広島カープを4度のリーグ優勝、3度の日本一に導いた名将・古葉竹識。現在はプロ野球の監督から大学野球の指揮官に身を転じている。東京新大学野球リーグに所属する東京国際大の監督として、就任4年目の11年にリーグ優勝。同大初出場となった全日本大学選手権では、ベスト4入りの快挙を成し遂げた。プロ、アマ双方で結果を残した名伯楽に二宮清純がインタビュー。77歳になった今も衰え知らずの古葉の指導哲学に迫った。
(写真:目標の「大学日本一」に意欲を燃やす)
二宮: 今の学生たちは、古葉監督にとっては孫の世代です。携帯電話、スマートフォンの時代ですからコミュニケーションを取るのは大変じゃないですか?
古葉: 僕はできるだけそういった部分もきちっと指導しています。練習前でもみんなで集まって、練習後に話をする時も後ろの方でいいかげんな態度をしている子には「そんな態度をするなら辞めろ」と言うんです。「そんな子はいらない。社会に出た時に“後輩も採ってやるぞ”と言われるようお互いに成長していこうやないか」。そういうことはうるさく言っていますね。

二宮: しつけとか、そちらのほうが先になると?
古葉: そうですね。「野球を通じて成長していこう」と。僕も色々な経験をしてきていますから、社会人でもやってきているし、短期間ですが大学にも行きました。その中で、やはりファンの方たちに喜んでもらえる態度をしているかどうかが、一番大事なことだなと。プロの監督、コーチをしていた時も、それを一番に思っていましたね。僕は今の部員たちには、そういうことが「一番大事だよな」と教えています。部員たちはオレの大事な孫だから。

二宮: 監督もこれだけ部員が多かったら、1人1人に目を行き届かせるのは大変でしょう。
古葉: 学生コーチやコーチ兼寮長がおりますから。彼らにははっきりと「どういう生活をしているかだけは、きちっと見といて欲しい」と頼んでいます。コーチもおりますので、ある程度のことは見てくれている。せっかく我が大学に来て、4年間野球をやるわけですから、部員には「(入って)良かったな」と思って欲しいですね。

二宮: 2年前に大学選手権に出てベスト4入りしたのは、学校の大きな宣伝にもなったでしょうね。大学の知名度も上がったんじゃないでしょうか?
古葉: そのとおりです。「埼玉にある大学の監督をしていたんですね」という手紙が来たりしましたね。今は会えば「東京国際大学ですよね」と。そういうふうに言っていただけるということは、大学選手権に出たのは非常に大きかったなと思います。

二宮: 甲子園で活躍する選手も入部するようになりましたか?
古葉: そうですね。でも、まだまだ高校で高いレベルでやっている子たちは、「(東京)六大学に行きたい」「東都に行きたい」「首都リーグに行きたい」という考えが多いようです。ですから、入ってきた子を2年ぐらいの間に鍛えていって、作り上げていくことをしていかなきゃいけない。ここで鍛えて、作っていかなきゃいけないのは、1年で無理をさせたら体を壊してしまうからですね。だから1年間はしっかりした体作りを、最初の半年、1年間は、そこが中心だとは言っているんですよね。

二宮: ちゃんとしつけができていたり、基礎ができていたりというのは、高校時代の監督によって違うものなのでしょうか?
古葉: 違いますね。でもウチに入って来たら、最初に「ウチはこういう大学だから、しっかり野球を通じて成長していこうよ」と言います。
(写真:古葉がプロ野球界にいた頃、現在の部員たちは生まれる前。孫ほどの年齢差がある)

二宮: 最近は“指示待ち族”が増したとも言われていますが……。
古葉: 僕らが見ている子たちは、意外とそういう面ではあまり気にしないでいいですね。野球部のOBが就職した会社の社長とも、時々お会いするんですよ。すると、その社長さんから「野球部は10人でも20人でも、いいけんね」と言っていただけるんですね。そのくらい、いい態度で頑張っているのだと思うんですよ。就職っていうのは、1年間は会社に入って勉強して、色んなことを覚えていく。まず何が大切かと言ったら、皆さんときちっとした態度で接しているかどうかですね。野球を通じて、「それだけはしっかりしていこうじゃないか」ということを言っているんですね。

二宮: “言われるうちが華”なんて言いますし、選手たちも“期待してもらっている”と思うんでしょうね。
古葉: そうでしょうね。ただ、これがプロの場合だと違います。お金を払って、ファンの方が見に来ていただいているわけですから。それに見合った野球ができなければ、ベンチに帰ってきた時に、「何してるんじゃ!」と叱り飛ばしました。高橋慶彦なんて、よく叱ったものですよ(笑)。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2013年12月5日号)に古葉監督のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>