5日、国際陸上競技連盟(IAAF)ワールドチャレンジミーティングス第3戦・ゴールデングランプリ東京が行なわれ、全17種目の国内外のトップ選手が出場した。男子100メートルでは、マイケル・ロジャーズ(米国)が10秒19で優勝。注目の高校生・桐生祥秀(洛南高)は10秒40で3位に入った。その他の日本勢では、男子やり投げで村上幸史(スズキ浜松AC)が、男子棒高跳びでは山本聖途(中京大)が制した。
(写真:第一人者・江里口に先着した桐生<右>)
 6日前の織田幹雄記念国際陸上で衝撃の10秒01を叩き出して、日本中の注目を集める存在となった桐生。国際大会デビューの相手は、自己ベスト9秒台を持つ3名の外国人選手、日本選手権4連覇中の江里口匡史(大阪ガス)らだった。今季世界最高記録(当時)をマークした織田記念でも、江里口を含む多くの日本のトップスプリンターと戦っていただけに日本新記録、日本人初の9秒台と、周囲からの期待は高まっていた。

 レース直前、桐生の名がコールされると、この日一番の拍手と歓声が巻き起こった。メインスタンドにつめかけた観客の視線は“最速の高校生”に注がれていた。しかし向かい風1.2メートルと、決して好条件ではなかった。それでも「緊張せずに、普段と一緒にできた」と語る桐生は、ネックレスの位置を正面に直すルーティンで号砲を待った。スタートと同時に一気に飛び出した。序盤は織田記念の再現、さらなる記録更新への期待からスタンドは再び沸いた。力みのないフォームから抜け出すかと思われたが、今回は相手が違う。50メートル手前でM・ロジャーズに抜かれ、突き放されると、デリック・アトキンス(バハマ)にも終盤にかわされ、先着を許した。外国人のスピードに「後半の伸びが違った」と、世界レベルを体感した。

 期待されていた9秒台には届かなかったが、「すぐに出るとは思ってなかった」と、本人は周囲のフィーバーぶりにもいたって冷静。9秒台の自己ベストを持つ選手2人には遅れたが、9秒97の自己ベストを持つルーキー・サラーム(米国)には先着した。そのことには納得の表情を見せていた。負けた2人にも、「後半のストライドやピッチを上げていければ勝負できると思う」と手応えも口にした。
(写真:前日の会見で「ワクワクする」と外国勢との対戦を楽しみにしていた)

 織田記念のニュースがIAAFのホームページのトップに上がるなど、桐生は日本のみならず世界でも注目を集めている。試合前には外国人出場選手に握手を求められたという。その出来事に純朴な17歳は嬉しそうに笑ったが、しっかり足元も見ている。「1回(記録を)出しても2、3回は出さないと本物のタイムじゃない。浮かれずにコツコツと積み重ねていきたいです」と語った。

 世界選手権モスクワ大会の派遣設定記録をクリアし、日本選手権では入賞以内で代表に内定する。桐生は日本選手権出場は「現在のところまだ未定」だという。全国高校総合体育大会(インターハイ)と世界陸上開催の間隔が短く、過密日程になるためだ。ただ、日本中の期待に加え、「憧れのウサイン・ボルト(ジャマイカ)と走ってみたい」という思いは、インターハイでは叶えられない。“最速の高校生”の今後の動向にも目が離せない。

 男子やり投げは、村上が2投目で81メートル16をマークし、先日の織田記念につづき優勝を果たした。ライバルのディーン元気(早稲田大)にも2連勝。「昨年はディーンの後ろを追いかけてばかりだった。ここまではうまくいっている」と意地を見せた。第一人者としての責任もある。「若い選手に言葉じゃなくても、試合で見せていければ」と語気を強めた。一方のディーンは76メートル03で5位に終わった。男子やり投げ頂上決戦の第3ラウンドは日本選手権。「ここから挽回したい」と雪辱を誓った。

 男子棒高跳びでは、ロンドン五輪代表の山本が5メートル50の跳躍で制覇。他選手が風に悩まされ、8人中4人が記録なしに終わった中、「風は苦にしないタイプ。落ちついていました」と、最初の5メートル30の試技を一発成功。5メートル50は3回目で見事クリアした。優勝が決まった後、派遣設定記録の5メートル74に挑戦したが、3回とも失敗。自己記録(5メートル71)更新はならなかった。昨年は初優勝して、ロンドン五輪出場を決めた日本選手権。「去年は挑戦者。気持ちは楽に臨めた。今年は勝たないといけない」と、王者としての自負を覗かせた。
(写真:体幹を鍛え跳躍に力強さが増した山本)

 男子400メートルハードルに出場した岸本鷹幸(富士通)は、世界陸上ヘルシンキ大会の金メダリストで、北京五輪銅のバーション・ジャクソン(米国)に完敗。前日の記者会見の席では、3日の静岡国際陸上競技大会で同組の隣のレーンを走りながら、「何組で走っていたの?」と聞かれるなど、屈辱を味わった。静岡での反省を踏まえ、前半から飛ばす作戦に出たが、「前半いけるかと思ったけど、途中から(ジャクソンの)ギアが変わった」と、後半にとらえられると一気にかわされた。「後半はもたなかった」。みるみる順位を下げ、5位でフィニッシュ。ジャクソンとの力の差を痛感した。

 ロンドン五輪で痛めた足の影響で、一時期、実戦から離れ、スピードもスタミナも明らかに落ちていた。調子自体も上がりきらずにシーズンインを迎えた。「ハードルが遠く感じた。まだ体がついてきていない」と、ベストコンディションとは程遠い様子。6月の日本選手権まで期間は短いが、「今できることを精一杯頑張りたいです」と前を向いた。
(写真:静岡国際につづきジャクソンに敗れた岸本<右>)

 女子の日本勢は、優勝者はなし。織田記念で日本新記録を作った海老原有希(スズキ浜松AC)は、優勝したマダラ・パラメイカ(ラトビア)の60メートル92に13センチ及ばず2位に終わった。「天気に恵まれたのでもうちょっと(いい記録を)投げたかった」と唇を噛んだ。前半の3投で50メートル台と記録が伸びなかった。「1投目を大事に」という意識で投げているが、1投目は失敗したという。

 織田記念で残した前半の投てきという課題を今大会でも繰り返してしまった。海老原はロンドン五輪では予選落ちし、「借りを返す」と臨んだ今大会だったが、同五輪8位のパラメイカに負けて、「借りを返すこともできずに終わった」と肩を落とした。

 100メートルの日本記録保持者・福島千里(北海道ハイテクAC)は11秒56で4位。スタートでは先行したが、外国勢3人に追い抜かれた。「勝たないとダメ。昔より粘れたけど、一番をとらないと」と悔やんだ。「ゴールで勝つ人に、前半で勝ってるのだから、私にできることはあるはず」と、後半への課題を口にした。織田記念、静岡国際、今大会と記録自体は悪くない。一方で本人も「今持てるすべてを出し切れるようになってきた」と手応えも感じている。

 桐生の出現により男子に注目が集まった短距離界。女子にも相乗効果で好記録を期待したいところだ。女子の隆盛は、やはりエース・福島の復活にかかっている。

(杉浦泰介)