26、27日、さいたま市記念総合体育館で第4回関東カップ車椅子バスケットボール大会が行なわれ、男子は宮城MAX、女子はカクテル(近畿)が優勝し、ともに4連覇を達成した。5月17、18日に「内閣総理大臣杯争奪 第42回日本車椅子バスケットボール選手権大会」が控えている男子にとっては、出場チームが多く参加する関東カップは非常に重要な大会となっている。果たして、どんな手応えをつかみ、どんな課題が浮上したのか。2年連続で日本選手権の決勝で顔を合わせている宮城MAXとNO EXCUSE(東京)を追った。
(写真:日本選手権5連覇中の宮城MAX)
 「まだ、すべては出していない」

 昨年の日本選手権で史上初の5連覇を達成した宮城MAX。今回の関東カップでも王者の貫録を見せつけた。17日に行なわれた予選リーグでは、北関東選抜を93−28、川崎WSCを81−29で下し、決勝トーナメントに進出。そして、翌日の準決勝で千葉ホークスを74−52、決勝では埼玉ライオンズを79−60でかわし、同大会4連覇を達成した。

 しかし、危ない試合もなかったわけではない。最大の強敵とも言える千葉ホークスとの準決勝は第2クオーター途中までは一進一退の攻防戦が続き、一時は千葉ホークスがリードしていたのだ。しかし、終わってみれば20点以上の差をつけての快勝だった。

 序盤、千葉ホークスにリードされていたのは、戦略上の理由があったと岩佐義明ヘッドコーチは語る。
「うちは前からプレッシャーをかけていくプレスディフェンスをテーマにしているのですが、それを“この選手とこの選手が出てきたらやろう”というふうに話し合っていたんです。ところが、前半はその選手が出てきていなかった。それが相手にシュートを打たせてしまった要因のひとつになってしまいましたね。でも、選手権に向けていい経験になりました」

 とはいえ、宮城MAXは関東カップですべてを見せてはいない。
「あえてうちのシステムをあまり使わないようにしました。今回の試合を分析して、選手権ではどういうシステムがホークスにはフィットするのか、その辺を考えていきたいと思っています」
 宮城MAXの真の強さは、選手権までお楽しみというところか。

「うちの特徴であるトランジションの速いバスケに磨きをかけながら、ディフェンスでは最後まで粘って相手にシュートチェックをしに行く、そしてオフェンスはシュートの確率を上げることをテーマにやってきました。日本選手権では、昨年以上の強さを見せられると思いますので、楽しみにしていてください」
 6連覇への自信が揺らぐことはない。

 ローポインターとベンチの重要性

(写真:エース藤本には常に厳しいマークがつく)
 宮城MAXの一番の得点源は、日本代表のエースでもある藤本怜央(4.5)である。だが、その藤本に厳しいマークがつくことは少なくない。だからこそ、他の選手が重要なのだ。それを再認識させられたのは、決勝戦だ。第1クオーター終了後、22−6と早くも大差をつけていたにもかかわらず、岩佐ヘッドコーチは藤井新悟(1.5)と佐藤聡(1.0)に「もっとシュートを打たないとダメだ!」と語気を強めた。

「ハイポインターの選手だけにシュートを打たせるチームもありますが、うちは全員で点を取りにいくバスケをやっている。一番の得点源である藤本は常に厳しくマークさせられるのはわかっています。だからこそ、ローポインターの選手もシュートを打つことで、ディフェンスが彼らにひきつけられて、そこで藤本にいいパスが出せる。だからこそ、藤井や佐藤にもっと積極的にシュートを打つように指示したんです」
 全員が得点源であることが、宮城MAXの強さなのだ。

 また、さらにチーム力をアップさせるには底上げが重要だということも、岩佐ヘッドコーチは十分に理解している。そのことが垣間見られたシーンが、決勝の最後にあった。第3クオーターの中盤、宮城MAXが55−27と大きくリードしたところで、中澤正人(4.0)と向後寄夫(1.5)に代えて、田中大地(3.0)と加藤芳博(3.0)を投入した。しかし、そこからミスが多くなり、バタつき始めた。約2分間、相手が3本のシュートを入れたのに対し、宮城MAXは1本も入れることができなかったのだ。

 第4クオーター、残り約2分となった時、岩佐ヘッドコーチはベンチの田中と加藤に歩み寄り、「悔しいか?」と語りかけた。「悔しいです」という言葉を聞いた指揮官は、再び2人をコートへと送り込んだ。
「第3クオーターでは、2人とも、オフェンスもディフェンスもできなかった。うちの強みである走ることもできていなかったんです。それで叱咤激励の意味も込めて、最後に出しました。彼らが上がってこないことには、チーム力向上は図れませんからね。そこを期待して、最後に出したのですが、よく頑張ってくれたと思いますよ」
 ホンモノの強さは、チーム内競争にこそある。

 選手権に向けてつかんだ手応えと課題

 日本選手権では3年連続で決勝進出を狙っているのが、NO EXCUSEだ。しかし、決勝の前に立ちはだかるチームがいる。順当にいけば、準決勝で当たる千葉ホークスだ。今年に入り、練習試合と3月の長谷川杯で2度対戦しているものの、ともに完敗している強敵である。

 今回の関東カップでは予選リーグで対戦。NO EXCUSEはその試合に照準を合わせてきた。結果は48−53。負けはしたものの、互角の戦いと言ってもいいだろう。しかも、第4クオーターの序盤までリードしていたのはNO EXCUSEだったのだ。
「戦力的には、向こうの方が上だと思う。ただ、戦略がうまくいけば、戦えるという手応えをつかむことができた。これまで負けが続いたが、ようやくこの位置まできたかなと思っています。とにかく自分たちが持っているカードを次々と出していって、良そうなものをどんどん使いました。向こうがやりにくいかたちを仕込むことで、いい試合になったかなと」
 と及川晋平ヘッドコーチは手応えを語った。

 千葉ホークス戦に向けた戦略以外でも、及川ヘッドコーチがいい感触を得たものがある。 NO EXCUSEの課題のひとつである“シックスマン”の成長だ。主力のほとんどがベテランのチームにとって、連戦での体力面の問題は無視することはできない。及川ヘッドコーチはほぼフル出場することの多い菅澤隆雄(4.5)、安直樹(4.0)、森紀之(1.5)を休ませたい時、あるいはアクシデントに見舞われた時を想定した時の“ユニット”を探していた。今大会、いろいろと試していく中で、しっくりときたのが田中聖一(2.0)、湯浅剛(1.5)、大曽根桂太(4.5)の3人。指揮官を「新しいかたちに踏み込んでもいいのかな、と思わせてくれた」のが、順位決定戦の1戦目である川崎WSC戦の後半だった。

 なかでも勢いに乗ったのは、田中だった。第3クオーターのスタートから出場した田中は、オフェンスでは自らアウトサイド、ゴール下でのシュートを次々と入れると、味方への素早いパスでアシストも決めた。一方、ディフェンスでも相手のパスをスチールして速攻につなげるなど、疲れ知らずの22歳は、時間が進むにつれて勢いを増した。結局、後半戦でNO EXCUSEが挙げた25得点のうち、田中はひとりで13得点。能力の高さを示す結果となった。
(写真:川崎WSC戦で、力を発揮した田中)

 とはいえ、完璧だったわけではない。「相手に助けられた部分もある」と指揮官は語る。川崎WSCはベンチ入りのメンバーが少なく、主力はスタートから出続けることになる。前日にも2試合行なっており、疲労が蓄積していたのだろう。後半は動きが鈍くなっていたことは否めない。そのために、田中は縦横無尽に動き回り、思う通りに気持ち良くプレーすることができたのだ。実際、2戦目のソウル市庁チームとの試合では、動きの速い相手に、周囲を見る余裕がなく、バタバタしてしまっていたという。

「田中は確かにプレーヤーとしての能力は高い。ただ、彼のワンマンチームなら彼が良ければ勝つし、彼が悪ければ負けるでいいけれど、うちは違う。他にも選手はいるし、お互いにどういかしていけるかが重要。そういうバスケに田中がどうフィットしていけるか。相手のレベルが上がり、自分が止められた時に、周りをどう使うことができるか、これが今後の課題ですね」

 確実にアップしているシュート力

 一方、今やスタートから起用することも少なくない湯浅に対しては、もう一段レベルアップが欲しいと語る。
「確かにプレーは安定しているのですが、もっと大きく、広いプレーが欲しかったかなと思いますね。スペースを使うにしても、スピードにしても、もう少し距離を出すとか、スピードを上げて切り替えを早くするとか……。少しボールに集中するというか、詰めすぎる部分があったので、もっと距離やスピードの部分でコントロールできるようになれば、森のレベルにまでいけるのかなと思いますね」
 安定感抜群の湯浅だからこそ、もっとチャレンジしたプレーをして欲しい――。裏を返せば、高度なことを求められるほど、湯浅が成長した証でもある。

 チーム全体として、昨年までとの違いについて訊くと、及川ヘッドコーチは「精度の面では、明らかに昨年とは違います。フルモデルチェンジしたわけではないが、マイナーチェンジはうまくいっていると思っています」と自信を見せた。

 そのひとつが、シュートである。1年前、及川ヘッドコーチはこう語っている。
「これまではシュートにいくまでの過程がうまくいけば、『自分たちのバスケができている』と思っていた節がありました。でも、実際にはシュートを入れて初めてオフェンスとして完成され、結果が残る。だからこそ、ゴールするところまでを追求する練習をしています」

(写真:最後までフォームが崩れないことでシュートの確率を上げた安)
 ビデオなどで自らのフォームチェックをすることで、頭の中で描いていたフォームとの違いを確認して修正するなど、フィニッシュまでのかたちを求めてきた。その効果が表れている選手が増えてきているのだ。
「安にしても森にしても、シュートを打つ時のフォームはかなり改善されている。イージーなアウトサイドのシュートをほとんど決めることができているのも、フォームが安定してきているからだと感じました」

 日本選手権まで残り約3週間となったが、及川ヘッドコーチは「まだ時間がある」と語る。
「今回のことを踏まえて、もう少し整理していこうかなと。そうすれば、もっと出来上がってくると思います」
 日本選手権では、NO EXCUSEの完成形が見られそうだ。

 千葉ホークス、優勝候補の一角に

 さて、今年の日本選手権は宮城MAXの6連覇を阻むチームが出現するのか否かが注目される。その筆頭に挙げられているのが千葉ホークスだ。昨年、千葉ホークスは日本選手権に出場していない。予選通過することができなかったのだ。その悔しさを跳ね返すかのように、今年の千葉ホークスにはかつての強さが戻りつつあるように感じられる。3月の長谷川杯、そして今回の関東カップではいずれも3位に終わっているものの、王者・宮城MAXに長谷川杯では4点差、関東カップでは序盤でリードを奪うなど、最も善戦している。

 果たして、宮城MAXとNO EXCUSEは、今年の千葉ホークスをどう見ているのか。
「昨年とはまるで違いますね。宮城にも来て、一緒にトレーニングをしたのですが、すごくいいチームに仕上がってきていますよ。特にレベルアップしているのは、土子大輔(4.0)のシュート力。ベテランの伊東容臣(4.0)や植木隆人(2.0)も良くなってきていますね。そしてチーム全体的にスピードアップしています。侮れない相手ですよ」と宮城MAXの岩佐ヘッドコーチ。NO EXCUSEの及川ヘッドコーチも「山口健二(4.5)が戻ってきたことが大きいと思いますね。それと日本代表の土子、千脇貢(2.5)は安定感が増してきました。正直言って、戦力的に今、宮城MAXの次に強いのは千葉ホークスだと思いますよ」と語る。

 国内では最高峰の大会である日本選手権での優勝は、どのチームにとっても最も欲しい栄冠である。今年も熱戦が繰り広げられることは間違いない。果たして、どんなドラマが待ち受けているのか。そして、全国の頂点に立つのは――。5月17日、東京体育館にてバスケットマンたちのプライドをかけた戦いが幕を開ける。

※()内数字は障害の度合いによる持ち点。大きい数字の方が障害の度合いが軽い。

(文・写真/斎藤寿子)