バスケットボールファンにとって楽しみな季節がやってきた。bjリーグ2012−13シーズンが6日に開幕する。2005年にリーグが始まって今年で8年目。今季は東京サンレーヴスと群馬クレインサンダーズが加わり、東西カンファレンス計21チームによって各地で熱戦が繰り広げられる。果たして、来春に行われるファイナルでチャンピオントロフィーを手にするのはどのチームか。今季の展望を河内敏光bjリーグコミッショナーに語ってもらった。
 東地区は混戦必至!

 まず、イースタン・カンファレンスは、昨季まで3連覇していた浜松・東三河フェニックスが、今季からウエスタン・カンファレンスに移りました。絶対的王者がいなくなったことで、イースタンの優勝争いは混戦になると思われます。その中で、頭半分、抜け出しているのが、秋田ノーザンハピネッツです。秋田には浜松・東三河をリーグ2連覇に導いた中村和雄HCに加え、 30歳オーバーの選手が6人もいます。経験値はリーグ随一といえるでしょう。

 昨季の秋田には若手の台頭もありました。22歳のSG田口成浩が、3Pシュートでチーム2位の成功率を記録したのです。このチームにはF菊地勇樹というリーグ屈指のシューターがいます。昨季、3Pで114得点(リーグ4位)を挙げた菊地と、成長著しい田口の両アウトサイドからのシュートは相手チームにとって脅威でしょうね。彼らどちらかの調子が良くない時には、06−07シーズンの3P王のF庄司和広も控えています。今季の秋田のアウトサイドは、勢いに乗るとなかなか止まらないと思いますよ。また、大分ヒートデビルズからオールラウンダーのFティージェイ・カミングスも獲得しました。大分で彼はインサイドでもアウトサイドでも大きな存在感を放っていました。ベテラン、若手、外国籍選手のバランスがとれたメンバー構成を見る限り、優勝候補の最右翼だとみています。

 対抗勢力は、岩手ビッグブルズ、富山グラウジーズ、新潟アルビレックスBB、仙台89ERSです。まず岩手ですが、新規参入した昨季は7位に終わり、プレイオフにあと一歩届きませんでした。要因は外国籍選手の活躍が乏しかったことです。ただ、その分、日本人選手が出場機会を多く得られたことで、チームの底上げに成功しました。さらに今季は仙台から09−10シーズンのフリースロー王・G高橋憲一、京都ハンナリーズからbjリーグ6年目のG仲村直人を獲得し、選手層はより厚くなっています。昨年、チームで日本人トップの得点を挙げたF澤口誠が、プレシーズンマッチでベンチスタートになっているのがその証といえるでしょう。

 また、Fカルロス・ディクソン(前福岡)らbjリーグで実績のある外国籍選手を迎え入れ、若手主体から老練なチームに生まれ変わりました。不安を挙げるとすれば、ベテラン選手がシーズン終盤にコンディションを崩したり、ケガをしたりしてガス欠にならないかどうかですね。

 次に富山ですが、特徴は何と言っても日本人選手の高い攻撃力です。プレシーズンゲームの3試合では、日本人選手だけで50得点を挙げています。チームの柱はSG城宝匡史。昨季の得点ランクではリーグ全体で日本人トップでした。また、SG水戸健史は精度の高いシュートに加え、高いアシスト力も備えています。
(写真:富山の日本人エース・城宝。得点力の高さは折り紙つき)

 HCにはボブ・ナッシュが就任しました。彼は埼玉ブロンコスで指導経験があり、富山とも対戦経験があります。ですので、富山の日本人を生かしたバスケットを十分理解しているでしょう。今季から外国籍選手の出場規定が変わり、第1、第3Qは2人まで、第2、第4Qは3人までしか出場できないようになります。富山としては外国籍選手枠の少ない第1、第3Qで優位に立ちたいですね。それがうまくはまれば、初のファイナル進出も見えてきます。

 新潟は昨季からチームが大きく変わっていない点が強みですね。主力のGナイル・マーリーとリバウンド王のCクリス・ホルムが残留。日本人選手ではともに3Pランクでトップ10入りしたSF池田雄一、G小松秀平らが残りました。さらにマット・ギャリソンHCが就任2季目ということもあり、チームをつくりやすい状況です。昨季、手ごたえをつかんだ部分は継続し、足りなかった部分を修正できれば、優勝争いにも十分絡んでくるでしょう。

 仙台も新潟と似たチーム状況です。ロバート・ピアスHC体制は2年目。なおかつ、コート上の指揮官であるPGの志村雄彦、日下光が揃ってチームに残りました。外国籍選手が全員bjリーグ未経験という点は心配ですが、志村、日下の力があれば、チームにフィットするのにそう時間はかからないでしょう。3年目のF薦田拓也も9月24日のプレシーズンゲームで21得点を挙げ、成長を感じさせています。また、昨年のオールスターの3Pコンテストに出場したSG新井靖明(前埼玉)も獲得しており、5シーズンぶりのファイナルズへ準備は整いつつあると思います。

 新参の東京、群馬は開幕戦が勝負!

 横浜ビー・コルセアーズは、昨季、新規参入ながらファイナルズに進出し、3位に輝く驚きを提供してくれました。そのチームを、優勝争いに挙げなかった理由は、レギュラーシーズンMVPであるジャスティン・バーレルが退団したからです。得点、リバウンドはいずれもチームトップでしたから、まさに攻守の要を失ったことになります。

 昨季、リーグ最少失点の鉄壁を誇れたのも、バーレルが驚異的な身体能力を生かしたブロックショットやリバウンドでチームを支えていたからです。今季もプレイオフに進出するには、昨季以上に、守りで相手を抑え込むことが必要でしょうね。11−12シーズンの最優秀HCであるレジー・ゲーリーが逆境下でどんなチームづくりをしてくるのか。ここには大いに注目しています。

 今季からイースタンに参入する東京は、実績ある選手とHCを揃えましたね。青木幹典HCは高松ファイブアローズ時代にチームを準優勝に導き、最優秀HCにも選出されています。また、大阪エヴェッサから加入したG青木康平は言わずと知れたbjのフリースロー王です。昨年も4度目となる同タイトルを獲得しました。彼は東京アパッチ時代に青木HCの下でプレイしていますので、青木を中心としたチームづくりを進めていくことが予想されます。

 ただ、外国籍選手は全員がbjリーグ未経験。ドラフト1位で獲得したF井上聡人も能力は高いですが、近年はケガで満足にプレイできていませんでした。その辺を考えると、青木がケガやコンディション不良で試合に出られなくなった場合は、かなり苦戦を強いられるでしょう。

 一方、同じく新規参入の群馬はまさにゼロからのスタートです。というのも、林正HCはbjリーグでの指導経験が一切ありません。まずはリーグでの戦い方を探る日々が続くことになりそうです。救いは、G岡田慎吾とG友利健哉を浜松から獲得できたことでしょう。岡田はリーグ2連覇、イースタン・カンファレンス3連覇を果たした浜松の中心選手でした。友利も、bjリーグ6年目で豊富な経験を誇っています。彼らが「bjリーグはこう戦うんだ」と、初めて参戦するチーム、選手を牽引することができるかがポイントです。

 正直、この2チームがどのようなバスケットを見せてくれるかは未知数です。シーズンを戦う中で、最も大事になってくるのが「自信」でしょう。昨季、プレイオフ3位の横浜は、開幕戦で王者・浜松と対戦し、1勝1敗でスタートを切りました。王者相手に対等に渡り合えたことで、チームは大きな自信をつかんだように映りました。それが、1年目ながら横浜が躍進した最たる要因だと思います。ですから、東京も群馬も開幕にピークを合わせ、スタートダッシュで勢いに乗ってほしいですね。

 打倒・沖縄を果たすチームは?

 ウエスタン・カンファレンスは、浜松のカンファレンス変更で優勝争いが激化するのは間違いありません。その中で私が注目するのは沖縄、浜松、京都ハンナリーズ、滋賀レイクスターズの4チームです。沖縄は何と言っても昨年のチャンピオンチーム。連覇を目指すチームは今季、昨年は宮崎シャイニングサンズで指揮を執っていた遠山向人HCを招聘しました。結果が出ていた中での指揮官変更は、チーム崩壊の危険性もあります。しかし、遠山HCは宮崎時代に沖縄と対戦し、チーム分析もしていたはずです。メンバーもほぼ変わっていませんから、問題なくチームづくりに着手できているのではないでしょうか。

 遠山HCは浜松で長くアシスタントコーチを務めていました。浜松といえば、徹底したゾーンDFが特徴です。これまで沖縄は、相手がゾーンDFを敷いてくると、ペースを狂わせてしまう傾向がありました。遠山HCが浜松で携わってきたゾーンDFの対処法を沖縄にもたらすことで、チームの弱点を埋める効果が期待できます。さらにレベルアップした沖縄が見られることを楽しみにしています。

 ただ、戦力的に沖縄が頭ひとつ抜けているわけでもありません。全チームが「打倒・沖縄」を掲げて、徹底的に研究してくるでしょう。特に今季は、浜松がイースタン・カンファレンスから移ってきました。昨年のファイナルの対戦カードがレギュラーシーズンで実現することになります。浜松にとってはリベンジを果たす絶好の機会です。

 そんな浜松を引っ張るのがC太田敦也。日本代表であり、今季はチームキャプテンも務めます。彼の特徴は、身長206センチ、体重102キロという日本人離れした体格です。身長はbjリーグに所属する日本人選手で最長身。外国籍選手が2人しか出場できない第1、第3Qで、太田がどれだけ外国籍選手の代わりとして攻守に貢献できるか。彼がチームの命運を握っていると言えるでしょう。
(写真:大黒柱として覇権奪回に挑む太田)

 京都は昨年、カンファレンス ファイナルで沖縄に屈し、3位決定戦で横浜に敗れました。雪辱を期す今季は、外国籍を4人中3人入れ替えるなど、浜口炎HCは積極的に新しい風を入れています。注目はbjリーグ屈指のシューターを2人獲得したことです。前沖縄のFディビッド・パルマーは昨季の3P決定率でリーグトップ。日本人選手も、滋賀から獲得したG岡田優は3Pランク3位です。この2人が、調子よくシュートを決められると、昨年、ウエスタンで9チーム中6位だった平均得点がアップすることは間違いありません。ただ、シュートは水物でもあります。パルマーと岡田の調子が悪かった時に、それを補える策があるかどうかが課題でしょう。

 滋賀はアラン・ウェストオーバーHCが掲げる“シャッフル・オフェンス(OF)”に注目です。“シャッフルOF”とは、ボールをよく動かして、かつ人も動きながら攻め込む戦術。つまり、各選手がノーマークの状態になることを求めています。。

 今季はF寺下太基、SG仲摩純平、さらにGウェイン・アーノルドというbjリーグで実績のあるシューターを獲りました。これは、ウェストオーバーHCが獲得を強く望んだものと思われます。というのも、昨年はシューターが少なかったため、ノーマークの選手がチャンスを迎えても得点につながらないことが多かったからです。高いシュート力を持つ選手が何人もいれば、それだけ相手はマークにつきづらくなるでしょう。滋賀には、インサイドで強さを発揮する選手よりも、確実にゴールに沈められるシューターが必要だったのです。その意味で、チーム戦術に合ったピースを手に入れた今季は躍進が望めます。

 台風の目は“オールスター軍団”大分

 ウエストの台風の目となり得るチームは大分です。その理由は選手の質の高さにあります。滋賀からF波多野和也、宮崎からPG清水大志郎を獲得。PG澤岻直人、Fウェンデル・ホワイト、PGマット・ロティックも残留しています。彼らはすべてオールスターゲーム出場経験者なのです。

 ただ、いくら選手ひとりひとりの実力が高いからといって、それぞれが個人プレイに走っては勝てるものも勝てません。重要なのは「フォア・ザ・チーム」に徹せられるかです。たとえば、ある試合で調子のいい選手がいたとしましょう。そこで、「じゃあ、今日はアイツにボールを多く回して、点を取らせよう」といったチーム全体の意思統一がゲーム中にできるかどうかが求められます。2年目の鈴木裕紀HCが「個」と「組織」を融合させたチームを完成できれば、前述の4チームをも圧倒する可能性は十分です。

 今季の戦いにおいて外国籍選手の出場規定が変更されたことは大きな意味を持つでしょう。ルールが変わったことで、リーグにどんな変化が起こるのか。おそらく、第1、第3Qと第2、第4Qで各チームはガラリとメンバー構成を入れ替えると思われます。

 たとえば第1Qは、外国籍選手が2人しか出られないため、攻撃力が落ちます。ゆえに、守りを重視したメンバーで臨み、第2Qで攻勢を仕掛ける。こういった展開が試合でみられるのではないでしょうか。ただ、第2Q、第4Qもお互いに外国籍選手が3人出てきていますから、結局は抑え合って得点が伸びない可能性もあります。

 そのことを踏まえ、逆に第1、第3QにOF重視の布陣で臨むチームが出てくれば面白いと思いますね。日本人選手が中心になる第1Qでリードを奪い、第2Qは耐える。そして、第3Qでまた点差を広げて逃げ切る。自チームと相手の戦力、試合当日の調子などを分析して、第1QはOF重視でいくのか、守りを固めるのか。そういった駆け引きを含めたチーム力が問われるシーズンになるでしょう。

 今季は第1Qで10点リードされても、第2Qで20点奪って逆転するジェットコースターのような展開が考えられます。例年以上に最後まで見逃せない試合が増えることは間違いありません。ぜひ、多くの皆さんに会場に足を運んでいただき、手に汗握るバスケットを体感して欲しいと願っています。

河内敏光(かわち・としみつ)プロフィール>
1954年5月7日、東京都生まれ。bjリーグコミッショナー。中学からバスケットボールを始め、京北高では全国ベスト4に進出。明治大時代には全日本学生選手権3連覇を達成した。卒業後、三井生命で約10年間プレイし、日本代表としても活躍した。現役引退後、三井生命監督に就任し、実業団選手権優勝、天皇杯準優勝に導いた。94年からは全日本男子監督を務め、2000年に新潟アルビレックスの運営会社社長に就任。04年にはbjリーグを立ち上げ、完全プロ化を実現させた。

(構成/鈴木友多)