8日、第89回全国高校野球選手権大会が開幕する。
 昨年と比較すると、駒大苫小牧のような突出したチームもなければ、高校通算本塁打記録を塗り替えた中田翔(大阪桐蔭)は出場せず、田中将大(現楽天)のような“怪物”もいない。さらに、今春の選抜大会を見てもわかるように、今年は各校の力量は拮抗している。しかし、それだけに1試合も見逃せない大会となりそうだ。
 いつ、どの試合で、どのチームがミラクルを起こし、どんなスター選手が誕生するのか――。いよいよ球児たちの熱い夏が始まる。
 今大会、最も注目されているのが最速155キロを誇るエース・佐藤由規を擁する仙台育英だ。佐藤は昨夏、今春と甲子園のマウンドを踏んでおり、大舞台での経験も十分だ。
 昨夏は宮城大会決勝が延長15回再試合となり、2日間で24イニングを一人で投げ抜いた疲労が十分に癒えないままでの甲子園入りを余儀なくされた。今春は大会直前の練習試合で小指を亀裂骨折し、負傷を抱えながらの出場となった。そのため、過去2回の大会は全力を出し切ったとはいえない。
 だが、今大会は万全な体調で甲子園入りしており、3年間の集大成として申し分ないピッチングが期待できそうだ。

 その仙台育英は強豪校揃いの“死のブロック”と言われるゾーンに入った。まず初戦の相手は春、夏1度ずつ日本一の過去をもつ智弁和歌山だ。さらにこのゾーンには、大阪大会で中田翔を完璧に封じ込んだ植松優友を擁する金光大阪、プロ注目のパワーヒッター、中村晃を中軸に置き強力打線を誇る帝京(東東京)など、全国トップレベルのチームがひしめき合っている。
 仙台育英が勝ち上がるには、打線がどこまで佐藤を援護できるかもカギとなりそうだ。

 今春、見事初優勝を果たした常葉菊川(静岡)は初戦で日大山形と対戦する。その日大山形は昨夏2年生エースとしてチームをベスト8に導いた阿部拓也が今年も健在だ。山形大会でも決勝で4失点と苦戦したものの、準決勝までは危なげないピッチングを披露した。
 阿部と春優勝投手の田中健二朗との投手戦が予想されるだけに、どちらの打線が均衡を破るかが注目だ。

 そして初出場ながら春準Vに輝いた大垣日大(岐阜)が再び甲子園に戻ってきた。東邦時代も合わせて25度甲子園出場を誇る名将・阪口慶三監督の下、どんな野球を見せてくれるのか。ピンチにも笑顔を絶やさないナインが夏も“大垣旋風”を巻き起こしてくれるに違いない。

 そして、今年も優勝候補の筆頭にあげられるのが駒大苫小牧(南北海道)。田中将大や本間篤史(現亜細亜大)のようなスター選手はいないが、チームとしての安定感は健在だ。3人の投手を擁する投手陣の豊富さ、どこからでも得点できる打線の充実さと攻守ともに層が厚い。
 その駒大苫小牧と初戦で対戦するのが今春8強入りを果たした広陵(広島)だ。投手にはキレのあるスライダーを武器とする野村祐輔、打線にはプロも注目する主将の土生翔平を擁し、非常にバランスのいいチームとなっている。仙台育英、智弁和歌山戦にも劣らないレベルの高い一戦となりそうだ。

 そのほか、“剛腕ツインズ”と称される山崎正貴と岩崎翔擁する市立船橋(千葉)、大会屈指のサウスポー・近田怜王の報徳学園など、活躍が楽しみなチームが目白押しだ。果たして、深紅の優勝旗をもって地元に凱旋するのはどのチームか。明日8日、熱戦の火蓋が切って落とされる。