14〜16日、3日間にわたって行なわれたJWTAマスターズ。男子シングルスは世界ランキング1位の国枝慎吾が2年ぶり7度目の優勝を果たし、女子シングルスでは同じく世界ランキング1位の上地結衣が7連覇を達成。男女混合のクアードでは川野将太が自身初の連覇となる4度目の優勝を果たした。いずれも決勝でストレート勝ちをおさめ、優勝トロフィーを手にした。
(写真:優勝した国枝<左>と上地)
 国枝vs.眞田、1カ月前の再現

 男子シングルス決勝は、約1カ月前のアジアパラ競技大会と同じカードとなった。今年年間グランドスラムを達成し、王者に君臨し続けている国枝と、強烈なフォアハンドを武器とする世界ランキング9位の眞田卓だ。2人の公式戦での対戦は過去2度ある。2011年のジャパンオープン準決勝と、今年のアジアパラ決勝だ。いずれも国枝がストレート勝ちをおさめている。

 前日の準決勝でベテランの齊田悟司に6−1、6−2で快勝し、決勝進出を決めた国枝にコメントを求めると、こう自信を口にした。
「どんな相手でもリターンゲームで必ずひとつはブレークする自信はあるので、自分のサービスゲームさえキープできればというところはあります」

 一方、アジアパラの決勝では自ら「経験不足が露呈し、力を出し切れなかった」と語り、環境の変化にうまく対応することができなかったという眞田は、3度目となる国枝戦を前にして、次のように語っていた。
「今大会はいい調子で戦うことができている。特に準決勝ではアジアパラで課題として残ったクロスボールの精度も良く、いいテニスができた。モチベーションも上がっているので、アジアパラよりはいいテニスを見せられると思います」

 実は眞田にはモチベーションが上がっている理由があった。26日からロンドンで開催される、上位8人まで出場することのできる世界マスターズへの出場が急遽、決定したのだ。世界ランキング8位の三木卓也がケガのために欠場したことで、同9位の眞田が繰り上がったのである。
「世界の1位から8位までを決める大会。世界トップの選手といっぺんに対戦することのできる機会はめったにないだけに、貴重な経験になるはずです」

 眞田にとって、現在の世界ランキングトップ10で自らを除く9人のうち、過去の対戦で未だ勝つことができていないのは、わずか3人。そのうちの1人が国枝である。
「今、メンタル面が上がっているので、それでどこまで世界No.1にくいついていけるか、だと思っています」
 国枝も眞田も、調子の良さをうかがわせていただけに、試合は面白くなりそうな予感がした。

 国枝、“パワー”から“正確性”へ

(写真:初の決勝進出を果たした眞田)
 眞田のサービスから始まった第1セットの第1ゲームは、いきなりデュースの応酬となり、いかにも決勝戦という緊迫した雰囲気がコートを包み込んでいた。3度のデュースの末に、最後は眞田の強烈なサーブが厳しくワイドコースに入り、これを国枝がネットにかけ、眞田がなんとかこのゲームをキープした。ゲームカウント1−1で迎えた第3ゲームは、眞田にミスが続き、ラブゲームで国枝がブレーク。これで試合の流れは徐々に国枝に傾き始める。

 しかし、眞田も粘りを見せる。ゲームカウント1−5と追い込まれるも、第7ゲームを2本のサービスエースなどでキープすると、第8ゲームは3本続けてサービスリターンが決まり、ラブゲームでブレークバック。これで3−5となる。しかし、次のサービスゲームはゲームポイントを迎えた眞田にミスが続く。最後はラリーの末に国枝の厳しいコースへのフォアハンドのクロスを眞田は返すことができず、このセットは3−6で落としてしまった。

 続く第2セットの前半は、お互いにブレーク合戦となった。第2ゲームから第5ゲームまで、互いにブレークし合い、ゲームカウントは国枝リードの3−2。この時、眞田はチャンスだと考えていた。
「国枝選手はミスが増えると、自分のリズムを取り戻そうと、必ず(ボールパーソンへの)タオルの要求が増えるんです。これは流れを引き寄せるチャンスだなと思っていました」

 第6ゲーム、眞田は国枝にミスの多かったセンターにサーブを集めた。すると、この戦略がピタリと当てはまる。3本続けてポイントを奪い、40−0とした。国枝も眞田の戦略を読み、またもセンターへ来たサーブを強烈なフォアハンドで叩き返し、リターンエースを奪った。それでも、最後は国枝のサービスリターンがネットにかかり、眞田がこのゲームをキープ。これでゲームカウントは3−3となり、勝敗の行方はまったくわからなくなった。

 眞田が「よし、ここから流れをもっていくぞ」と気合い入れたのに対し、国枝はまったく動じず、戦略を練っていたという。
「相手がすごくいいテニスをしていたので、この勢いをどう抑えようかなと考えていました。そこでパワーテニスから、パーセンテージテニスに切り替えました」
 パワーで押してくる眞田に対し、国枝は正確性を重視したプレーで対抗した。これが功を奏した。第7ゲームをキープした国枝は、第8ゲームをフォアハンドの逆クロスでリターンエースを奪って、ブレーク。そして第9ゲーム、眞田が粘りを見せてデュースまでもつれるも、最後は国枝がフォアハンドのクロスを決めてゲームセット。国枝の2年ぶり7度目の優勝が決まった。

 大事なポイントを逃さない国枝の強さ

 この試合、「冷静な頭をもちながら、熱いプレーができた」と語る国枝。相手に流れがいきかかっても、まったく動じることなく冷静でいることができるのは、経験から引き出された強みなのだろう。
「テニスというスポーツは、1試合ずっと調子がいいことなんていうことはまずない。これはたとえフェデラーやジョコビッチでもそうだと思います。実力が伯仲している中ではあり得ることなので、その時間帯をどうごまかすか。それが大事なんです」
(写真:王者の貫録を見せた国枝)

 この試合第1セットの第1ゲーム以外、デュースまでもつれたゲームはすべて国枝が取っている。このことについて眞田はこう語っている。
「この試合はデュースまでいくゲームが多かったが、そこでポイントを取り切ることができなかった。そこが6−3、6−3というスコアに表れているのかなと思います」

 また、ふだん2人を指導している大高優コーチも同じような感想を述べた。
「眞田選手もいいテニスをしていましたが、大事なゲームやポイントを国枝選手がしっかりとおさえていた。もう1ポイント、眞田選手が国枝選手にプレッシャーをかけられていれば、もっと競った試合になったと思います。国枝選手はチャンスでミスがないし、厳しいショットが来る。やはりチャンスで自分の思い通りのボールがコートに収まらないと、世界No.1は崩せないなと改めて思いましたね」
 国枝の強さは揺るぎないものであることが、今年もまた、証明された。

 その国枝は、26日からのNECマスターズに出場し、今度は世界の頂を目指す。同大会には女子の前年優勝者である上地や、初めてのマスターズとなる眞田も出場する。果たして、今シーズンをどう締めくくるのか――。世界の舞台に挑む日本人3人の活躍を期待したい。

 今大会、優勝者の上地、川野のコメントは次の通り。

○女子シングルス優勝者・上地結衣
「この大会は小学6年から出場していて、自分にとっては思い入れのある大会。そういう大会でいい感触を得ての勝利というのはすごく嬉しい。来週はロンドンでシングルスの世界マスターズがある。それに向けても今日はすごくいい試合ができたと思う」

(写真:自身初の連覇を果たした川野)
○クアード優勝者・川野将太
「(決勝の相手の)平田(眞一)選手は同じ福岡県でいつも一緒に練習しているので、手の内を知り尽くしている同士。試合前から接戦になることは予想していたので、第1セットで4−0から4−3まで追いつかれても、冷静にプレーすることができた。第10ゲーム目で相手の30−0から逆転して、6−4で第1セットを取ったことが大きかった。今年は国内、国際ともに決勝進出はしても、あと一歩のところで負けてしまい、ずっと準優勝が続いていた中、今年最後の大会で優勝することができて嬉しい」

(文・写真/斎藤寿子)