14日、公益財団法人日本陸上連盟強化委員会が、2014年に開催されるリオデジャネイロ五輪に向けたマラソン代表選考方針や強化策を発表。これまでチーム・個人に委ねてきた選手の育成・強化を、ナショナルチームを設置することで日本マラソン界全体として強化していく。また、日本陸連が目標記録(男子は2時間06分30秒、女子は2時間22分30秒)を設定し、オリンピックイヤーに行なわれる国内選考競技会までに、目標記録を切る選手の育成を目指す。
「マラソンニッポンの復活」――日本陸連が重要課題のひとつとして掲げているテーマだ。五輪でのメダル獲得もしくは上位入賞者を日本マラソン界から輩出させることが、陸連に課された使命となっている。しかし、現状はあまりにも厳しい。バルセロナからアテネまで4大会連続でメダルを獲得した女子も、北京では13位(中村友梨香)、昨年のロンドンでは16位(木崎良子)が日本人最高位と寂しい結果となっている。男子においてはバルセロナで森下広一が銀メダルを獲得して以来、5大会連続でメダリストが誕生していない。

 こうした現状を踏まえ、陸連強化委員会では議論を重ねた結果、「現在の強化策では現状を打破することは難しい。大きな改革をしない限り、マラソンニッポンを復活させることはできない」という意見で一致したという。そこで「どのような選手が約3年後のリオで戦うことができるのか」を話し合い、今後の強化・選考における方針を決めた。

 リオで戦える選手の条件として挙げたのは、次の3つだ。「国際舞台で力を発揮することができる」「世界レベルで遜色ない記録を持つ」「猛暑が予想されるリオの環境下で力を発揮できる」。この3つの条件をクリアできる選手をオリンピックイヤーには選考することができるようにしたいという。そのために陸連では「選考方針の早期決定」をすることで長期における強化を図り、「ナショナルチームの設置」「目標記録の提示」で選手や指導者の意識改革を行なっていく。

 来年のアジア競技大会(韓国・仁川)や、15年世界選手権(中国・北京)もリオでの目標達成のための重点競技会として位置づける。アジア大会は翌年の世界選手権の選考競技会のひとつとし、金メダルを獲得した選手は世界選手権の出場が内定する。一方、世界選手権では8位入賞者のうち日本人最上位選手がリオの内定選手1号となる。ただし、正式決定しているのはアジア大会のみで、世界選手権や五輪選考会については、今後修正が加わる可能性もあるという。それでも方針を早めに打ち出すことが日本マラソン界の意識改革につながるという考えから、この時期での発表に踏み切ったようだ。

 その世界選手権で8位入賞者が出れば残りは2枠、出なければ3枠を改めて選考することになるわけだが、それらはどのようにして決定するのか。日本陸連が条件としたのは、オリンピックイヤーに行なわれる国内選考会(男子は福岡・東京・びわ湖。女子は横浜・大阪・名古屋)での日本人3位以内。つまり、男女それぞれ9名ずつが候補者となる。その9名から、「国際舞台で力を発揮することができる」「世界レベルで遜色ない記録を持つ」「猛暑が予想されるリオの環境下で力を発揮できる」という条件をクリアした選手を選び、五輪に送り込む。

 その条件として最も優先されるのは陸連が設定した目標記録だ。これに到達すれば、文句なしに代表に選出される。もし、目標記録達成者が派遣枠を超えた場合は、2014年1月に設置される予定のナショナルチームでのデータ(気象やコースへの適応力など)が検討項目として適応される。つまり、目標記録到達者は選考会で日本人3位以内に入れば順位に関係なく代表の切符を得ることができ、到達者が枠を超えた場合、あるいはひとりもいない場合は選考会の順位とナショナルチームでのデータを考慮したうえで選ばれるのだ。

 では、その目標記録だが、特に男子の2時間6分30秒は現状からはあまりにも厳しいタイムだ。歴代でも2時間6分30秒をクリアしているのは、日本記録保持者の高岡寿成ただひとりである。さらに2時間6分台を出したのは、これまでわずか3人であり、02年に高岡が日本記録をマークして以来、一度も6分台は出てないのだ。あえて、このような目標記録を打ちだした狙いは何なのか。酒井副委員長はこう語った。

「確かに難しいのでは、という声もあるでしょう。しかし、これは五輪で7位相当のタイム。これを現在の日本人にとって高すぎる目標だからといって下げてしまえば、リオでのメダルや入賞はない。こういう高い目標を掲げることによって、選手たちはオリンピックに出たいという気持ちから、目指すようになるはず。そういった選手たちの気持ちを信じたい。まだ3年ある。今から取り組めば、十分可能だ」

 これまで個人やチームに委ねられていた選手の育成・強化を、今後はマラソン界全体でつくりあげていく。高い目標記録の設定からも日本陸連の本気度がうかがえる。しかし、「マラソンニッポンの復活」へと進むかは、今後さらなる議論が必要だろう。特に目標設定に届かなかった選手を選考せざるを得なかった場合、ナショナルチームのデータが選考会での順位に同等なものとして受け入れらるのかは疑問であり、さらなる混乱を招く可能性もあることは否めない。強化委員会も「世界選手権、国内選考会については、あくまでも方針であり確定したわけではない。これから修正する部分も出てくる」としており、今後の動きが注目される。