21日、陸上の世界選手権(モスクワ)とアジア選手権(インド・プネー)に出場する男子短距離ブロックの日本代表が東京・味の素ナショナルトレーニングセンターで400メートルリレーの合宿を行った。日本選手権で100メートルの優勝を争った山縣亮太(慶應義塾大)と桐生祥秀(洛南高)らが、バトンパスの練習などを公開した。同大会200メートル優勝者の飯塚翔太(中央大)は、海外転戦中のため不参加だった。
「ハイリスクハイリターン」。男子短距離部長の伊東浩司は、“史上最強”の呼び声もある今回のリレーメンバーをこう表現した。前回の大邱大会からは、江里口匡史(大阪ガス)、高平慎士(富士通)らが抜け、チームは一新。昨夏のロンドン五輪からは大学生の山縣、飯塚が残ったのみで、17歳の桐生が加わり、平均年齢もグッと下がった。伊東は新生ジャパンのメンバーについて、「期待も大きいが、失敗する可能性もある。ミスを恐れてもどうにもならないので、思い切ってやってもらいたい」と語った。

 この日、公開された練習で、モスクワでの400メートルリレーメンバーの編成がほぼ明らかになった。「日本を代表する2トップで2本柱」と、土江寛裕副部長が評価する桐生と山縣は、それぞれ第1走、第2走となった。

 北京五輪で銅メダル獲得のカギとなった“アンダーハンドパス”だが、初代表の桐生にとっては初挑戦だという。先日、出場が決まったダイヤモンドリーグ(イギリス・バーミンガム)や全国高校総体など過密日程の桐生には、バトン練習に割ける時間が決して多くない。その点を考慮して、バトンの負担が少ない第1走には桐生が任される。

 第2走の山縣には、部長、副部長ともに新エースとして太鼓判を押す。「大舞台で強く、安定感がある。安心して任せられる選手」と伊東が褒めれば、「パフォーマンスが高く、どこでも使える」と土江は絶大なる信頼を置く。

 当然、日本の思惑としては、トップスプリンターを並べる2走までで、どれだけリードを奪えるかがポイントである。山縣本人も、そのことを自覚しつつも、「特に気負うことはないかなと思っています」と、自然体で臨むつもりだ。ロンドン五輪からは、チームの中心であった江里口、高平が抜けたことに触れ、「経験者としてチームをまとめあげる役目がある。雰囲気をつくっていけるように意識したい」と、リーダーとしての自覚も十分。「37秒台を出して、世界でも表彰台を狙えるタイムを出したい」と、38秒03の日本記録更新への意欲を見せた。

 アンカーには、ロンドン五輪でも大役を務めた飯塚が座る。「彼が他の走者に入ることは考えたことがない」と土江。伊東もロンドンでの経験や海外遠征を行うなど日程的な部分も加味して、「アンカーしかできない」と判断した。

 第3走は、現状で横一線。前回の大邱大会で第1走を務めた小林雄一(NTN)、ロンドン五輪代表の高瀬慧(富士通)、前々回のベルリン大会のアンカー藤光謙司(ゼンリン)が争うと見られている。これまで第3走は、アテネ五輪から高平が任されてきた。その高平から奪いとった座を、誰が勝ち取るのか。小林と高瀬はアジア選手権にも400メートルリレーでエントリーしており、個人種目と合わせて、そこでの走りも“最後の椅子”をかけた戦いとなるだろう。

 今夏のモスクワが世界選手権初出場となる桐生。今年2月の沖縄の代表合宿には参加していたが、世界大会の日本代表となり、日の丸のユニホームに袖を通すかたちとなった。17歳の高校生は、「初めての日本のユニホーム。夢が叶った」と嬉しそうに笑った。「ユニホームを着たからといって、満足せずに頑張りたい」と抱負を語った。

 また桐生は今月の30日には、ダイヤモンドリーグへの出場が決まっている。日本歴代2位の10秒01を出した “最速の高校生”に世界最高峰の舞台からお呼びがかかったのだ。前身のゴールデンリーグに出場経験のある伊東は「アジア記録を持っていても、なかなか走らせてもらえる試合ではない。ましてや向こうから、お声がかかるなんて夢のような話」と語る。日本選手権では桐生に先着した山縣も「出るっていうのも招待状が来ているので、すごいなと思う。逆に自分はそこまでの選手じゃないんだなと。(山縣の自己ベスト)10秒07と、01の差を感じました」と悔しさを口にした。

 桐生本人は「失うものは何もない。世界を味わって学んだことを世界陸上で生かしていきたいです」と、挑戦者の姿勢で臨む。初の海外レースでどんな“お土産”を持ち帰ってくるのか。記録とともに、世界の強豪とどこまで勝負できるかにも注目が集まる。

(杉浦泰介)