ロンドン五輪における日本の金メダル7個の内訳は柔道1(女子)、レスリング4(男子1、女子3)、ボクシング1(男子)、体操1(男子)。女子が男子をひとつ上回った。
 金メダル数で女子が男子を上回るのは、これで3大会連続だ。アテネでは男子7、女子9。北京では男子4、女子5。“女高男低”の傾向が続いている。
 おとなしい若い男性を評した「草食系男子」という言葉が流行ったのは3年前だが、スポーツにおいては「肉食系女子」の時代か。
 その代表格と言えるのが柔道女子57キロ級で金メダルを獲得した松本薫である。相手を射すくめる野獣のような目が印象に残った。
 あるテレビ番組で「もし相手が自分と同じ目をしていたらどうですか」と問うと、彼女は文字どおり目をギラギラさせながら、こう答えた。
「うれしいです。同じ目を持っている人と戦えるのは光栄です」

――今まで、同じ目をした選手と戦ったことは?
「いえ、皆、目を合わせてくれないので(笑)」
 この闘争心が男子にも欲しいと思ったのは、おそらく私だけではあるまい。

<なでしこが勝てば日本のスポーツが変わる>
 五輪開幕前、『サンデー毎日』(7月29日号)にこのタイトルで寄稿した。小柄でフィジカル面では欧米の選手に劣る彼女たちが金メダルを獲れば、日本のチームスポーツ、とりわけコンタクトを伴う競技の選手たちが得る自信は計り知れないという趣旨だった。

 4年後のリオ五輪では、既にラグビー(7人制)が正式競技として決まっている。2019年にはラグビーW杯が日本で開催される。
 この4月から日本代表の指揮を執るオーストラリア人のエディー・ジョーンズは理想とするチームとして「なでしこジャパン」の名を挙げた。「女子サッカーのスウェーデンの選手が、(女子W杯で優勝した)なでしこジャパンについて“ひとりの選手が動いたらチーム全体が動く”と語っていたようですが、日本ラグビーもそのようなイメージを描いています。要するに個々の強みがそのままチーム全体の強みになるように、ボールをクリエイティブに使っていく。常に自分たちが持っているゲームの流れを貫いていく。あとは相手から常に我々は何してくるのだろうと思わせるようにしたい。言っていることをやるのは大変ですが、イメージはできています」

 ラグビーの代表監督、しかもW杯で優勝経験(07年南アフリカW杯でテクニカル・アドバイザーとして指導)を持つ指揮官が、日本の女子サッカーチームを理想のモデルに描くなど、これまでは到底考えられなかったことである。

 果たして「なでしこジャパン」は金メダルこそ獲れなかったものの、私には「敗れてなお強し」の印象が残った。
 米国戦の試合内容だけを比較すれば、PK戦の末に優勝した昨年のW杯より、今回の決勝の方がよかったと言えるだろう。

 佐々木則夫監督は<「落ち着いてプレーするのに、3メートルは間合いが必要だったのが、W杯後は1メートルで十分になった」>(朝日新聞12年8月13日付)と語っている。
 これぞスモール・フットボール。この1年間で「なでしこジャパン」は名実ともに世界ナンバーワンの米国に比肩しうるチームに成長したと言っても過言ではあるまい。

 男子も44年ぶりのベスト4と健闘した。同誌で<日本が“若き無敵艦隊”相手に好勝負を演じれば、それが自信となって勢いに乗る可能性がある>と書いたが、そのとおりになった。

 ただ準決勝、3位決定戦の内容が良くなかったため、なでしこに比べて尻すぼみの観は否めない。
 韓国との3位決定戦では技術や戦術の前に闘争心で負けていた。それでも中2日でのゲーム、いずれも違う会場で試合したことは彼らの将来を考えればプラスになるはずだ。
 最後にモノを言うのは心身のタフネスである。この悔しさを2年後のブラジルW杯に生かして欲しい。

 女子バレーボールも28年ぶりにメダル(銅)を獲得した。出場チームで最も低い175センチという平均身長を最先端の戦術と卓越の技術で補った。“なでしこ”に“火の鳥”。ボールゲームにおいても光ったのは“女子力”だった。

<この原稿は、2012年9月2日号の『サンデー毎日』に掲載されたものから一部を抜粋・加筆したものです>
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