欧州サッカー連盟(UEFA)は、先に行われた欧州選手権に於ける収益の一部を、欧州575クラブに分配することを発表した。保有する選手を予選、もしくは本大会に“提供”したクラブに対するご褒美とでもいうべき分配である。主力の多くが代表選手として活躍する名の知れたビッグクラブはもちろんのこと、アルバニアやアンドラといった小さな国のクラブにも、代表に選ばれた選手の人数、拘束時間に則った分配金が支払われた
 だが、UEFAは同時にムチを振るってもいる。他のクラブや従業員、税務当局などに未払いがあるクラブに対しては、報奨金の支払いを停止したのである。リストアップされた23クラブの中には、昨季の欧州リーグを制したA・マドリードの名前もあった。

 UEFAがやろうとしていることは、端的に言えば、過熱しすぎてしまった移籍市場にブレーキをかけること、である。代表でプレーするような選手を育てたクラブにはアメを、身の丈を大幅に超えた移籍金を支払ってまで戦力を強化したクラブにはムチを、というわけだ。実際、UEFAが欧州各クラブの財務状況をチェックするようになったことで、今年1月の移籍市場の規模は、全盛期に比べて36%も縮小したことが明らかになった。

 この影響は、間違いなく日本にも伝播してくる。

 ここ数年、ブンデスリーガが多くの日本人選手を獲得してきたのは、日本人選手の勤勉性もさることながら、ドイツのクラブが他国のリーグに比べて圧倒的に厳しい財政規律を守ってきたからでもある。つまり、マネーゲームではイングランドやスペインにかなわないという前提があったからこそ、時には移籍金ゼロで好選手を獲得できることもある日本に熱視線が注がれたわけだ。

 だが、UEFAからの厳しいチェックが入るようになったことで、さらには欧州のバブルが完全に弾けてしまったことで、今後はドイツ的な補強を志向していくクラブが一気に増えることが予想される。そうなった時、日本市場は資金の調達先としてではなく、選手を生み出す泉として注目されることになるだろう。

 また、ボスマン判決以降は高騰を続けるばかりだった移籍金が下がっていけば、Jリーグにはすっかり縁遠くなってしまった世界のスターがやってくることも考えられる。いまは、デルピエロがオーストラリアのリーグ入りする時代なのである。

 問題は、Jの各クラブがそうした欧州の情勢にどれだけ敏感でいられるか、だろう。日本国内のことで汲々としているようでは、Jは欧州の草刈り場となるばかりである。

<この原稿は12年10月4日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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