日本ラグビー協会は27日、4月のアジア5カ国対抗、5月〜6月のパシフィックネーションズカップ、6月のリポビタンDチャレンジ、ウェールズ戦に臨む日本代表メンバー41名(FW24名、BK17名)を発表した。ベテランのWTB小野澤宏時(サントリー)やLO大野均(東芝)らに加え、初選出は5名。今季のトップリーグのトライ王・WTB山田章仁(パナソニック)や、帝京大の大学選手権4連覇に貢献したSO中村亮土など代表キャップ数のない選手が9名入った。協会内で会見したエディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は「我々はラグビー界のiPhoneになる。日本のラグビーを世界がコピーしたいと思われるチームになる」と、さらなる強化への決意をみせた。
(写真:「これから日本ラグビーで最も興奮する時がやってくる」と代表の成長ぶりに手応えを口にするジョーンズHC)
「2015年のイングランドW杯での世界のトップ10入り、19年の日本でのW杯ではトップ8入り」を目標に掲げ、ジョーンズHCが代表を率いて1年。日本は着実に進化を遂げつつある。昨年11月の欧州遠征ではルーマニア、グルジアにアウェーで連勝。欧州勢には敵地で過去1度も勝てなかった歴史を塗り替えた。

 しかし、ジョーンズHCは「ルーマニアもグルジアも、いいスクラムができれば簡単に勝てた」と決して現状に満足はしていない。欧州ツアーで見えた課題はフィジカルとセットプレーのテクニックだ。4月の菅平合宿では室内での体力強化が中心になる。その上でスクラムのレベルアップを図っていく考えだ。

 海外の強豪にも負けないスクラムを組む上で楽しみな若手が、新たに招集されたPR三上正貴(東芝)だ。113キロと恵まれた体格の24歳には「ポテンシャルがある」と指揮官も期待を寄せる。また今季の新人王にも輝いたPR吉田康平(トヨタ自動車)も昨年の欧州遠征に続いて代表に呼んだ。

 BKでは2人の外国人が新しく代表メンバーに加わった。突破力のあるニュージーランド出身のCTBマレ・サウ(ヤマハ発動機)と、オーストラリア出身のCTBクレイグ・ウィング(神戸製鋼)だ。ジョーンズHCは「マレ・サウはワールドクラスになりうる選手。彼が代表に入ることで他の国との違いをみせてくれる。クレイグ・ウィングは高いレベルで活躍し、国際レベルで勝つには何をすべきかを知っている」と評価し、両選手のいずれかにポジションを任せたい意向を示した。

「どこもやっていないラグビーをやりたい」と語る指揮官が考えているのは、「パスもキックもランもできるチーム」だ。会見の中でジョーンズHCは具体的な数字として、各代表チームのテストマッチでの1試合平均のパス数をあげた。それによると日本は220回。オールブラックスは180回、オーストラリアは150回、南アフリカは75回と日本に比べて少ない。体格で劣る日本がパスでつないで敵陣に迫るのは、外国に対抗する有効な手段だが、指揮官は「ひとつのやり方では相手は守りやすい」と指摘する。キックの精度も高めてスピードで敵を圧倒し、セットプレーでも負けない――これが世界のトップ10入りの条件だとジョーンズHCは見ている。

 そんな「ジャパニーズ・ウェイ」を実現するにあたって、指揮官はこの2月、プロ野球のキャンプや女子サッカーのなでしこジャパンの合宿を相次いで視察した。WBCで3連覇を目指す日本の野球からはバントや盗塁を絡める「スモールベースボール」に、細かいテクニックや頭を使ったプレーの大切さを感じたという。「世界のラグビーはどんどんフィジカルの争いになり、レスリングのような側面もある。どれだけ速く体を動かし、どれだけうまくステップが踏めるか。そして、どのように相手を誘い出すかといった細かい部分が重要になってくる」と、選手のスキルアップにも取り組んでいく方針だ。

 そして、なでしこジャパンからは、若い世代からの一貫した指導が代表の好成績につながっていると実感した。「若い選手たちがグラウンドに着いた時から100%の意気込みで練習に臨んでいる。自分たちのサッカーに信念を持っている」と印象を語ったジョーンズHCは、昨年から創設された下部組織のジュニア・ジャパンとの連携をより強めていく。28日にはジュニア・ジャパンのスコッド30名が発表される予定で、指揮官は「今日の(代表)41名と、明日の(ジュニア・ジャパン)30名が2015年、2019年の日本の中核になる」と明言した。

 ラグビー協会では、このほど日本開催される19年W杯へ中長期的に取り組む「日本代表戦略室」を立ち上げ、室長には代表アシスタントコーチの薫田真広氏を任命した。「日本協会はいい判断をした」とジョーンズHCが笑顔をみせるように、代表へのバックアップ体制は改善されてきている。

「(2015年までは)35試合のテストマッチと、300日間の練習期間のみ。1分1分が勝負」
 まずは目の前のアジア5カ国対抗とパシフィックネーションズカップで優勝し、その中で選手たちに経験を積ませていくこと。2年目を迎えたエディージャパンは、日進月歩で進化するスマートフォンのごとく、バージョンアップした姿を世界に披露する。