10日、ボクシング男子のミドル級準決勝が行なわれ、昨年の世界選手権銀メダリスト村田諒太(東洋大職)が、2009年世界チャンピオンのアボス・アトエフ(ウズベキスタン)と対戦。第1ラウンドは1−4でリードを許したものの、第2ラウンドではボディ攻撃で4−4と並ぶ。そして勝負の第3ラウンドで8−4と逆転し、13−12で破った。ボクシングでの日本勢の決勝進出は、1964年東京五輪バンタム級金メダリストの桜井孝雄(故人)以来、実に48年ぶりの快挙となった。11日の決勝ではエスキバ・ファルカン(ブラジル)と対戦する。
 一方、バンタム級準決勝では、清水聡(自衛隊)が昨年の世界選手権銀メダリストのルーク・キャンベル(英国)と対戦した。会場はキャンベルへの大歓声に包まれ、完全アウェーの中、果敢に攻め続けたが、11−20の判定負け。それでも68年メキシコ五輪で同級銅メダリストの森岡栄治(故人)以来、44年ぶりのメダル獲得となった。

<村田、逆転生んだボディ攻撃>

 ボディ、ボディ、ボディ。一貫したボディ攻めで大逆転勝利を掴みとった。

 第1ラウンドは互いに静かな立ち上がりだった。徐々にアトエフが連打の回転を速めるの対し、村田はガードを固める。だが、押し込まれているわけではなかった。連打が止んだ瞬間に、ボディを打ち込む。息が続かなくなったところを攻め込むことで、相手の足を止めにいった。しかし、1ラウンド終了時点の判定は1−4。手数で上回る相手にポイントを稼がれた。

 ただ、村田は落ちついていた。第2ラウンドは相手がボディを嫌がっていると見ると、執拗に打ち込んだ。アトエフの勢いは弱まり、距離をとって打ち合わなくなった。村田がジリっ、ジリっと攻め寄ると、クリンチでしのがれる。村田が主導権を握っているのは明らかだった。しかし、このラウンドが終わってのポイントは5−8。3点差のまま最終ラウンドに突入した。

 もう後はない。村田は意を決したかのように、前に出て、パンチを繰り出した。ワンツーからのボディ、アッパー。一方的に攻め込む村田に対し、アトエフは2ラウンド終盤と同様にクリンチで逃げ、リードを守ろうとする。しかし、それも無駄だった。レフェリーがホールドの反則を宣告。村田に2点が加点され、この時点で点差はわずか1点となった。

 村田はさらに勢いづいて攻め込んだ。倒すことはできなかったが、試合終了のゴングが鳴った瞬間、両手を上げてガッツポーズ。キャンバスの中央で勝者の拳がレフェリーに掲げられる。48年ぶりの日本人ファイナリスト誕生の瞬間だった。

 決勝の相手はエスキバ・ファルカン(ブラジル)。ファルカンとは昨年の世界選手権準決勝で対戦し、24−11の大差で判定勝ちを収めている。本来の実力が発揮できれば、日本アマチュアボクシング史上2人目の金メダルは射程圏内だ。村田は試合後「銀メダルより、48年ぶりの金メダルのほうがいい」と語った。もはや、26歳のファイターの目には世界の頂しか見えていない。

<清水、「少しホッとしている」>

 逆転の清水に勝利の女神は微笑まなかった。しかし、「全試合で全力を出し切れた」と清水は語る。この試合も、最後の最後まで手を出し続けた。

 第1ラウンドから激しい打ち合いになった。清水が179センチのリーチを生かして右のジャブから左ストレートを打ち込む。対する地元英国のキャンベルも1万人の大観衆を味方にスピードあるワンツーで応戦する。接戦のように思われたが、ジャッジの判定は2−5。清水に3点のビハインドが課された。

 第2ラウンド、清水は左ボディで相手にダメージを与えにいく。しかし、打ち終わりを狙われ、細かくパンチを入れられる。キャンベルに鼻血を流させたものの、手数で上回られ、6―11と差を5点に広げられた。

 最終ラウンド、逆転するには倒すしかない。清水は果敢に前に出る。ボディ打ちの効果か、キャンベルの足が止まる。だが、ガードを固める相手に有効打を入れることができない。残り30秒を切ったところでラッシュを見せるも、相手をキャンバスに沈めることはできなかった。

 負けはしたものの、44年ぶりの銅メダルを獲得。「メダルをとれて、少しホッとしている」と清水は語った。彼の足跡は、日本アマチュアボクシングに関わるすべての人間に希望を与えたに違いない。