ラグビーの「リポビタンDチャレンジ2013」第2戦が15日、東京・秩父宮ラグビー場で行われ、日本代表(IRBランキング15位)がウェールズ代表(同5位)を23−8で下した。ウェールズ代表はシックスネイションズを連覇中の強豪で、日本は13度目の対戦にして念願の初勝利。8日に大阪・近鉄花園ラグビー場で行われた第1戦では18−22で惜敗したものの、この日は後半に2トライを奪って逆転し、突き放した。
 5、4、3、2……。
 勝利へのカウントダウンが21,000人の大観衆から自然と沸き起こった。場内の時計が80分を刻んだ直後、日本がボールを外に出すと、ノーサイドの笛が鳴る。1989年にスコットランドを破って以来となるラグビー界のトップ8相手の勝利だ。

「歴史を築き上げた。世界トップ10に勝てるチームになった」
 エディー・ジョーンズヘッドコーチは快挙を達成した選手たちを称えた。

 相手のウェールズは多くが20代前半で若手主体のメンバー。ベストメンバーでの来日ではない。1週間前に敗れた花園でも前半はリードして折り返しており、選手たちの中でも「勝利を手にしよう」という思いは強かった。

 象徴的だったのが立ち上がりにSH田中史朗がみせたファイトだ。ラックでボールを離さず、反則を犯した相手に対し、ジャパンで最も小柄な男が突っかかって抗議の意思を示す。エキサイトした両軍がもみ合いになり、試合が一時中断した。

「僕はボールがほしかっただけ」と試合後、田中は柔和な表情で振り返ったが、気持ちのこもった姿勢は周囲を大いに奮い立たせた。ジョーンズHCも「ケンカはよくないが」と前置きした上で、「心理的に大きな影響があった。日本の選手は受身になる傾向があるが、それが変わってきた」と目を細めた。

 前半は押し込まれる展開が多かったものの、日本は体格で下回るスクラムでも突破を許さない。カウンターから相手の反則に乗じてPG2本を決め、6−3とリードして折り返す。

「向こうはスクラムからのトライを狙ってくる。集中して絶対とらせないようにした」とHO堀江翔太は胸を張る。エディージャパンになってから、日本はフィジカル面の強化にも力を入れてきた。その成果が現れた格好だ。ジョーンズHCも「スクラムで勝ちをとれた。ウェールズとの試合で日本のチームがこんなことを言えるとは思わなかった」とニヤリと笑った。

 後半は4分にウェールズの巧みなパス回しでトライを許し、逆転されたが選手たちは「想定内」と慌てない。梅雨の中休みで気温が上がり、「前半から相手は疲れていた」(田中)のを感じていたからだ。直後に早いパス回しで相手のラインを崩すと、最後は大きく右に振って、CTBクレイグ・ウィングが相手選手を引きずりながらゴールへ飛び込む。コンバージョンも決まって13−8と再び試合をひっくり返した。

 19分には、そのウィングの突破で敵陣に迫ると、中央に密集したところを田中がうまく右へボールを送り込む。ライン際のFLマイケル・ブロードハーストまで渡ると、止められる相手選手はひとりもいなかった。トライとコンバージョンが決まり、20−8。日本がリードを広げて試合が進んでいく。

 ウェールズも強豪の意地にかけて反撃に転じるものの、桜のジャージが次々と低いタックルで出足を止めていく。ブレイクダウンで押されても互いにコミュニケーションを取り合い、ほころびを見せなかった。田中は「相手は強いので、必要以上に人を入れないで、次のディフェンスに備えることが大事。全員が声を出して“こっち入れ”という コミュニケーションは先週よりも良くなった」と明かす。相手のロビン・マクブライド臨時ヘッドコーチも「ディフェンスがすばらしかった。戦うにはイヤなチームになっている」と日本の粘り強さに舌を巻いた。

 2019年のW杯ホスト国にとって、この勝利を自国開催時の主力となるであろう若手が体感できたのも大きな収穫だ。大学生で唯一スタメン入りしたWTB福岡堅樹は持ち前のスピードで敵陣を何度も脅かした。後半36分には、中央でボールを持って駆け出した20歳に相手がたまらずハイタックルの反則を犯す。FB五郎丸歩がPGを確実に決め、勝利を決定づける3点が入った。

 歴史的な1勝とはいえ、廣瀬俊朗キャプテンは「たかが1勝」とさらなる高みを見据えている。ジョーンズHCも「もっと自分たちで仕掛けられるようにしたい」と課題を口にした。

 ジャパンが目指すのは2015年イングランドW杯でのトップ10入りだ。「トップ10への道のりは遠い。まだまだ強さが足りない。もっともっと速くならないといけない。これは本気です」と指揮官の口調は熱を帯びる。勝利の余韻に浸る間もなく、19日にはパシフィック・ネーションズカップのカナダ代表戦(名古屋・瑞穂)、23日には同・米国代表戦(秩父宮)が控えている。動き始めた日本ラグビー界の歴史のボールを前へ進める戦いはキックオフしたばかりだ。