二宮: TETSUYAさんが「ダンスはスポーツ」と考えるようになったきっかけは?
TETSUYA: EXILEに入って3年ほど経った頃、いろいろなことを考えるようになったんです。ダンスを10年以上やってきて、やはり気持ちが高ぶるダンスはHIP-HOP。映像で黒人の方のダンスを見ると、すごくテンションが上がります。でも鏡に映っているのは日本人の自分。追求したい気持ちと、真似しても絶対に敵わないだろうなという葛藤がありました。しかし、この黒人文化をスポーツ的要素として考えれば日本人らしい“何か”が生まれるんじゃないのかなと思ったんです。そこで「ダンスってやっぱりスポーツだな」と。カルチャーだったダンスを、スポーツという分類で認めてもらいたいという気持ちになったんです。

 アヤックスとEXILEの共通点

二宮: それで「パフォーマンス研究所」を立ち上げられた、と。オランダの名門・サッカークラブAFCアヤックス視察はTETSUYAさんが熱望して実現したそうですね。
TETSUYA: たまたまアヤックスがスポーツ教育に長けているという内容の記事を読んだんです。LDHにもEXPGという下部組織があります。教育面において自分はどういうことができるのかと考えていた時期でしたので、「素敵なところだな」と思いました。そこで、adidasさんに「視察させてください!」と半ば無理やりお願いしたんです(笑)。

二宮: 実際に視察されて感じたことは?
TETSUYA: 一番びっくりしたのは、アシスタントコーチとして選手を指導するデニス・ベルカンプを見たことです。ベルカンプはアヤックスの下部組織出身で、スーパースターになって、古巣に帰ってきている。それはなぜかというと、アヤックスで教わったことにすごく感謝していて、クラブに恩返しがしたいから。僕はEXPGのインストラクターをしていたのですが、ベルカンプの話を聞いて、「EXPGからも、EXILEに加入して、またEXPGにインストラクターして戻るような子がいつか出たらいいな」と思いました。そのために、EXPGのスポーツ教育というものをもっと底上げして、レベルアップしていく必要があると感じています。

二宮: アヤックスの下部組織は非常に充実しています。そのあたりも、EXILEが今後目指す方向性と合致している、と?
TETSUYA: そうですね。実際、アヤックスと僕たちにはすごく似ているところがありました。視察した日は、翌日のUEFAチャンピオンズリーグの試合に向けてトップチームの選手がグラウンドで練習していたんです。「すごいな」と思ってふと隣を見ると、キッズたちが練習していました。憧れの存在が近い距離にいることは、すごく刺激になると思うんです。EXILEが普段練習しているスタジオでも、同じビルの1階にEXPGがあって子供たちが踊っている。この構図はすごくアヤックスと似ているなと。EXILEがいて、J Soul Brothers、GENERATIONS、E-girls、そしてEXPGがいるというピラミッドは(EXILE)リーダーのHIROさんが想像したかたち。それがようやくしっかりと見えてきたと思います。そこで、頂点であるEXILEの思いをどれだけ色濃く裾まで広げられるかを考え、僕は「TETSUYA’sカリキュラム」を作成して、全国のEXPGでレッスンを行っています。

 TETSUYA流マイコーチ活用法

二宮: “パフォーマー・TETSUYA”としてもお話を。「ダンスはスポーツ」とおっしゃいましたが、本当に休む暇がないですよね。長い時は、どれくらい踊り続けているんですか?
TETSUYA: 先日のツアーでは3時間半、踊りっぱなしでした(笑)。

二宮: マラソンのような持久力、ボクシングのような瞬発的な動きも求められる。つまりダンスにはあらゆる運動要素が入っているといえます。そのなかで、TETSUYAさんはどのように体づくりをされたんですか?
TETSUYA: EXILEに加入してからはスポーツトレーナーの方に指導していただいています。体幹トレーニングやスピナーやバランスボードを使った心拍トレーニングなどを3年ほど続け、自分に合ったトレーニング方法がだんだん見つかってきたと感じています。でも、今年は原点に戻って、「ダンスだけでどこまでできるのか」ということにチャレンジしています。基本的な体幹トレは行いますが、心拍トレの部分をダンスでどこまで鍛えていけるかを試しています。

二宮: トレーニングでは「miCoach Heart Rate Monitor for Bluetooth SMART(以下miCoach)」を使われているそうですね。
TETSUYA: 非常に役立っています。一度、miCoachを装着して、ライブ中の数値を計測してもらいました。何の曲で心拍数が一番上がるか、また停滞しているかがグラフで表される。それを見て、どのタイミングでゼリーを飲むか、水分をどれくらいとればいいのかを考えます。また、メンタル面においても、「この曲が一番きついから、ここに覚悟を持っていけば、気持ち的に乗り越えられる」と準備できます。カロリー計算もしてくれるので、1回のライブで2800〜3000キロカロリーくらい消費していることがわかりました。それからは、朝からしっかりとした食事を心がけています。

二宮: あれだけ激しい動きですからね。全身運動のダンスにおいて、負担がかかるのはやはり足腰?
TETSUYA: ヒザや足首、腰を痛めることはよくありますね。なので、トレーナーさんにしっかりとした筋トレ方法を聞いて、鍛えるようにしています。おそらく世界中を探しても、こんなにいい環境で踊れているダンサーはいないと思います。

二宮: 見栄えのいい筋肉と機能性に富んだ筋肉には違いがあります。3時間半も激しく動くということになれば、小さい機能的な筋肉も鍛えないといけないんでしょうね。
TETSUYA: そうですね。アウターマッスルとインナーマッスルをバランスよく鍛えて、EXILEのライブをするための体はどれがベストなのかを模索しています。

二宮: ライブ中、ケガをしそうになることもあるのでは?
TETSUYA: つりそうになることはあります。ライブ終盤に思い切りジャンプした瞬間に「ピキッ」と(笑)。でも、「やばい!」という顔はお客さんには見せられないので、絶対に笑顔は崩しません。

二宮: 辛い顔を見せられないのが、エンターテイメントのある意味、厳しいところですね。タイムをとるわけにいきませんから。
TETSUYA: もう、骨が折れるくらいじゃないとはステージから降りられないでしょうね(笑)。

 理想のダンスシューズ

二宮: ダンスシューズという新しいカテゴリー開拓にも取り組んでいる。今まではバスケットボールシューズでパフォーマンスしていたそうですね。
TETSUYA: EXILEのダンスパフォーマンスにはバッシューが最も適していると感じていました。ボリュームがあるので重さもあるのですが、ハイカットなので、足首の捻挫を防止できます。

二宮: そこでTETSUYAさんの知見や経験を反映して、ダンス用の靴をつくりたいと?
TETSUYA: やはりダンサーにとって靴はとても大事。いろんなダンサーに話を聞くと、ジャンルによって要望が違うんです。ソールは滑ったほうがいいという人もいるし、滑らないほうがいい人もいる。ローカットのほうがいい人もいれば、ハイカットのほうがいい人もいます。ですから、すべてのパーツが着脱可能で、ハイカットやローカットなど履口の高さも自在に調整できる靴が将来的にあったらいいなと。またEXILEとしてスーツで踊ることも多いので、スーツに合う靴をつくりたいですね。

二宮: クレーコート用もあれば、芝用もあるテニスシューズのように、舞台によって使い分けられれば理想ですね。
TETSUYA: ダンサーといっても屋外で踊っている人もいるし、クラブで踊っている人もいる。それぞれの踊る環境に合った靴ができればいいなと考えています。

二宮: 三村仁司さん主宰のミムラボにも行かれたそうですね。
TETSUYA: 行きました! おもしろかったですねぇ……めちゃくちゃ怒られましたけど(笑)。「足首、全然ダメですわ」だとか、たくさんダメだしされました。でも、様々な人の足を見てきている方なので、すごく勉強になりました。

二宮: 何か発見はありましたか?
TETSUYA: 左右のサイズが違うというのがわかりました。あと股関節や足首の弱さを指摘されて「毎日、スクワット100回を5セットやりなさい」と言われました(笑)。「ライブができなくなっちゃいますよ」と笑っていたんですが、それ以来、「今日はスクワットを多めにやろうかな」と気にするようになりましたね。

 ダンスを五輪競技に

二宮: 中学校の新指導要領にダンスが採用され、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けてスポーツ庁もできるようです。飲食店や教室などでのダンスを午前0時(一部地域は1時)以降禁じている風営法もこれから変わっていくでしょうね。
TETSUYA: そうなればすごく嬉しいですね。

二宮: また国内のダンスに対する理解や環境も変わってくると思います。そうなればTETSUYAさんたちの役割が非常に大きくなってくる。
TETSUYA: 僕自身、東京での五輪開催を心から願っていました。7年後に「EXILEとして五輪の開会式でパフォーマンスする」ことはどうしてもやりたい夢のひとつです。それも東日本大震災から約10年経過した時期に。僕らは「Rising Sun」という復興支援ソングを出させていただきました。その曲を開会式の最後に10万人くらいで一緒に踊れば、「日本はこんなに元気になりました」ということを世界にアピールできるんじゃないかと思うんです。五輪という舞台で踊りたい思いと、日本が被災した時に支援してくれた世界の国々に対する感謝の思いがちょうど重なって、すごく感動的なものになると想像しています。

二宮: 将来的には、ダンスを五輪競技にしたいそうですね。20年に間に合わせるのは難しいですが、いずれは、そんな時代がくるかもしれません。というのも、五輪では昔、建築、彫刻、絵画、文学、音楽の5部門を争う「芸術競技」も行われていたんです。簡単に言えば、文化祭と体育祭を一緒に開催していた。途中から分けたんですが、その名残でいまも『オリンピック憲章』の中には、「文化イベントのプログラムを計画しなければならない」と明記されています。
TETSUYA: へえ! それは初耳です。

二宮: 1964年の東京五輪の時には、「芸術展示」として歌舞伎が披露されました。ですから、新しい日本発祥のダンスを20年の東京五輪で披露するのは面白い試みだと思います。これから五輪組織委員会ができますから、TETSUYAさんが働きかけたら何か動きが出てくるかもしれませんよ。
TETSUYA: 夢が広がりますね。それを実現するためにも、7年後は今よりさらに輝いているように頑張らないといけないですね。7年後、僕は39歳になっています。40歳手前にして五輪に関われたら、何が見えるのかすごく楽しみです。ぜひ、そこに向かっていきたいですね。

TETSUYA
1981年2月18日生まれ、神奈川県横須賀市出身。19歳よりダンスを始める。02年、地元横須賀にてKENCHIとともに4人組のダンスチーム「POLY−3」を結成。横浜、横須賀、東京を中心にクラブイベントにて活動。その頃、AKIRAと出会い、04年8月、EXILE主演ミュージカル「HEART OF GOLD〜STREET FUTURE OPERA BEAT POPS〜」に出演した。その後、「FULCRUM」、「RAG POUND」を結成。ダンススクール「EXPG」でインストラクターを務める傍ら、様々なアーティストのPVやTV、ライブにてバックダンサーとして活動する。07年1月、「二代目J Soul Brothers」のメンバーに抜擢。09年2月25日、アルバム「J Soul Brothers」でメジャーデビューを果たす。そして同年3月1日、EXILEにパフォーマーとして加入。ダンサーのみならず、俳優としても活躍している。

(写真・構成/鈴木友多)
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