5日、テニス楽天ジャパンオープン最終日が行われ、シングルス決勝は世界ランキング7位の錦織圭が同8位のミロシュ・ラオニッチ(カナダ)をフルセットの末に下し、2年ぶり2度目の優勝を果たした。錦織は先週のマレーシアオープンに続いてのATPツアー制覇。自身初の2週連続優勝となった。ダブルス決勝は予選繰り上がりのピエール・エルベール&ミハル・プシシェズニ組(フランス)が第3シードのイワン・ドディグ(クロアチア)&マルセロ・メロ(ブラジル)組をゲームカウント2−1で破り、初優勝を収めた。
「信じられない。限界を乗り越えて戦えた」。熱戦を制した錦織は涙を流して喜んだ。2年前と同じ顔合わせとなった楽天オープンの決勝は、今年も勝者の名は変わらなかった。

 ラオニッチとは今季4度目の対戦。全米オープン4回戦で4時間を超える死闘を繰り広げたことは記憶に新しい。この日までの通算成績でも錦織が3勝1敗と勝ち越しているとはいえ、接戦必至で「やる度にバトルになる。簡単には勝たせてくれない」と、錦織にとって決してカモとは言えない。

 典型的なビッグサーバーのラオニッチ。196センチの長身から繰り出される時速230キロを超える強烈なサーブは、世界でも屈指だ。ATPツアーでのサーブ関連のランキングはどの部門でも上位につけている。今大会も準決勝までの4試合で59本のエースを決めている。そのサーブにどう対応できるかがカギになってくる。錦織によれば、陣営の指示は「いいサーブはあきらめろ」と、ある程度ポイントは捨てることで勝負をかけた。

 そのラオニッチのサービスから幕を明けた決勝戦。ラオニッチの得意とするサーブで、錦織は圧倒された。1球目からいきなりサービスエースを決められると、40−0からセンターに強烈なサーブを叩き込まれる。錦織がボールに触ることすらできぬノータッチエース。第1ゲームはラブゲームでラオニッチが先取した。

 第2ゲームは錦織がサービスキープ。第3ゲームはラオニッチが3本のサービスエースを決めて、キープした。続くゲームは40−15から錦織がバックハンドのクロスをコートの隅に決める。第5ゲームはラオニッチが取る。第6ゲームを錦織がラブゲームでキープすると、ラオニッチも第7ゲームをラブゲームで取り返す。互いにサービスゲームを落とさず、ゲームカウントは6−6。第1セットからタイブレークに突入する。

 ラオニッチのサービスから始まったタイブレークは、いきなり錦織がミニブレークで先取した。4−2と錦織がリードを奪ってコートチェンジ。一気に畳み掛けたかったが、ラオニッチも易々とセットを譲らない。錦織は3連続ポイント奪われ、4−5と逆転された。ここで錦織は意地を見せる。2連続得点でマッチポイントを掴むと、ラオニッチがネット際に詰めてきたところを、フォアで相手の横を射抜くパッシングショットを決めた。「タイブレークを取れたのはラッキーだった。もしあそこで落としていたら諦めていたかも」と振り返る錦織。大歓声に包まれながら、ベンチへと戻る。熱戦の末、第1ゲームをモノにした。

 第2セットは錦織のサービスからスタート。この試合初めてのデュースに持ち込まれ、ブレークポイントを掴まれるピンチを迎えた。錦織はここで粘りを見せ、連続ポイントでキープした。続く2ゲームは互いにラブゲームでキープ。第1セット同様、互いに譲らずゲームは進んでいく。すると第7ゲームに試合は動く。錦織のサービスゲームでラオニッチが40−30とブレークポイント。錦織は2度デュースに持ち込んだが、結局ブレークを許してしまう。

 錦織は続くゲームをラオニッチにキープされる。第9ゲームは取り返したが、第10ゲームは強烈なサーブが錦織を襲う。マッチポイントを取られると、最後はノータッチエースを決められた。第2セットは4−6で落とした錦織。彼にとっては2試合連続のフルセットで勝敗が決まる。

 ファイナルセットの始まりは錦織がラブゲームでキープした。第2ゲームは錦織がラオニッチのサーブを鋭くリターンするなど、相手のミスを誘う。この試合初めてブレークポイントを掴んだが、ラオニッチに追いつかれてしまう。結局、ラオニッチにアドバンテージを握られ、サービスエースを決められた。

 このセットも互いにサービスを譲らない。ラオニッチがサーブで押してくるならば、錦織は多彩なショットで対抗。ドロップショットやロブショットを使い分け、相手を翻弄した。そしてゲームカウント5−4で迎えた第10ゲーム。ついに均衡が崩れる。仕掛けたのは錦織だった。ラオニッチのサーブを拾うと、ネットプレーに出た。ここを確実に決めて先制点を奪う。

 次はバックハンドでラインいっぱいに決め、連続ポイント。ここでラオニッチはチャレンジを選択した。ビデオ判定の末、ボールはラインぎりぎり入っており、ラオニッチのチャレンジ失敗。そして続けて得点を重ねてチャンピオンシップポイントを手にする。1点を返されたものの、最後はラオニッチの返球がネットにかかった。6−4でセットを取り、勝敗は決した。

「最後はサービスキープだけ。何を考えているかわからない状態だった」と振り返るほど、いっぱいいっぱいの中での戴冠だった。ラオニッチと握手し、審判に挨拶を終えるとコートの真ん中に倒れ込んだ。勝利が決まった後も冷静な面持ちだった錦織も、死力を尽くした戦いに込み上げてくるものを抑えきれなかった。

 大会途中に痛めた右臀部も含め、「体のことで精一杯だった」と決して万全でない中の勝利。「またひとつ壁を破れた」と胸を張った。限界を超えられた要因は「全米オープンで2週間戦えたことが自信になった。今までトレーニングを積んできたおかげ」と、心身ともに成長した姿を母国日本で見せた。

 特に錦織は精神的な逞しさが光る。今季、ファイナルセットまでもつれた試合は17勝2敗と9割近い勝率を誇っている。グランドスラムという気持ち的にピークとなりやすいビッグマッチの後に2連勝するなど安定感も増してきている。これで今季ツアー4勝目。目標としているATPワールドツアーファイナル(11月、イギリス・ロンドン)出場のための暫定ランキングも5位に浮上した。

 グランドスラムでの決勝進出、世界ランキング7位。そしてツアー7度目の優勝、今まで日本人が到達できなかったポジションを、錦織はどんどん越えていく。“ビッグ4”の座を揺るがすのは、この男しかいない。

錦織2(7−6、4−6、6−4)1ラオニッチ

(文・写真/杉浦泰介)