ロンドン五輪開幕まであと2週間を切った。開幕に先駆けて行われるのがサッカーである。権田修一は、U-23日本代表の正GKだ。五輪予選8試合すべてに出場し、5大会連続の出場権獲得に貢献した。今回のU-23代表の戦力は史上最強との呼び声が高い。彼をはじめA代表に選出されている選手、海外でプレーする選手が多いからだ。釜本邦茂を擁し、銅メダルを獲得したメキシコ五輪以来の表彰台も夢ではない。偉業に挑む日本の守護神に、二宮清純が迫った。
(写真:日本が「マイアミの奇跡」を起こした‘96アトランタ五輪、権田はまだ7歳だった)
二宮: スペイン、モロッコ、ホンジュラスという組み合わせを見て、南アフリカW杯、今年の欧州選手権も優勝したスペインが頭ひとつ抜けているような印象を受けます。
権田: スペインは名実ともに世界一のチームで、若い年代にも当然、いい選手が揃っているのは分かっています。ただ、A代表とU-23代表は全く別のチーム。FIFAランキングはA代表の成績であって、U-23がそういう結果を残しているわけではない。だから、スペインが相手でも勝てる可能性はあると思っています。

二宮: アトランタ五輪では、五輪前のアメリカW杯で優勝したブラジルに勝ったわけですからね。
権田: ホンジュラスやモロッコはA代表同士で対戦したら、10回対戦すれば、8回、9回は勝てるチームかもしれない。ただ、五輪代表はそうとは限らないですし、未知のチームなので、しっかりとリスペクトして臨まなければいけません。もしかしたら、スペインには勝って、あと2チームに負けて予選敗退という展開だってあるかもしれない……。

二宮: アトランタ五輪はブラジルとの初戦に勝ったから決勝リーグに進めるかと思いましたが、そうはならなかった。
権田: そういう意味で、僕の中ではお手本のような大会ですね。「マイアミの奇跡」と言われるだけあって、本当に奇跡だったのかもしれません。でも、チーム全員が勝つためにハードワークすれば、ああいう結果もあるでしょう。僕たちも「絶対にスペインには勝てない」「絶対にモロッコとホンジュラスには勝てる」という気持ちで臨むと、逆に痛い目に遭うんじゃないかなと思いますね。

二宮: 今回はどちらかといえば「なでしこジャパン」に注目が集まっています。しかし、男子も戦力的に見て、メキシコ五輪以来のメダル獲得も夢ではないと思うのですが?
権田: 僕もまさに同じ意見です。可能性というのはいくらでもあると思うんです。やはりそれも考え方次第。“スペインだから勝てない”とか“ホンジュラスだから勝てる、ブラジルには勝てないよ”などと思っていたら、そういう結果になってしまう。でも、それを“A代表は強いかもしれないけど、五輪はわからない”と思ってみたり、前向きな発想に変えていくことができれば、いくらでも自分たちのモチベーションにできる。なでしこの話も、僕はモチベーションにしているんです。試合会場などで、テレビ局のアナウンサーの方や解説者の方が、「ロンドン行くんで、頑張ってください」と声をかけてくれたら「どっちに行くんですか?」と聞くんですよ。少し意地悪に(笑)。

二宮: それは鋭い質問ですね(笑)。
権田: そうすると、「いや、半々で」と言う人がほとんど。僕の予想だと、そういう人はなでしこの方に行くんですよね。新聞社のサッカー担当の方にも「ロンドンには何人行くんですか?」と聞くと、だいたい1人なんですよ。五輪では日本の女子と男子の試合が1日違いでありますから、取材する人が1人だと試合前日の公式練習には誰も来ない(苦笑)。なので、僕が今、モチベーションにしているのは「各社2人ずつ来させよう」と考えているんです。スペインに勝ったとか、グループリーグを突破したとか、そういう話題性が出てきたら、“男子にも注目しないといけない”とU-23代表の取材に来ざるを得なくなるんじゃないですかね。

二宮: アトランタ五輪もブラジルに勝って一気に注目度が上がりましたからね。
権田: そういう状況を作ってやろうと思っています。なでしこも同じ日本選手団なので、敵ではありません。それに、現状を考えるとなでしこに注目が集まるのはしょうがない。なでしこは結果を残していて、僕らはまだ何も残していない。なので “それを変えてやろう”と。決勝戦の時に「1人じゃ、絶対に無理です。誰か1人送ってください」「他の競技に行ってる場合じゃありません。男子のサッカーに送ってください」と各メディアが言うぐらいの状況にしたいんです。
(写真:GKとしてのやり甲斐は「味方のミスをカバーきること」と語る)

二宮: 注目の決勝の舞台は聖地・ウェンブリースタジアムです。
権田: まだウェンブリーには行ったこともないんです。日本は1位でグループリーグを突破すると、準決勝もウェンブリーで試合ができる。ただ、今回の五輪のスタジアムはどこも魅力的ですよね。グラスゴー、ニューキャッスル……。コベントリーでも是非プレーしてみたいですね。

<7月20日発売の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2012年8月5日号)に権田選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>