たちからは一様に「面白い!」「これは病み付きになってしまうなぁ」という声があがった。また、はじめは慣れない車いすにとまどっていた子どもたちも、途中からは楽しそうな笑顔を見せていた。
(写真:子どもも大人も車いすテニスの面白さに夢中になった)

 体験教室の最後には質問コーナーが設けられ、次々と手を挙げる参加者たちからの質問に、選手たちが丁寧に答えた。中には「今のテニスではウエスタンで持つのが主流だが、自分が車いすテニスをやってみて、イースタンの方がやりやすい感じがした。選手の皆さんのグリップはどうなっているのか?」という専門的な質問も飛んだ。この質問に対して藤本は、「フォアハンドはしっかりとスピンをかけるために厚めのグリップだが、スライスで返したいという時は薄いグリップで打っている。また、バックハンドは独特で、スピンをかける時は薄いグリップのまますくい上げるようにして打っている」と説明した。参加者の中にはテニス経験者もおり、「なるほど」と深くうなづいていた。また、「車いすテニスのハイレベルなスピードというのは、どれくらいなのか?」という質問に対して、斎田がその場でサーブをしてみせると、参加者は「すごい!」「速い!」と目を丸くし、想像以上のスピード感に驚いていた。

 ゲストとして参加した3人の感想は次の通り。
「車いすテニスは、自分が始めた頃に比べれば、認知度は高まっているが、それでもまだまだ知らない人や、実際に見たことのない人がたくさんいるので、こういうイベントで普及できればと思って参加した。始まる前は人が集まるのかなとか、楽しんでもらえるかなと思っていたが、いざ始まると車いすテニスにみんな気持ちが入っていたので、自分も一緒になって楽しむことができた。このイベントでいろんな競技を見てもらえるというのは、一人でも多くの方に応援してもらえるのかなと。そういった意味では自分たち選手にとっては嬉しいことだし、励みになる」(斎田)

「老若男女、いろんな人たちが参加してくれていたが、みんなで笑い合えたことが良かった。今回のイベントではさまざまな競技の教室があるので、より多くの人に来てもらって、興味を持ってもらえたらと思う。明日(5日)から遠征だが、リラックスすることができ、いい時間を過ごた」(藤本)
「参加者がどれだけ来るのか不安だったが、意外とたくさん集まってくれて、難しいながらも楽しんでもらえたと思う。皆さんの笑顔を見て、私たちの方も、楽しむことができた。こういうイベントを通して、もっと子どもたちに興味をもらってもらえると嬉しい」(本間)

(写真:斬新なファッションショーで観客を魅了した)
 一方、メイン会場では毎年「大分国際車いすマラソン」が開催され、日本における障害者スポーツ発祥の地と言われる大分県のB級グルメ、「りゅうきゅう丼」「地鶏炭火焼」「鶏飯」などのお店が出店し、同イベントを盛り上げた。そしてメインステージでは1日目からバラエティに富んだ催しものが開かれた。THE BOOMや土屋アンナ、杉山清貴、米良美一など有名アーティストの応援ライブ、KIDS DANCE SHOW、チアリーディングショー、さらには障害者アスリートとプロのモデルとのファッションショーも行なわれた。

 エンディングライブでは広瀬香美がピアノの生演奏で、ヒット曲『ロマンスの神様』などを熱唱すると、会場のボルテージは最高潮に。最後は土屋アンナ、米良美一らアーティストと、障害者アスリートたちがステージに上がり、坂本九の『見上げてごらん夜の星を』を合唱。観客とともに「Go to LONDON! Go to LONDON!」と、ロンドンパラリンピックを目指すアスリートたちにエールを送った。

 8月29日に開幕するロンドンパラリンピックに向け、現在はさまざまな競技で選考が行なわれている。内定している選手も本番への調整に余念がない。オリンピックとパラリンピックとの関心度に大きな差が生じている日本。こうした現状を打開するために行なわれた今回のイベントの意義は大きい。参加者にとっては、少なくともこれまでよりパラリンピックおよび障害者スポーツを身近に感じられたはずだ。しかし、一度きりで終われば、その灯はやがて消える。日本の障害者スポーツ発展のためにも、こうした活動が続けられることが望まれる。