二宮: 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定した影響もあって、国内でもパラリンピックへの関心が少しずつ高まりつつあるのを感じます。

伊藤: ソチパラリンピックの扱われ方も、4年前のバンクーバーの時とは明らかに違っていましたよね。日本人選手の活躍を目にしたり耳にすることが少なくありませんでした。

 

二宮: 20年まであと6年。長いようで短いこの期間で、どれだけ日本の社会が変わっていくことができるのか。その姿が、20年パラリンピックで確認できるのではないでしょうか。
田中: そう思いますね。スカパー! も東京パラリンピックをひとつのゴールとして考えているんです。もちろん、そこで終わりというわけではありませんが、東京パラリンピックでは、どの会場も観客で満員のスタジアムの映像を世界に発信するということを目標としているんです。

二宮: 満員になるということは、それだけ障がい者スポーツへの関心が高まったという証拠。そういう日本社会を世界に発信するということにもなる。

田中: おっしゃる通りです。では、どうすれば満員にできるのか。まず考えなければいけないのは、観客は何を見に来るのかということです。私は障がいを乗り越えて頑張っているというストーリーだけでは、満員にはならないと思うんです。もちろん、そういうストーリーが人を勇気づけたり、感動させたりする大事な要素であることは確かです。しかし、パラリンピックはあくまでもスポーツの祭典。そこに競技やアスリートの魅力がなければ、やはり会場を満員にすることはできないと思うんです。逆に言えば、障がい者スポーツには、会場を満員にするだけのスポーツとしての魅力がある。それを私たちがこの6年でもっと引き出していかなければならないと思っています。

 

 高齢化社会につながるパラリンピックの成功

二宮: 障がい者スポーツへの見方・考え方が変われば、環境も変わってくるでしょうね。これまでは健常者のみを対象としたスポーツ施設が多かった。でも、これからは障がいの有無に関係なく、スポーツを楽しんだり、真剣に競技として取り組んだりすることができることが、普通になるのではないでしょうか。

田中: そうですね。障がい者スポーツをスポーツとして振興していくことで、日本社会のハード、ソフトの両面が変わっていくことを期待したいですね。

 

伊藤: 65歳以上が総人口の4分の1を超えたというニュースがありましたが、日本はまさに超高齢社会まっただ中。年を取れば、誰もが身体のどこかが不自由になってくる。そう考えれば、障がい者に優しい社会づくりは、これからの日本には直結して役立つと言えます。

田中: 私もそう思いますね。今回のソチパラリンピックではチェアスキーの選手たちが活躍しましたが、彼らを見て車椅子生活の子どもが「アルペンスキーをやってみたい!」と思うのと同時に、車椅子に乗った高齢者が「自分もまだ、スポーツがやれるんじゃないか」と思ったかもしれない。そして、実際にやってみると、予想以上に難しいことがわかるわけです。そうすると、そこでまた、選手たちに対してのリスペクトの気持ちがわいてきて、障がい者スポーツやパラリンピックに興味をもつようになる......そんなサイクルが、日本の社会に生まれるといいなと思いますね。そして、それが20年東京パラリンピックの成功へとつながるはずです。

(おわり)

 

 <田中晃(たなか・あきら)プロフィール>
1954年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年、日本テレビ放送網株式会社に入社。箱根駅伝や世界陸上、トヨタカップサッカーなど多くのスポーツ中継を指揮した。さらに民放連スポーツ編成部会幹事として、オリンピックやサッカーW杯などの放送を統括。コンテンツ事業推進部長、編成局編成部長、メディア戦略局次長を歴任する。2005年、株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現・スカパーJSAT株式会社)執行役員常務となり、現在同社執行役員専務、放送事業本部長を務めている。


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