7日、楽天ジャパンオープン2012の男子シングルス決勝(東京・有明コロシアム)で、錦織圭(世界ランク17位)がミロシュ・ラオニッチ(カナダ、世界ランク15位)をセットカウント2−1で下し、地元での優勝を飾った。錦織は第1セットをタイブレークの末に先取。第2セットを奪われたものの、最終セットはゲームカウント6−0でラオニッチを圧倒した。ATPツアー優勝は08年のデルレイビーチ国際選手権以来、約4年半ぶり。また、ツアー2勝は日本人史上初の快挙となった。
 同日に行われた男子ダブルス決勝では、アレクサンダー・ペヤ(オーストリア)、ブルノ・ソアレス(ブラジル)組が、リーンダー・パエス(インド)、ラデク・ステパネク(チェコ)組をセットカウント2−0で下して優勝した。
「ベストのテニスができた」
 こう語る錦織の表情には、充実感が溢れていた。200キロを超えるラオニッチの超高速サーブを、幾度もリターン。これで相手にペースを握らせなかった。攻めてはフォア、バックともに安定したショットに加え、ドロップショットやロブボールで相手を翻弄した。

 序盤からエンジンは全開だった。第1ゲームをキープすると、続く相手のサービスゲームをブレーク。0−40から追いつき、2度のアドバンテージポイントもしのいだ。次の自らのサービスゲームでは、40−15からネットショットで相手を前に出させたところをフォアで打ち抜く。ゲームカウント3−0と大きくリードした。だが、第4ゲームはラオニッチの強烈なサーブに押されてブレークならず。第5ゲームはネットに詰めたところを撃ち抜かれたり、ショットがアウトになるなど痛いミス。相手にブレークバックを許してしまう。第6ゲームもキープされ、ゲームカウントで追いつかれる。そこからは互いにサービスゲームをキープして、ゲームカウント6−6でタイブレークに突入。ここで錦織は1ポイント目でミニブレークされて、一気に0−3とリードを奪われた。

 しかし、20回以上続いたラリーを制して1ポイントを返すと、ラオニッチにショットミスが出て3−3の同点に追いつく。5−4とリードした場面では、222キロのサーブを返し、前に出てきた相手の左をバックハンドのパニッシングショットで抜いた。セットポイントとなり、1本返されたものの、最後はラリーが続くなかで、ラオニッチのバックハンドがアウト。錦織が大接戦の末に第1セットをものにした。

 勢いに乗りたかった2セット目だが、第1ゲームは3本のサービスエースを決められてあっさりとキープされる。錦織も負けじとキープするものの、ラオニッチのサービスゲームを崩すことができない。ゲームカウント3−4で迎えた第7ゲーム、30−30からリターンエースを許してブレークポイントを握られる。直後、ラリーから果敢にフォアハンドで相手の左サイドライン上を狙ったが、ジャッジはアウト。ゲームカウント3−5、ついに均衡が破れた。続く第9ゲームはデュースまで持ち込むが、サービスエース2発に沈んだ。主導権を握られたまま第2セットを奪われ、ファイナルセットも苦しい展開が続くかと思われた。

 しかし、錦織はしたたかに流れを引き戻した。第1ゲーム、40−30とゲームポイントの場面で、ラリーから意表をつくドロップショット。相手の打球をネットにかけさせ、サービスゲームをキープしたのだ。ここでブレークされようものなら、第2セットの内容から、一気に試合を決められかねない。そんな重要な場面での相手を揺さぶり、ポイントもとる。錦織はある意味、賭けに勝ったといえるだろう。

 第2ゲームも、錦織優勢が続く。ラオニッチのサーブをことごとくリターンし、楽にポイントを決めさせない。そして、40−30とブレークポイントにすると、自身左サイド深くへ打たれたショットをバックハンドで振りぬく。ストレートの打球が前に詰めてきたラオニッチの右を抜き、ブレークに成功。その瞬間、錦織は右手で力強くガッツポーズをつくった。続く第3ゲームを難なくキープすると、第4ゲームは2度のゲームポイントをしのぎ、逆転でブレーク。第5ゲームもキープし、ついに優勝まであと1ゲームというところまできた。

 錦織はショットを打つたびに悲痛な表情を見せる相手に対し、第6ゲームも躍動。相手のサービスゲームながら、40−15と早々にマッチポイントに到達する。これをラオニッチにしのがれ、デュースに持ち込まれたものの、アドバンテージポイントを奪って優位を保つ。4度目のマッチポイント、左サイドからのサーブをバックハンドでリターン。ボールは高く上がり、相手のチャンスボール、と思われた。だが、落ちてきたボールをラオニッチがフォアハンドでダイレクトショット。打球はネットにかかった。その瞬間、超満員のスタンドは総立ち。錦織は右手で顔を押さえた。

「(ジャパンオープンは)なかなかいいプレーできなくて、縁がないと思っていたので、本当にうれしい」
 試合直後のインタビューでは、喜びを爆発させた。今大会は準々決勝で世界ランク6位のトマシュ・ベルディヒ(チェコ)、準決勝は06年全豪準優勝のマルコス・バグダティス(キプロス)など、次々と強敵を撃破。まぎれもない実力で2度目の栄冠を勝ち取った。

「今はハードコートが得意。全米オープンや全豪オープンでベスト8以上を狙っていきたい。今回のATP500での優勝は自信になる。トッププレーヤーも倒したので、今後につながるいい大会だったと思う」
 こう語る22歳のエースに、さらなる躍進を期待せずにはいられない。

【高橋、中村ペアが初代女王に! 〜楽天ジャパンオープンビーチテニス〜】

 特設会場では第1回楽天ジャパンオープンビーチテニスも開催された。女子ダブルス決勝では高橋友美、中村有紀子組が、ナターシャ・ズベレワ、オリガ・バラバンシコワ(ともにベラルーシ)組をセットカウント2−0で下した。また、男子はアレックス・ミンゴッチ、アレサンドロ・カルブッチ(イタリア)組が、フルセットの末、セットカウント2−1で制した。

 高橋、中村組の対戦相手となったズベレワはテニス女子ダブルスの4大大会で優勝が実に20回。バラバンシコワと組んだシドニー五輪では銅メダルを獲得した実績がある。しかし、“ビーチ”ではワールドチャンピオンシップ2012ベスト8の日本の黄金ペアである高橋と中村のほうが上手だった。終始主導権を握り、ストレート勝ちで同大会初代女王の座に就いた。

 日本でビーチテニスが始まって4年。関係者が全国で普及活動を行うなど、競技の認知度は着実に高まっている。今大会も3日間の開催期間中、多くのギャラリーが会場に訪れた。高橋は「(多くの人に)競技を知ってもらえたと思う。今回、初めてビーチテニスを見た人でも、これを機会にチャレンジしてもらいたい」と期待した。

 そして、彼女たちが国際舞台で結果を残すことも世の中への重要なPRになる。自分たちのため、日本ビーチテニス界のため、高橋と中村はさらなる高みを目指す。

※マイナースポーツのヒーローたち(高橋友美・中村有紀子)
>>(前篇)黄金ペアの誕生秘話(2012年5月2日掲載)
>>(後編)世界に挑むパイオニア(2012年5月16日掲載)