12日間に渡って行なわれたロンドンパラリンピック最終日の9日、男女合わせて複数のメダルが期待された車いすマラソンで男子は副島正純が日本勢最高の4位、女子は唯一出場の土田和歌子が5位に終わった。青空のもと、ロンドンの街をランナーたちが駆け抜けていた頃、オリンピックパーク内の「Basketball Arena」で行なわれていたのが、混合ウィルチェアーラグビーの3位決定戦だ。初のメダルがかかった大一番、日本(世界ランキング4位)は闘志をむき出しにしたプレーで観客を魅了した。
 前日の準決勝で豪州に敗れ、3位決定戦にまわった日本は、世界ランキング1位の米国と対戦した。米国には予選プールの第2戦で対戦した際に48−64と完敗している。その相手に日本は最強のラインである池崎大輔、仲里進、官野一彦、岸光太郎の布陣で臨んだ。第1ピリオド、池崎と仲里が競い合うように交互にゴールを決め、米国に全くひけをとらない戦いを見せた。特に池崎のプレーはすさまじかった。最大のポイントゲッターである彼を機能させまいと、米国は2人、3人でマークするも、巧みなチェアワークでかわし、次々とゴールを決める。そのプレーにスタンドから何度も歓声があがり、いつしか会場は日本のホームであるかのような雰囲気となっていた。第1ピリオドは11−12と1点ビハインドで終わった。

 第2ピリオドも1点を争うシーソーゲームが展開された。ハイポインターの池崎、仲里が進むコースを開けようと、官野、岸も必死で米国選手に激突していった。だが、終盤にはターンオーバーなどのミスもあり、米国に3連続得点を許し、21−24と3点差で前半を終えた。

 第3ピリオド、めまぐるしく選手を交代させる米国に対して日本はスタートラインのまま戦い続けた。後半に入り、そのメンバーたちに疲労が出てきたのだろう、パスミスが多くなり、失点を重ねた。それでも神がかったように、次々とアグレッシブなゴールを決める池崎に魅了され、会場はさらにヒートアップしていった。逆に、ゴール前で時間稼ぎをしようとする米国に対してはブーイングが起きた。「Basketball Arena」は完全に日本のホームと化していた。

 しかし、米国はそんな会場の空気に全く動揺することなく、淡々とスマートなプレーで日本との差を広げていく。ゴール前で何度も組み立て直し、ようやく見つけた穴にチェアワークで入り込んでいく日本に対して、ロングパスなどで簡単にゴールを決めた。さらにスタートからメンバーを変えない日本と、メンバーを交代させながらの米国とでは、体力の消耗はまるで違っていた。

 第4ピリオドに入っても、池崎がゴールを決めるなど、日本は最後まで戦う姿勢を崩すことなく挑み続けた。だが、残り3分を切って以降、ミスが出始める。41−48から3連続失点するなど、米国との差は開く一方だった。残り10秒で官野へのロングパスが通り、1点を返したものの、結局、43−53と10点差での敗戦となった。

 初のメダルには届かなかったが、予選プールで全敗を喫して最下位に終わったアテネ、初勝利を挙げたものの7位だった北京に比べれば、日本は確実に世界との差を縮めている。
「北京以降、技術も体力も個人スキルは上がっている。それにあわせて4人でプレーするラインの精度が世界に近づいていると思います」
 と岩渕典仁ヘッドコーチも手応えを感じていた。

 だが、課題も山積みだ。特に、3位決定戦で米国との差が浮き彫りとなったのが選手層の薄さである。岩渕ヘッドコーチも「ベンチ(を合わせて)12人、誰が出ても、常に戦える状態をつくらなければ、ひとつの大会を通して世界に勝つことはできない」と述べており、4年後に向けて早急に取り組む必要がある。

 試合後、誰よりも悔し涙を流していたのが池崎だった。彼はこの試合で両チーム合わせて断トツの27点を挙げている。健闘を称える声援にも「4位になるためにロンドンに来たわけではない」と声を震わせた。
「この悔しさを絶対に忘れずに、明日からまた気持ちを切り替えて4年後に向けて頑張りたいと思います」
 メガネの奥で真っ赤にはらした目からこぼれ落ちる涙をタオルで拭いながら、池崎はリオデジャネイロでの活躍を誓った。4年後、彼の目からこぼれ落ちるのが嬉し涙であることを願いたい。

(文・写真/斎藤寿子)