17日、世界陸上競技選手権モスクワ大会8日目が行われ、男子200メートルはウサイン・ボルト(ジャマイカ)が19秒66で3連覇を達成した。男子マラソンはステファン・キプロティチ(ウガンダ)が2時間9分51秒で優勝した。日本人トップは中本健太郎(安川電機)が2時間10分50秒で5位。日本勢はこの種目8大会連続の入賞を果たした。その他の日本人は、藤原正和(Honda)が14位、前田和浩(九電工)が17位、川内優輝(埼玉県庁)が18位。前回大邱大会7位入賞の堀端宏行(旭化成)は途中棄権した。女子1600メートルリレーは、地元ロシア代表が米国代表の4連覇を阻み、8年ぶりの優勝。女子110メートルハードルはブリアナ・ローリンズ(米国)が、同走り高跳びはスヴェタラナ・シュコリナ(ロシア)が、男子やり投げはヴィテセラブ・ヴェゼリー(チェコ)が、いずれも初制覇した。
 圧倒的強さ、もはや敵なし

 世界最速の名を欲しいままにしているボルト。もはやこの男が勝つか、負けるかではない。何秒で勝つか、に焦点が絞られてしまっている。それほどまでに群を抜く強さを誇っている。

 予選はゴール前で2着の選手と笑顔を交わしながらのゴール。準決勝では力をセーブしつつ、いずれもその組のトップで通過した。ボルトが競う相手は、2009年ベルリン大会の世界記録を出した自分自身だったのかもしれない。

 雷鳴轟く中、雨のモスクワを駆け抜けた100メートルとは打って変わって、この日は晴天。風はほぼない。新記録への追い風も向かい風も吹かなかった。

 一瞬の静寂から、号砲が撃ち鳴らされた。ボルトの反応速度は1.777秒。予選、準決勝と比べれば、上がってはいるがこの日のファイナリストではワーストだった。

 それでも最速の男は積んでいるエンジンが違う。大きなストライドから一歩、一歩踏み出す度に加速する。定位置と化した先頭に立ち、コーナーを曲がり終える。ラストの直線で完全に抜け出すと、大勢は決した。圧勝だった。ゴール直前で少し抜いたようなかたちでフィニッシュ。記録は今シーズン世界最高の19秒66だった。4年前の19秒19を更新することはできなかったが、この種目史上初の3連覇を達成。100メートルと合わせて、今大会2冠を獲得した。

 ボルトが驚異の200メートル18秒台に到達するか、もしくは敗れるか。そんな青天の霹靂とはならなかったが、ボルト伝説のモスクワの章は、明日フィナーレを迎える。残された種目は400メートルリレー。ジャマイカを3連覇へと導けば、世界選手権通算8個目の金メダルとなる。男子ではカール・ルイス、マイケル・ジョンソンと米国が誇る陸上界のレジェンドたちと肩を並べる。世界記録更新を含め、最終日も、この男から目が離せない。

 アフリカ勢に食らいつく粘りの走り

 表彰台には上れなかったが、アフリカ勢に食らいついて意地を見せた。中本は5位に入り、昨夏のロンドン五輪につづき入賞を果たした。

 70人がエントリーした男子マラソンは、ルジニキスタジアムを発着点に行われた。気温は24度だが、快晴。この日差しが選手たちにどう影響するか。同コースを走った女子マラソンでは72人中25人がリタイアしていた。最初のトラックを周回するペースは1周400メートルを1分8秒と早いピッチだった。スタジアムから飛び出ると、ペースは落ち着きを見せ始めた。

 ソロネイ・ダ・シウバ(ブラジル)が集団から飛び出すが、4キロ付近でタデセ・トラ(エチオピア)が並びかける。5キロは15分53秒で通過した。追いかける日本勢は大きな一団となった先頭グループに入った。中本、川内は中団に位置し、少し遅れて前田、堀端、藤原と続いた。7キロ、9キロ過ぎにはトラがペースを上げし、他を突き放しにかかる。しかし13キロ、後続に吸収され再び先頭集団を形成した。そんな中、日本勢でひとり遅れていた堀端は13キロ付近で棄権した。

 20キロを超えると徐々に川内、藤原、前田は先頭集団から離されはじめる。日本勢が上位争いから落ちていく中、健闘したのは中本。ただひとり先頭集団に食らいついていった。すると30.5キロ付近でロンドン五輪金メダリストのキプロティチらアフリカ勢が抜け出した。

 先頭がペースを上げ下げする不安定なリズム。一時は離されていた中本だった。粘りの走りを身上としており、「サバイバル的な耐久レースになればいい」と語っていた。35.5キロ過ぎの給水地点前でトップ集団に再び追いついた。しかし、ここまでが限界だった。36.5キロ過ぎに離され、6番手に落ち、優勝争いからは脱落した。それでもまだ上位に食らいついてく。38.5キロでピーター・サム(ケニア)を抜き去り5位に浮上した。さらに先を行くツェガイ・ケベデ(エチオピア)も視界にとらえた。

 しかし、2009年ベルリン大会の銅メダリストもそう簡単には先を譲らない。ペースアップし、中本を突き放しにかかる。4位争いはルジニキスタジアムに入り、トラック勝負までもつれた。中本も必死に食い下がったが、3秒及ばず5位。ただ、ロンドン五輪は6位と、順位をひとつ上げた。「昨年のロンドン五輪を超えることが目標だったので満足しています。できればもう1人抜きたかった」。充実感の中に悔しさを滲ませた。

 優勝はキプロティチ。終盤は先頭グループをリードし続け、40キロ過ぎでレリサ・デシサ(エチオピア)と一騎打ちとなった。最後は41キロ手前で仕掛け、独走した。2時間9分51秒で、ロンドン五輪につづく金メダルを獲得した。

「メダルとなると、まだまだ世界は遠い」。中本が痛感したように、アフリカ勢との差は小さくはない。ただ「35キロまでは見えていた」と、中盤以降も優勝争いの中におり、勝負できたことは大きな手応えとなったはずだ。ロンドン五輪のレース後、「マラソン王国・日本を復活させたい」と語っていた中本。それは決して大言壮語ではないと思わせるような日本のエース・中本が見せた粘りの走りだった。

 主な結果は次の通り。

<男子200メートル・決勝>
1位 ウサイン・ボルト(ジャマイカ) 19秒66
2位 ウィアー(ジャマイカ) 19秒79
3位 カーティス・ミッチェル(米国) 20秒04
飯塚翔太(中央大)は準決勝、高瀬慧(富士通)、小林雄一(NTN)は予選敗退

<男子マラソン>
1位 ステファン・キプロティチ(ウガンダ) 2時間9分51秒
2位 レリサ・デシサ(エチオピア) 2時間10分12秒
3位 タデセ・トラ(エチオピア) 2時間10分23秒
5位 中本健太郎(安川電機) 2時間10分50秒
14位 藤原正和(Honda) 2時間14分29秒
17位 前田和浩(九電工) 2時間15分25秒
18位 川内優輝(埼玉県庁) 2時間15分35秒
堀端宏行(旭化成)は棄権

<男子やり投げ・決勝>
1位 ヴィテセラブ・ヴェゼリー(チェコ) 87メートル17
2位 テロ・ピトカマキ(フィンランド) 87メートル07
3位 ドミトル・タラビン(ロシア) 86メートル23
村上幸史(スズキ浜松AC)は予選敗退

<女子1600メートルリレー・決勝>
1位 ロシア 3分20秒19
2位 米国 3分20秒41
3位 英国 3分22秒61

<女子100メートルハードル・決勝>
1位 ブリアナ・ローリンズ(米国) 12秒44
2位 サリー・ピアソン(オーストラリア) 12秒50
3位 ティファニー・ポーター(米国) 12秒55
柴村仁美(佐賀陸協)は予選敗退

<女子走り高跳び・決勝>
1位 スヴェタラナ・シュコリナ(ロシア) 2メートル03
2位 ブリジッタ・バーレット(米国) 2メートル00
3位 ラス・べイティア(スペイン) 1メートル97
福本幸(甲南学園AC)は予選敗退

(杉浦泰介)