23日、大分トリニータ(リーグ6位)がJ1昇格プレーオフの決勝(東京・国立競技場)でジェフユナイテッド千葉(同5位)を1―0で下し、4年ぶりのJ1復帰を決めた。大分は試合を通して千葉にボールを支配され、幾度もピンチに陥った。しかし、無失点で耐えて迎えた後半41分、FW林丈統が値千金の先制ゴール。その後、パワープレーに出る千葉の猛攻をしのいだ。

 林、古巣相手から昇格決定弾!(国立)
ジェフユナイテッド千葉 0−1 大分トリニータ
【得点】
[大分] 林丈統(86分)
 大分をJ1昇格に導いたのは、3年前にチームをJ2降格に陥れた男だった。林は京都サンガF.C.に所属していた2009年、第30節で大分と対戦し、勝つしかなかった相手から同点弾を奪って引導を渡したのだ。本人も後ろめたさを感じていたらしく、「(今回のゴールで大分サポーターも)これでやっと3年前のゴールを忘れてくれるかな」と苦笑した。

 また林は今プレーオフで京都、千葉という古巣を相次いで撃破した。特に千葉は高校卒業から7年、さらに2010年から昨季まで計9年間を過ごしたクラブ。11年オフに戦力外通告を受けたが「それでも千葉が好き」と愛着は強い。それだけに試合後は「どう喜んでいいのか」と複雑な胸中を明かした。だが、試合中は「大分をJ1に上げることしか考えていなかった」とプロフェッショナルに徹し、後半28分からの出場で1度きりの決定機を見事に生かした。

 それまでは苦しい試合だった。大分は序盤から千葉にセカンドボールをことごとく拾われ、ボールを支配できずに守勢を強いられた。前半7分、DF阪田章裕が相手のロングボールをヘディングで味方につなごうとしたところを、MF谷澤達也に奪われてシュートまで持ち込まれた。これはゴール上へ外れたが、他にも自分たちのミスからピンチを招く場面が多く見られた。

 浮足立つチームを救ったのはGK丹野研太だ。13分、PA内左サイドでボールを奪われ、そこからのクロスをMF米倉恒貴に頭で合わされたものの、右手で弾きだした。37分には、PA手前で与えたFKがゴール右上に飛んだが、横っ跳びしながら右手1本で防ぐビッグセーブ。千葉の好機を文字どおり潰し、攻撃陣の奮起を促した。
 しかし、大分の攻撃はシュートの精度を欠いた。10分、25分にFW森島康仁がシュートチャンスを迎えたが、いずれも枠の外。守護神がつくったいい流れに乗り切れない。結局、0−0のまま試合を折り返した。

「勝つには走らなきゃダメだ!」
 大分・田坂利昭監督はこう檄を飛ばして選手をピッチへ送り出したという。これが効いたのか、後半3分、大分がチャンスを迎える。元千葉のMF村井慎二が右サイドをドリブル突破し、PA手前の森島へ。森島はゴール正面から左足を振り抜くが、GKにキャッチされた。勝つしか昇格の道がない大分だが、J2最少失点を誇る千葉の守備網を崩すまでには至らない。

 膠着状態を打破するべく、28分、田坂監督は林の起用を決断。今年8月に加入した背番号29は指揮官から「前線に残って点をとってくれ」と指示を受け、ピッチに入った。林は味方がボールを持つと、常にDFラインの裏を取る動きを繰り返した。そして、この交代を境に試合はさらに緊迫感を帯びていく。33分、森島がPA内左サイドでボールを受けると、DFを抜き切らないまま左足を一閃。シュートはわずかにゴール右へ外れた。直後には、FW藤田祥史にPA手前からミドルシュートを打たれる。だが、ゴール右下に飛んだボールを丹野がファインセーブ。一進一退の攻防にスタジアムがどよめきに包まれた。

 試合を動かしたのは、林だった。41分、自陣からのロングフィードが森島につながると、「出てくると感じた」と迷わずに裏へ抜け出す。浮き球のパスをワントラップでゴール方向に蹴りだし、飛び出てきたGKの頭上をループシュートで抜いた。憎らしいほど冷静なゴールだったが、本人は「本当に無心。練習ではよくあるかたちだったので、本番で出てよかった」と胸をなでおろした。またアシストした森島は滝川二高(兵庫)の後輩。滝二ホットラインで待望のゴールを生み出した。

 その後、大分は身長204センチのFWオーロイを投入した千葉のパワープレーに押し込まれた。それでも、守備陣が体を張ってボールを跳ね返し、林ら前線の選手はつながったボールをキープして時間を稼ぐ。5分の長いアデイショナルタイムもしのいだ先に聞いた歓喜のホイッスル。立役者の林は、ベンチ前で田坂監督と強く抱き合った。

 ゴールを決めた後も、試合が終わった瞬間も、林は真っ先にサポーター席へ駆け寄った。ヒーローは「雨、そして(大分から)遠いなか来てくれたので、感謝の気持ち」と噛みしめるように理由を明かした。リーグ6位からの下剋上。田坂監督は「我々はJ2で6位のチーム。それだけにJ1で戦うために、今まで以上の努力が必要になる」と来季を見据えた。林も「(来季は)挑戦者として臨む。1年でJ2に落ちないように、しっかり戦える力をつけたい」と気持ちは次に向かっている。4年ぶりのJ1へ、大分の新たな戦いが幕を開けた。