日本の車椅子バスケットボール界に新たな歴史が刻まれた。5日、第41回日本車椅子バスケットボール選手権大会・決勝が東京体育館で行なわれ、宮城MAXがNO EXCUSE(東京)を77−45で破り、前人未到の大会5連覇を達成した。得点王は5試合で118得点を叩き出した藤本怜央(宮城MAX)が獲得。MVPには2年ぶりに豊島英(同)が選出された。

◇決勝
  藤本、8大会連続で得点王
宮城MAX 77−45 NO EXCUSE(東京)
【第1Q】28−9【第2Q】20−10【第3Q】16−10【第4Q】13−16
「昨日の準決勝で苦戦したことが大きかった」
 試合後、岩佐義明ヘッドコーチ(HC)が真っ先に語ったのは、前日のワールドバスケットボールクラブ(愛知)との準決勝についてだった。結果的に勝ったとはいえ、宮城MAXはワールドのスローペースの展開に苦戦。前半は28−31とリードを奪われるなど、チームにとっては課題の残る内容となった。試合後、岩佐HCが選手に言ったのは、リバウンドの重要性だった。

「昨日はリバウンドを取ることができなかった。相手を弾くくらいの気持ちで、今日は意地でもリバウンドを取って、オフェンスにつなげよう、と話をしました」
 今年、チームのテーマとして取り組んできた「“ナイスリバウンド”からの走るバスケ」。苦戦を強いられた準決勝によって、宮城MAXの選手たちはその重要性を再確認した。ファイナルを前に自分たちのバスケットを改めて振り返る機会を得たことが、王者の心を引き締めた。

 決勝ではスタートから宮城MAXのペースとなった。なかなかシュートが入らないNO EXCUSEに対し、宮城MAXはアウトサイドから次々とシュートを決めていく。前日に課題とされたリバウンドも、この試合ではほぼ完璧に奪ってみせた。相手シュートのこぼれ球を藤本怜央(持ち点4.5)がリバウンドして奪うと、既に全速力でゴールへ向かう豊島英(2.0)にロングパス。豊島がほぼフリーな状態でドリブルシュートを決めると、宮城MAXらしい鮮やかな速攻に会場からは拍手が沸き起こった.

 28−9と第1ピリオドで予想以上に点差が離れたものの、その後も宮城MAXは攻撃の手をまったく緩めない。第2ピリオドは藤本と豊島が競い合うようにシュートを決めると、第3ピリオドでは途中出場の増渕倫巳(3.0)が速攻やアウトサイドからのシュートを決めるなど、着実に加点していった。

 一方、NO EXCUSEは前半、安直樹(4.0)のアウトサイドからのシュートを頼りにしていたものの、その安のシュートも徐々にゴールリングから嫌われるようになっていった。それでも第3ピリオド以降は24秒を有効的に使う作戦で少しずつ自分たちのペースを取り戻していった。点差は離れたものの、最後まで諦めずにボールを追い続け、第4ピリオドは宮城MAXよりも多く得点を挙げ、意地を見せた。だが、及川晋平HCが語ったように、前半での点差が大きく響き、「時すでに遅し」。結局、最後まで「走るバスケ」で押し続けた宮城MAXが、昨年に続いてNO EXCUSEを破り、優勝した。

 この試合での最大の勝因を岩佐HCは次のように語った。
「この点差は予想外でした。後半は、必ず相手の流れになると思っていたので、その時にどうするかが勝負だと思っていた。そうならなかったのは、ディフェンスが良かったからだったと思います。とにかく、昨日の苦しんだ試合が大きかった。何をしなければいけないのかを改めて選手に伝え、それを今日はみんなが忠実にやってくれた。決勝を前に苦しんで勝てたことがプラスになりました」

 一方、NO EXCUSEの及川HCは次のように決勝を振り返った。
「点差は離れてしまったが、選手たちが最後までモチベーションを落とさずに走ってくれたことは大きい。昨年よりも大きな手応えをつかんで臨んだし、選手たちは皆、自分たちのやるべきことを整理して戦っていたと思う。もう少し我慢をして、ボールを動かしながら相手のミスを誘って、自分たちのペースにもちこめれば……。後半はできたと思うが、それを前半からやっていれば、また違った展開になったと思います」

 ロンドンパラリンピック後、現役引退を表明し、この試合では解説を務めた京谷和幸は今大会で宮城MAXの精神的な成長を感じたという。
「数年前は、相手のペースになった時に、崩れてしまったこともあった。でも、準決勝は相手のペースだったにもかかわらず、しっかりと辛抱して勝ちにつなげた。今後、さらにもう一段階、このチームは強くなるなと思いましたね」

 また、「準決勝が今大会で一番成長できたポイントだった」と語ったのは、藤本だ。
「ああいう接戦で勝てたことは自信につながったが、そのままだったら決勝でのまれていた可能性もあった。もう一度、走ってボールを前に進めるバスケットをやろう、と意思統一できたことが良かった。自分にとっても、非常に勉強になった大会でした」
 そして、5連覇したことの意味を問うと、藤本はこう答えた。
「ここからです。次はさらに誰もが踏み入ったことのない域に入っていくので、これからさらに新しい挑戦が始まると思っています」

 それは岩佐HCも同じ気持ちだった。
「5連覇はひとつの区切りとして、どうしても達成したかった。それが叶った今、新たなスタートを切ったと思っています。同じことをしていても勝ち続けることはできない。また来年、新しい宮城MAXをお見せしますよ」
 決して現状に満足せず、常に新しいことに挑戦する。この姿勢こそが宮城MAXの強さなのだろう。宮城MAXの黄金時代はまだ終わらない。

(文・写真/斎藤寿子)